
●文:モーサイ編集部(阪本一史)
現在もラインナップされ続ける、カワサキ250cc並列2気筒車
空冷4ストのZ1やWシリーズ、2ストなら3気筒のマッハシリーズ、カワサキ往年の名車というとこれら3モデルが代表されがちだが、大型自動二輪免許の取得も困難だった時代、多くのライダーに実際愛用されていたのは、軽二輪=いわゆる250クラスであった。
なかでもカワサキは、現在に至るまで250クラスに並列2気筒を積極的に投入してきたメーカーで、エンジン自体も長く活用されるケースが多いのが特徴といえる。当記事ではまず、1980年代のカワサキ250cc並列2気筒モデルの系譜を紹介したい。
1970年代に軽二輪車が担ったポジションは…
125cc超250cc以下の軽二輪は、一般道での制限速度は上位クラスの自動二輪と一緒で(1992年以前は“中速車”という扱いだった)、高速道路にも乗れる。しかも車検が不要のため、手軽でコスト面の負担が少ないのもメリットだ。また、ユーザーを取り込むための入門車という重要な役割も持っている。
そのため、1960年代から現在まで、各メーカーがさまざまな250ccモデルをラインナップしてきたが、かつては上位機種の400ccモデルがあって、その弟分として250クラスも揃える…という成り立ちが多かった。
その場合、400ccを前提とした車体に250ccエンジンが搭載されるため、必然的に250ccモデルは“重い車体にローパワーなエンジン”という組み合わせになる。
1970年代の例で言えば、ホンダはホークII CB400T(空冷4スト並列2気筒)に対してCB250Tを、ヤマハはGX400(空冷4スト2気筒)に対してGX250、カワサキはKH400(空冷2スト3気筒)に対してKH250といった具合だ。
例外はスズキで、250cc専用設計のRG250/RG250E(空冷2スト2気筒)を1978年に投入。250ccモデルは2スト/4ストとも20ps台が主流だった当時に、最高出力30psという性能、乾燥137kgという軽量な車重で、スプリンターぶりが好評だった(当時の250ccロードスポーツの車重は160〜180kg台が主流)。
コスト面を含め生産効率はよくないものの、専用設計なら軽二輪でも魅力が打ち出せることをスズキ RG250系は示したのだ。
カワサキZ250FT[1979-]:エンジン/車体ともに250cc専用設計の駿馬
そして1979年、カワサキは250クラスに新型車を投入。同社初の4スト250cc並列2気筒(空冷OHC2バルブ)を開発し、車体も専用としたZ250FTである。
【1979 KAWASAKI Z250FT】1979年1月発売のZ250FT。250cc専用設計で高回転まで回るエンジン、軽量な車体による俊足ぶりで、高い評価を得た。登場時の価格は31万8000円で、1982年まで販売された。■空冷4スト並列2気筒OHC 2バルブ 248cc 27ps/10000rpm 2.1kg-m/8500rpm ■シート高805mm 13.6L 153kg(乾燥) ■タイヤサイズF=3.00-18 R=3.50-18 ●当時価格31万8000円
エンジンは最高出力27ps/1万rpm、最大トルク2.1kg-m/8500rpmのスペックで、乾燥重量は153kgと軽量な4ストモデルに仕立てられた。180度位相のクランクで1万rpmまでパワフルに回るエンジンと軽快な車体で、2ストモデルに匹敵する加速力を発揮し、ヒットモデルとなる。
また、Z1000 MkII/Z750FX(I)/Z400FXなどを踏襲した直線基調の角型Zフォルムが、末弟のZ250FTにも採用され、“新時代のカワサキ”という風も感じさせた。
かくして、カワサキの4スト250cc並列2気筒はスタートしたのだが、同社は以降も250cc並列2気筒搭載モデルをラインアップし続け、21世紀の今に至っている。
時代に合わせ、空冷から水冷、キャブレターからFIへと進化したものの、じつはこの250cc並列2気筒は、Z1/W/マッハといったカワサキ名車の代表格よりはるかに長い期間(そして販売台数としても)カワサキを支えてきたと言える……
※本記事は2021年12月31日公開記事を再編集したものです。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
モーサイの最新記事
※この記事は別冊モーターサイクリスト2010年11月号の特集「YAMAHA RZ250伝説」の一部を再構成したものです。 ヤマハ RZ250のエンジン「2ストロークスポーツの純粋なピーキー特性」 ヤマ[…]
キーロック付きタンクキャップ:スズキGT380(1972) バイクの燃料キャップは、そもそもは転倒時の漏れ防止の安全対策からキーロック式が採用されるようになったが、その最初は1972年のスズキGT38[…]
「令和4年改正道路交通法(マイナンバーカードと運転免許証の一体化・オンライン更新時講習)ポスター」から抜粋 免許情報が記載された「マイナ免許証」は便利に使える? 運転免許証とマイナンバーカードが一体化[…]
ベースはCB750Four!新時代のスポーツ車を目指した「ホンダマチック」搭載モデル 1970年代の半ば、今回の主役「ホンダ・エアラ」のベースとなったCB750Aの紹介記事で「アメリカ人はオートマ車し[…]
