『個性派&傑作揃いの”メーター”年代記』と銘打って、1959~2021年のバイクメーター史を振り返った本特集。だがこれらのメーターが、どういった過程でどんな意図で開発されるのかについては、ほとんど知られていないもの。そこで編集部では、ヤマハに直撃インタビューを敢行。’21年に発売されたMT-09/トレーサー9GTを例に、メーター開発の裏側を探った。
●まとめ:ヤングマシン編集部(沼尾宏明) ●写真:YM/BM ARCHIVES ●インタビュー写真:ヤマハ発動機
ヤマハの最新事例
〈その1〉’21 MT-09/SP:小型化と見やすさを両立
コンパクトなフルカラー3.5インチTFTメーターを新開発。外部の筐体/内部とも小型化を徹底追求しつつ、多くの人が直感的に読み取りやすいよう、タコメーターを最上部、中央に速度計というスタンダードな配置としている。走りに集中してもらうために、色数も最小限に抑えた。なお開発初期では「D-MODE」などの文字が潰れ気味だったが、読み取りやすく変更(老眼にもやさしい?)。燃料計やグリップヒーターの表示も見やすい。
〈その2〉’21 トレーサー9GT:2画面で多彩な情報を示す
パネル左側のメーターはMT-09と共通ながら、右側には任意の情報を4つ表示できるサブパネルを設置。ツーリング時に欲しい多くの情報が瞬時に分かる。デザインは、スポーツツアラーとしての軽快感を重視。2枚のパネルをケースでつなげると重い印象になるので、削れる部分は削り、フローティングマウント風の造形としている。もちろん周囲の風景も見えやすい。表示項目の数はMTと同様だが、トレーサーはクルーズコントロールの目標車速も表示可能だ。
開発の初期段階からメーターもスタート
――バイクの開発において、どの段階からメーターに着手するのですか?
バイク本体の開発が始まった初期段階からですね。その時点でプロジェクトのメンバーで議論してメーターのコンセプトを決めていきます。
メーターのサイズ感は全体のシルエットに大きく関わってきます。また、最近のモデルは電子制御が増え、メーターに表示する項目が車両の機能と密接に関わってくるので、初期段階から開発する必要があります。メーターはハードとソフトの両面の開発があり、開発期間が長いので、初期からスタートさせています。
今回はMT-09とトレーサー9GTをほぼ同時に開発し、基本的に同じ3.5インチのTFT液晶メーターを新採用しました。狙ったのは、小型化と視認性の両立、そして直感的な操作です。
まず、このサイズにした理由は車体のシルエットを大事にしたからです。MTシリーズは初代から継続して、エンジン中心にマスを集中させる考え方ですが、特にメーターは車体の端に位置する部品。いかに小さく車体の中心へ寄せられるかが、”凝縮したマスの集中感”の外枠を決めます。これを実現するには、メーター内部の回路レイアウト/取り付け/構造のすべてが影響してくるので、車体全体と切り離して考えることはできません。
――小型化にこだわった?
はい。今回はこれまでの開発スタイルと少し違い、外装設計/回路設計/制御設計など他部門の開発者が集まり、ワイワイガヤガヤしながら作りました。また、メーターの外装設計はサプライヤーと進めるのですが、双方の回路設計者が同席して、コンパクトさを追求しました。構造的に薄くなりにくい部分も、メーターを段付き構造にするなどして外観から見える所を薄くしています。ここまで小型化を追求した例は珍しいですね。
――ほかにも苦労した点は?
2輪メーターは、直射日光にさらされ、水/ホコリ/振動など過酷な環境にある。その一方で小型化をすると、内部に熱が蓄積しやすいので、熱設計に苦労しました。
小面積の陣取り合戦? レイアウトにこだわる
――メーターを小型化すると、表示内容も限られてきますよね。
項目の配置と大きさは悩ましかったです。YZF-R1のTFTメーターは4.2インチですが、今回は3.5インチ。YZF-R1と電子制御の機能は遜色ないのに、よりコンパクト化する必要があったのです。
そこで、走行中に見たい情報を優先して上方に、優先度が低いものはなるべく下方にレイアウトしています。優先順位としては、まず第一に速度。バーグラフ型のタコメーターは開発当初、昔ながらの”指針型”もアイデアとしてはありましたが、面積が必要になりますし、先進的なモデルのコンセプトと合わない面があるので、バータイプに落ち着きました。
大きさで言えば、走行中に見たいギヤポジションと走行モードは大きい。さらにTFTは、従来のLCDと違い、同じ位置に異なる文字やマークを表示することが可能です。この機能を活かして、ライダーが表示項目を任意でカスタマイズできるようにしたり、走行時に不要な情報は隠すなどでスペースを稼ぎました。また、ギヤポジションのスペース全体を点灯させることで、シフトアップインジケーターも兼ねさせています。カラーなので、回転数の表示に応じて色も変えました。瞬時にどの回転域なのか、限られた面積の中で感覚的に判断できます。
開発にあたっては、実験ライダーのインスピレーションを重視しました。2モデルのメイン市場は欧州で、40~50代のベテラン層がボリュームゾーン。CADなどの画面上と実車では見え方の違う部分がどうしても出てくるので、この年代の方が見えやすい文字のサイズや配置を追求しました。
説明書を読まなくても直感的に操作できる点も重視しています。メーターパネル右側に右手のホイールで選択できる項目、左側に左手のスイッチで選べる項目を寄せて配置するなど、こちらも初期段階から検討を進めました。
最低限のルールはあれどかなり自由度は高い
――メーターの文字は大きさや書体に決まり事はあるのですか?
ほぼありません。”速度がはっきり見えること”や、ウインカーのインジケーターなどの大きさは法規で定められていますが、比較的自由度が高い。開発はゼロからスタートし、モデルコンセプトに応じて変えます。案の段階では今と配置などが異なりましたが、様々な試作を経て、使い勝手の良さを追求したのが今の形です。今回は走りに集中してもらうために、オリジナルフォントも新たに製作しました。
――バイクが安価だと表示要素が少なく、高価だと表示が多くなる?
表示する機能は車両全体の価格帯で決まってくる面があるので、ある程度は比例する関係と言えます。ミニマムだと速度とトリップメーター&オドメーターとなり、高価格帯からTFTメーターが採用されているという実情はあります。
――以前のシンプルなアナログと比べ、開発は難しくなってきている?
単純な設計だけで終わらず、近頃は制御と複雑に絡んできます。多機能化に比例して開発項目も急激に増えていますが、そのぶんお客様の楽しみにつながっていると思います。
――理想のメーターとは?
今回のモデルに関しては、走りを楽しんでもらいたいので”走りに集中できるメーター”にこだわりましたが、いかに各モデルのコンセプトに合致しているかが重要。理想のメーターはひとつではなく、各モデルごとに理想のメーターがあると思います。
〈余談〉ヤマハ MT-09&トレーサー9開発者の”好きなメーター”は?
メイトV50/T90[’07]
VMAX1700[’08]
YZF-R1[’15]
XSR900[’18-]
TMAX530[’17]
YZF-R1[’15]
WR250R[’07]
XV1900FD[’18]
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