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今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末永く楽しんでいくには何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回は量産バイクでは初めてDOHC4バルブ空冷並列6気筒を搭載したホンダCBXについて、メンテナンス上のポイントを明らかにする。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:徳永茂/YM ARCHIVES ●外部リンク:リモーション
【取材協力:リモーション】’90年代から活動を開始したリモーションは、全国のCBX/CB-Fシリーズユーザーから絶大な支持を集めているショップ。もっとも同店の取り扱い車種はメーカーや排気量を問わずで、昔ながらのオリフィス式を積層式に変更するフロントフォーク用バルブキット、タンデム用補助ベルト/グリップなどの開発も行っている。●住所:東京都西東京市南町1-5-11-1F ●電話:042-469-3412
整備が行き届いていれば現代の路上でも快適に走れる
随所に独創的な機構を採用しているうえに生産期間が短かったため、何となくコンディションの回復と維持が難しそうな気がするCBX。とはいえリモーション横川氏によると、このモデル固有の弱点はほとんど存在しないようだ。
「あえて言うなら、発電機への駆動力の断続を担当するACGプレート+スプリングの劣化や、クランクエンドのオイル滲みが挙げられますが、弱点というほどではありません。世間では2段がけのカムチェーン+ガイド/クラッチのダンパー/接点式のジェネレーター/レギュレターなどに問題が起こりやすいという説がありますが、これらの構造はCB‐F系と共通ですし、製造年を考えれば劣化は止むを得ないので、固有の弱点ではないでしょう」
なお車体に関しては、フレームの剛性不足や足まわりの頼りなさを指摘する人がいるようだが、そういった問題の大半は整備で解消できるという。
「もちろん完調な状態でも、現行車ほどの安定/安心感は望めませんが、車体がきちんと整備されていれば、CBXは現代の路上を過不足なく走れます。逆に操安性に違和感を持つCBXオーナーの愛車を点検すると、ステムやスイングアームピボットのベアリングが終わっていたり、リヤショックが抜けていたり、フロントタイヤが偏摩耗していたりすることが少なくないです。なお基本的に、ノーマルステムでのフロント18インチ化はオススメしていません。特に後期型のように前輪荷重が高い車両は、トレールの減少がハンドリング悪化の原因になりますから」
クランクシャフト:修正と研磨で吹け上がりが激変
一体鍛造のクランクはかなり丈夫で、曲がりが使用限度の10/100mmを超えていることはめったにない。リモーションの基準は3/100mm以内で、オーバーホール時にはバランス取りやラッピングも行う。
カムシャフト:カムは左右分割構造でジョイントは凹凸式
キャブレター:圧入式のSJが詰まりの原因になる
負圧式のケーヒン製6連キャブレターは、スロー系の詰まり(ジェットは圧入式)と同調のズレが定番トラブル。補修用純正部品の多くは欠品なので、オーバーホール時はアフターマーケットのリプロ品を使用。
クラッチ:クラッチのダンパーは3種が存在
クラッチアウターのダンパーは、前期型がラバー式で(上写真の下段左が’79年型で、右が’80年型)、後期型(上段)はスプリング式。なお同店でクラッチのリビルトを行う際は、段付き修正+ハードアルマイト加工を行う。
スタータークラッチ:現行車用パーツで耐久性を高める
スターター用のワンウェイクラッチはすでに欠品。リモーションでは中古品をベースとするリビルドを行っており、耐久性やフリクションの低減を考慮して、主要部品は現行車用に変更。価格は3万6720円。
オイルクーラー:容量の拡大で冷却性能を高める
冷却性能を高めるため、リモーションでは純正のほぼ倍の容量となる、オーバーサイズオイルクーラーを準備している。コアはデンソー製で、専用設計のステーはノーマルより堅牢な構成。価格は8万8500円。
エアクリーナーチャンバー:ラバーファンネルもリプロ品が存在
エアクリボックス内のチャンバー=ラバーファンネルとフィルターもリプロ品が存在。価格は2万520円/4644円。キャブにダイノジェットST-3キットを投入する場合は、パワーフィルター化を行う。
エキゾーストシステム:チタン素材を用いて好みの仕様を製作
