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世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.75「本物になれば、周囲が放っておかないものです」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第75回は、若手を育てるのが上手なドゥカティについてなど。


TEXT: Go TAKAHASHI

初めてのコースでレイアウトをどう覚える?

2月11~13日、インドネシア・マンダリカサーキットでMotoGPの公式テストが行われました。完成したばかりのサーキットということですが、モトクロスのような路面でしたね……。ホコリが浮いているだけならまだしも、マシンが小石を跳ね飛ばしながら走っていて、さすがに厳しそうでした。

レース開催までには舗装をし直すとの話なので、改善に期待したいところです。ライダーたちには「コースを少しでもクリーンにするために走ってくれ」というリクエストがあり、一部ライダーからは「そんなことできないよ!」と不満の声があったそうですね。

僕が現役だったら、コース清掃のために走るなんてことはしなかったと思います。そんな状況で走っても何のプラスにもならないし、無駄にリスクを負う必要もないからです。初開催のサーキットなので、「少しでも多く走ることでコースレイアウトを覚えたい」という考え方もあるでしょうが、僕は初めてのコースでもすぐに自分にとって最良の走り方を見つけることができるタイプなんです。まぁ、だからこそグランプリ参戦初年度にチャンピオンになれたわけですが……(笑)。

1993年に参戦初年度でWGP250ccクラスのタイトルを獲得。1年限りのTelkorカラーをまとったTZ250Mはファンの眼に焼き付けられ、レプリカカラーの公道バイク・TZM(50cc)も発売された。 [写真タップで拡大]

初めて走るコースなのに、なぜすぐに走り方が分かるのか。自分ではあまり意識したことがないんですが、今振り返ってみると幼いうちから知らず知らずのうちにそういう訓練をしていたのかな、と思います。ポケバイやミニバイクは、日本各地のあちこちのコースに行ってぶっつけ本番でレースをするのが当たり前でした。ポケバイコースは逆回りやレイアウトを変えての練習もしました。

そういうことを繰り返しているうちに、「こういうコーナーは突っ込み重視より立ち上がり重視だな」とか、「こっちのコーナーは突っ込みを頑張った方がいいぞ」「次のコーナーがこうなっているなら、その手前はこういうラインで走ろう」「ここはコーナリングスピードでタイムを稼いだ方がよさそうだ」というコース攻略法が、パッと掴めるようになったんです。

グランプリに行き、初めてのサーキットでのレースに直面した時も、まずコース図を見ればどう走ればいいか何となく分かったし、スクーターや歩きで下見をすれば「ここのコーナーはあのパターンか」とすぐに理解できました。

レースでのコース攻略の基本は、僕の場合、「いかにスロットル全開時間を長くするか」ということでした。つまりは、しっかり減速して、いち早く向きを変え、いち早くスロットルを開ける、という立ち上がり重視の走り方ですね。排気量が変わったり、マシンのメーカーが変わったりしても、僕はそういう走り方を理想としていました。

コーナリングスピード重視、立ち上がり重視、どちらが正しいということはない

ライダーによって、いろんなスタイルがあります。ホルヘ・ロレンソなんかは僕とは逆で、典型的な「コーナリングスピード重視型」でしたよね。どっちが正しいというわけではなく、各ライダーによって理想とする走りが違う、というだけのこと。「立ち上がり重視」の僕の走りはいろんな状況に合わせやすいとは思いますが、ロレンソだって5回も世界タイトルを獲っていますからね。どっちがいい・悪いという話ではありません。

誤解されないように言っておきたいのですが、「初めての場所でもすぐに走り方が分かる」とか、「立ち上がり重視」「コーナリングスピード重視」なんていうのは、あくまでもレースでのライディングスタイルの話です。公道では本当に先に何があるか分かりませんから、立ち上がり重視も何もなく、ひたすらマージン重視。自分の操作スキルの範囲内でしか走りません。想定外の事態もできるだけ避けられる程度の余裕を、常に持っています。

僕だってひとりのバイク乗りですから、「速く走りたい」という気持ちになることは理解できます。でも、それよりも僕は長くバイクに乗りたい。だから目の前の「速く走りたい」「もうちょっと攻めたい」という欲は捨てます。そういう刹那的な欲は諦めて、もっと長くバイクを楽しむ方を選びます。

公道は、本当に不測の事態の連続です。汚れたサーキットよりもよっぽど危ない。そこで欲に駆られて無理をして転んだりケガをしたら、身体的にも、経済的にも、家族の理解も得られなくなって、バイクに乗れなくなってしまいます。僕の公道走行の目標は、とにかく長く楽しむこと。「目標達成のために無駄なリスクを避ける」という考え方は、チャンピオン獲得を目標にレースをしていた現役時代とまったく変わりません。

話がだいぶ逸れてしまいましたね(笑)。MotoGPの話に戻すと、はっきり言ってマレーシアとインドネシアの公式テストだけではまだよく分からない、というのが正直なところです。ホンダのポル・エスパルガロやアプリリアのふたりも好調ですが、本当にフタを開けてみなければ分からない。とりあえず3月6日の開幕戦・カタールGPはドゥカティのフランチェスコ・バニャイアが勝つかなあ、と予想していますが……。



若くて勢いのあるライダーに、できるだけ平等に勝てるマシンを与える

ジジ・ダッリーニャさんは原田さんがアプリリアで戦っていた時のチームマネージャー。当時からアイデアマンで、勝てるマシンとチームを作り上げていた。 [写真タップで拡大]

