今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回は量産バイクで初めてDOHC4バルブ空冷並列6気筒を搭載したホンダCBX[1000]を紹介する。まずはこの名車の特徴と歴史について振り返ろう。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:徳永茂/YM ARCHIVES ●外部リンク:リモーション
大反響を巻き起こしつつもセールスでは予想外の苦戦
’60年代初頭に年間販売台数で欧米の古豪を抜き去り、’66年にサイドカーを除く世界GP全クラス制覇を実現。’69年に量産初の並列4気筒車となるCB750フォアを発売したことで、名実ともに世界一の2輪メーカーとなったホンダ。もっとも’70年代後半の大排気量車の世界では、カワサキZ1系を筆頭とするライバル勢の台頭で、ホンダの存在感は薄れつつあった。中でも欧州におけるシェアの縮小は、同社にとって深刻な問題だったようだ。
そんな状況を打破するため、当時のホンダは”ノルマンディ上陸作戦”というコンセプトを掲げ、欧州市場の覇権奪還を念頭に置いた14機種もの新型車を開発。このプロジェクトで旗艦を務めたのが、同時代の他社製リッターバイクを圧倒する動力性能と存在感を備えた「CBX」だったのである。
もちろん、量産初にして唯一のDOHC4バルブ空冷並列6気筒を搭載したCBXは、’78年の登場時には世界中で大反響を巻き起こした。とはいえ、車体の重さと価格の高さがネックになり、さらに翌’79年にデビューした並列4気筒のCB750/900Fの方が運動性能では優れた資質を備えていたため、セールス面では苦戦。’81年にはツアラー指向を強調した大幅刷新が行われたものの、以後もCBXの販売台数が上昇することはなかった。
さて、改めて文字にするとなんだか悲運のバイクのような気がしてくるCBXだが、見方によっては’60年代のGPレーサー、RC166/174のレプリカと言うべきこのモデルを抜きにしてホンダの歴史を語ることはできないし、その唯一無二のフィーリングを愛するライダーは世界中に数多く存在する。今回の取材に協力してくれたリモーションの横川貴彦氏もそのひとりで、CBXとの付き合いは四半世紀に及ぶと言う。
「CBXに関する状況で、ここ最近で一番変わったことは、2年ほど前から中古車相場が急激に上昇したことです。ただしもちろん、価格が高い=調子がいいとは言い切れないですよ。基本的には約40年前に生まれた車両ですから、これまでの整備履歴が明確ではない車両は、どんなに外観がキレイでどんなに走行距離が少なくても、本来の調子を取り戻すためには、エンジン/車体/電装系ひと通りの整備が必要と考えたほうがいいでしょう。まあでも、それはCBXに限った話ではなく、ウチのもうひとつの柱であるCB‐Fシリーズも含めて、旧車全般に言えることですけどね」
運動性能や耐久性では熟成が進んだ後期型が優位
大雑把に分類すると、CBXにはネイキッドの前期型とツアラーの後期型が存在し、市場における人気は前期型が圧倒的に上。ただし運動性に関しては、プロリンク式リヤサスペンションを導入し、フロントディスクをφ276mmソリッド→φ295mmベンチレーテッドに、前後キャリパーを片押し式1→2ピストンに、フォークをφ35→39mmに変更した後期型のほうが優勢なのだ。
「後期型はエンジン内部に関してもいろいろと対策されているので、スタイルにこだわりがなくて、単純に往年のホンダ製空冷並列6気筒を味わってみたいのであれば、熟成が進んだ後期型という選択肢は大いにアリだと思いますよ。ただし車重は前期型+25kg以上なので、後期型を日常的に乗るなら、カウルは外したほうが取り回しなどは楽かもしれません」(横川氏)
なおCBX-ZとCBX-Aは、パッと見ではほぼ同じに見えるが、前後ホイール/ショック/スイングアーム/カムシャフトなど、相違点は意外に多い。
2021中古車相場は200~500万円:近年になって急激に高騰!!
少なくとも数年前までは、100万円台の中古車が数多く存在したCBXだが、近年の相場は、前期型250万円~、後期型200万円~。なお現役時代のライバルだったカワサキZ1300は、まだ極端に価格が高騰していないようだが、生産期間が約10年に及んだにも関わらず、日本市場での流通量はCBXより格段に少ない。
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