房総半島の意外な魅力「素掘りトンネル」 東京から小一時間で行けるのに意外と秘境感あふれる千葉・房総半島。ここには味わい深い素掘りのトンネルが多数存在する。そんな異次元空間を求めて、半日だけショートツー[…]
最新の関連記事(バイク歴史探訪)
ボクサーエンジンの誕生、最強バイクとして世界中でコピー BMWといえば、2輪メーカーとしてスーパーバイクS1000系からボクサーのRシリーズなど、スポーツバイクで世界トップに位置づけられるメーカーだ。[…]
軽二輪の排気量上限=250ccスクーター登場は、スペイシー250フリーウェイから ホンダPCXやヤマハNMAXなど、ボディサイズは原付二種クラスでありながら排気量150〜160ccの軽二輪スクーターを[…]
1965年までは“クルマの免許”に二輪免許が付いてきた 80歳前後のドライバーの中には、「ワシはナナハンだって運転できるんじゃよ、二輪に乗ったことはないけどな(笑)」という人がいる。 これは決してホラ[…]
ホークシリーズ登場後、すぐにホークIIIを投入。“4気筒+DOHC”勢に対抗したが… 1977年の登場から1〜2年、扱いやすさと俊敏さを併せ持つホークシリーズは一定の人気を獲得したが、ホークII CB[…]
生産台数の約7割を占めた、ハーレーの“サイドカー黄金時代” 1914年型のハーレー初のサイドカー。ミルウォーキーのシーマン社がカー側を製作してハーレーに納入。マシン本体にはカー用のラグが設けられており[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車 | カワサキ [KAWASAKI])
カワサキW800(2017) 試乗レビュー この鼓動感は唯一無二。バイクの原点がここに 1999年2月に発売されたW650は2009年モデルを最後に生産を終了。その2年後の2011年、ほぼ姿を変えずに[…]
カラーバリエーションがすべて変更 2021年モデルの発売は、2020年10月1日。同年9月にはニンジャZX-25Rが登場しており、250クラスは2気筒のニンジャ250から4気筒へと移り変わりつつあった[…]
マーヴェリック号の燃料タンク右側ステッカー エンタープライズに配属された部隊 赤いツチブタは、「アードバークス」の異名を誇る米海軍「第114戦闘飛行隊(VF-114)」のパッチ。1980年代には第1作[…]
「ガンマ」が火をつけたレプリカ戦線にカワサキも参入 スズキRG250Γ(ガンマ)の登場で活気づいたレプリカ戦線に、勇んでカワサキも参入する。 1984年に投入されたKR250は、異彩を放つタンデムツイ[…]
8耐の熱い走りを思わせるライムグリーンと赤の差し色 2020年モデルの発売は、2019年9月1日。250ccと基本設計を共通化した2018年モデルにおけるフルモデルチェンジ時のスペックを引き継ぐ形で登[…]
人気記事ランキング(全体)
カワサキ500SSマッハⅢに並ぶほどの動力性能 「ナナハンキラー」なる言葉を耳にしたことがありますか? 若い世代では「なんだそれ?」となるかもしれません。 1980年登場のヤマハRZ250/RZ350[…]
マーヴェリック号の燃料タンク右側ステッカー エンタープライズに配属された部隊 赤いツチブタは、「アードバークス」の異名を誇る米海軍「第114戦闘飛行隊(VF-114)」のパッチ。1980年代には第1作[…]
※この記事は別冊モーターサイクリスト2010年11月号の特集「YAMAHA RZ250伝説」の一部を再構成したものです。 ヤマハ RZ250のエンジン「2ストロークスポーツの純粋なピーキー特性」 ヤマ[…]
カラーバリエーションがすべて変更 2021年モデルの発売は、2020年10月1日。同年9月にはニンジャZX-25Rが登場しており、250クラスは2気筒のニンジャ250から4気筒へと移り変わりつつあった[…]
公道モデルにも持ち込まれた「ホンダとヤマハの争い」 1980年代中頃、ホンダNS250Rはヒットしたが、ヤマハTZRの人気は爆発的で、SPレースがTZRのワンメイク状態になるほどだった。 しかしホンダ[…]
最新の投稿記事(全体)
カワサキW800(2017) 試乗レビュー この鼓動感は唯一無二。バイクの原点がここに 1999年2月に発売されたW650は2009年モデルを最後に生産を終了。その2年後の2011年、ほぼ姿を変えずに[…]
旧車の開発に使われた”鉱物油”にこだわる 1992年に創業した絶版車ディーラーのパイオニア・ウエマツ。販売だけでなく、整備にも徹底して力を注いできた同社がそのノウハウをフィードバックし、旧車に特化した[…]
インパクト大なシリーズ初カラー 現代的ストリートファイターのMT-09をベースに、アルミタンクカバーなど金属の質感を活かした専用外装などでネオレトロに仕上げられた1台であるXSR900。3種のパワーモ[…]
イベントレース『鉄馬』に併せて開催 ゴールデンウィークの5月4日、火の国熊本のHSR九州サーキットコースに於いて、5度目の開催となる鉄フレームのイベントレース『2025 鉄馬with βTITANIU[…]
ロングツーリングでも聴き疲れしないサウンド 数あるアドベンチャーモデルの中で、草分け的存在といえるのがBMWモトラッドのGSシリーズ。中でもフラッグシップモデルのR1300GSは2024年に国内導入さ[…]