先日、ドゥカティのゼネラルマネージャー、ジジ(ダッリーリャ)と食事した時に、「バニャイアもいいけど、(ホルヘ)マルティンもいいぞ」と言っていました。確かにドゥカティはバニャイアを筆頭に、マルティン、エネア・バスティアニーニ、マルコ・ベゼッキ、ルカ・マリーニなど、勢いのある若手選手層が厚い! みんなMoto3やMoto2でバチバチにやり合いながら切磋琢磨してきたライダーたちばかりで、実力派揃いです。

ドゥカティは若手の発掘と育成がとても上手ですよね。ひとりの勝てるライダーに高額な報酬を支払うより、若くて勢いのあるライダーにできるだけ平等に勝てるマシンを授ける、というジジの考え方が功を奏して、結果的にドゥカティ帝国が築かれつつあります。

一方の日本メーカーは、若手に期待するよりも、ベテランの「勝てるライダー」に頼る傾向が強いですね。勝てるライダーがうまく機能しているうちはいいですが、ひとたびうまく行かなくなると総崩れになる可能性が高いのが難点だと思います。トップカテゴリーで若手を擁することは時間も手間もかかりますので、手っ取り早くベテランに頼りたくなる気持ちも分かります。でも、長い目で見た時にどちらが有効か……。

育成という話では、FIM MiniGPワールドカップが日本でも開催されますね。MotoGPにダイレクトにつながる新しいプラットフォームとして注目されています。僕個人の考え方としては、こういうルートがあってもいいと思います。……というか、どんなルートでも構わないから、「今、自分の目の前にあるレースを勝ち抜くこと」が世界への道だと思っているんです。

MiniGP経由だろうが全日本経由だろうが、僕にとってはどちらでも同じ。目の前にあるレースでチャンピオンになることが、次のステップでのチャンピオンにつながり、それが世界へとつながる、ということです。

僕自身はコツコツタイプで、自分にクリアできそうな目標じゃないと頑張れない性格です(笑)。目の前にあることをひとつひとつクリアすれば、いつか目標に届くだろう、と。グランプリ参戦初年度も、各メーカーの勢力図を見れば、「ランキング10位以内に入れればいいかな」と思っていましたし、もっと言えば「今シーズンは表彰台にも立てないだろう」とまで思っていました。それが初戦でいきなり勝てて、勢いづいてしまった(笑)。若手が勢いに乗ると、誰にも止められない、といういい例だったと思います。

育成に関してもう少し話すなら、「自分はそういうサポートを受けられないから、上に行けない」と言う若手もいますが、僕は違うと思う。上に行く子は、まわりが放っておかないものです。すごく厳しい話になりますが、「サポートしてもらいたい」なんて思っているうちは難しい。サポートする側が「サポートしたい」と申し出るぐらいになって初めて本物だと思います。MotoGPに集まり、その中でもトップ争いを繰り広げているのは、そういうライダーたちばかりです。

「そういうライダー」が頂点を競い合うMotoGP、3月6日の開幕が本当に楽しみです。新型コロナウイルス感染症の影響は少しずつ薄れ、だいぶ正常化しつつあります。気を付けながらも元の生活を取り戻したいですし、MotoGPもできるだけ中止や延期なく開催されることを祈っています。

ひとつ懸念しているのは、コロナ禍で人気が出た日本のバイク業界のことです。生活の正常化で「バイク離れ」なんてことになったら、寂しすぎます。せっかくバイクに興味や関心を持ってくれる人が増えたわけですから、業界としては積極的にバイクの楽しみ方を提案・提供して、乗り続けてもらわなくてはいけません。

日本は4大バイクメーカーのお膝元。各メーカーには、コロナ後にもバイクへの興味・関心を維持するために、ぜひ力を注いでもらいたいものです。メディアやレースOBの僕らが果たせる役割もあるでしょう。そうやってみんなで協力し合いながら、バイク業界の盛り上がりを続けていきたいですね!

2021年にチャンピオンを獲得した#20ファビオ・クアルタラロ選手、#21フランコ・モルビデリ選手を擁するMonster Energy Yamaha MotoGP。 [写真タップで拡大]

#04アンドレア・ドヴィツィオーゾ選手(奥)と#45ダリン・ビンダー選手のラインナップで戦うWithU Yamaha RNF MotoGP Team。 [写真タップで拡大]

Ducati Lenovo Teamは、2021年シーズン終盤に強さを見せた#63フランセスコ・バニャイア選手と、#43ジャック・ミラー選手。 [写真タップで拡大]

PRAMAC RACINGは#89ホルヘ・マルティン選手と#5ヨハン・ザルコ選手。マルティン選手は2021年に初勝利を挙げている。 [写真タップで拡大]

2020年チャンピオンの#36ジョアン・ミル選手と#42アレックス・リンス選手を擁するTeam Suzuki Ecstarは、新監督にベテランのリヴィオ・スッポ氏(左上)を迎えた。 [写真タップで拡大]

Repsol Honda Teamは#44ポル・エスパルガロ選手と、復調が期待される最強ライダー#93マルク・マルケス選手。 [写真タップで拡大]

LCR Honda ITEMITSUの#30中上貴晶選手と、LCR Honda CASTROLの#73アレックス・マルケス選手。 [写真タップで拡大]

Aprilia Racingは#41アレイシ・エスパルガロ選手、#12マーベリック・ビニャーレス選手。 [写真タップで拡大]

Red Bull KTM Factory Racingは#88ミゲール・オリヴェイラ選手と#33ブラッド・ビンダー選手のラインナップ。 [写真タップで拡大]

Tech3 KTM Factory Racingのライダーは#25ラウル・フェルナンデス選手と#87レミー・ガードナー選手だ。 [写真タップで拡大]

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