ノーマルスタイルのリプロ品も存在するものの、同店では排気系に関しては6本出しや集合式など多種多様なワンオフ品をこれまでに製作。純正オプションを再現したエンジンガードは5万3784円。
ブレーキ:前後ディスクは2種類から選択
ブレーキキャリパー/マスターシリンダーは純正部品を用いてオーバーホールすることが可能。補修用のディスクは、純正と同様のソリッド仕様(フロント3万1600円/リヤ3万9600円)とフローティング仕様が存在する。
リヤショック:設定が自由自在のナイトロンが人気
リヤショックは、乗り手の好みに応じて設定が変更できるナイトロンが一番人気。ただし同店ではノーマルルックに近い物が欲しいユーザーのために、前期型用のアイコン/後期型用のプログレッシブも準備している。
スイングアームピボット:リヤサスペンションの作動性は軸受けの状況次第
’78~’79年型のスイングアームピボットは昔ながらのブッシュ支持。補修時はニードルベアリングコンバージョンキット(2万8512円)を使用することが多いが、新品ブッシュ/センターカラーを選択する人もいる。
カムチェーン&プライマリーチェーン:オーバーホール時に必ず交換したいチェーン関連部品
【DID製の強化カムチェーンを準備】2段がけのカムチェーンはハイボタイプで、リモーションではDID製の強化タイプを準備。クランクシャフトと排気カムを結ぶAは1万1280円で、排気→吸気カムに回転を伝えるBは7730円。CB-Fシリーズ用も存在し、価格はA=1万1000円/1万1850円B=7730円。
【テンショナー&ガイドを独自に復刻】単に摺動面が磨耗するだけではなく、カムチェーンテンショナーA/Bとガイドは折損することがある。純正は欠品になっているため、リモーションはB(3万8500円)とガイド(1万9800円)を独自に製作。Aのリビルド品は手持ちの中古を同店に送付することが前提で、価格は2万5920円。
【プライマリーチェーンも消耗品】プライマリーチェーンはリプロ品が存在。以前から欠品になっているテンショナーは、近日中に復刻仕様の販売を開始する予定だ。なおプライマリーシャフトに装着されるプライマリードリブンギヤとスタータークラッチフランジは、年式によって構造が異なり、静粛性では後期型が優位。
ACGコンバーションキット
発電に関する不安を完全に解消するため、リモーションでは無接点式のACGコンバージョキット(11万8800円)を開発。左は独自のフェーシング素材を貼り付けたACGプレートで、リビルド価格は2万8080円。
スターターモーター:高トルクの強化型で始動がイージーに
スターターモーターはリビルドすることが可能だが、同店はブラシ×4タイプの強化型を準備。ノーマルの新品とは比較にならないほどトルクが高いので、始動がイージーになる。価格は3万9600円。
スパークユニット:現代の点火キットで理想的な火花を実現
イグナイターに関しては、純正を再現したリプロ品を使うこともある同店だが、点火系一式を交換する場合は、強力な火花と理想的な進角特性が得られる、ASウオタニのSP2フルパワーキットを推奨している。
パーツ流通:性能の回復・維持にはリプロパーツが不可欠
最近になって旧車の再生に目を向け始めたホンダだが、CBXは対象外で、純正部品はほぼ壊滅状態。とはいえリプロパーツが充実しているため、現状では整備で困ることはないようだ。
「エンジンのオーバーホールで使う補修用の純正部品は、クランクシャフト/コンロッド大端のプレーンメタル/一部のガスケット/オイルシールぐらいです。それ以外のパーツは、ウチのオリジナルに加えてオランダ/イギリス/ドイツなどのリプロ品を使うことが多いですね」(リモーション 横川氏)
【6速クロスでエンジンを満喫】唯一無二のエンジンフィーリングを堪能しやすくする手法として、リモーションでは6速クロスミッション(47万8500円)を開発。なおリモーションでは、ミッション用ベアリングも独自に設定。
【現代的な表面加工を導入】補修用のオーバーサイズピストンは、+0.25mmと+0.5mmの2種を準備。製法は純正と同じ鋳造で、ヘッドにはアルマイト、スカートにはモリブデンコートが施される。価格は11万円。
【専用設計品を忠実に再現】’78~’80年型が採用した丸型ブラックボディのウインカーは、CBX以外に採用車が存在しない専用設計。純正はすでに欠品だが、リプロ品が入手できる。価格は6696円。
【ツメの強度を増した対策品】サイドカバー(2万9700円)とテールカウル(5万8300円)はリプロ品で対応。いずれも金型を用いたABS樹脂製で、サイドカバーは折れやすいツメ部分の強度を増した対策品。
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