MVアグスタは、イタリア・ミラノで開催中のEICMAで『LUCKY EXPLORER PROJECT(ラッキー エクスプローラー プロジェクト)』と名づけた2台のアドベンチャーマシンを発表した。『5.5』は554cc水冷並列2気筒エンジン、『9.5』は931cc水冷並列3気筒エンジンを搭載し、走行特性がまったく異なる2台となっている。
●文: 山下剛
パリダカを制したカジバの偉業を再現するMVアグスタによる2台のアドベンチャー
1980年代はパリダカールラリーの全盛期だった。1979年の第1回でヤマハ・XT500が優勝すると、BMW R80G/Sとホンダ・NXR750が覇権を争った。そして90年代に入ったとき、間隙をついて優勝を果たしたのがカジバ・エレファント900だ。カジバはさらに94年にもエレファントでパリダカを制している。
MVアグスタが発表した『LUCKY EXPLORER PROJECT』は、そのオマージュであり、ヘリテイジだ。当時、パリダカに参戦したエレファントの車体には、『LUCKY EXPLORER』の赤い丸印のロゴマークが、カジバのメインスポンサーとして燦然と輝いている。
さて、新しいバイクファンのためにMVアグスタとカジバとの関係を簡単に説明しておこう。MVアグスタは1923年にイタリアで創業、40年代からバイク製造を手がけ、50年代から70年代にかけてロードレースで活躍し、多くのチャンピオンシップを制した。しかし70年代後半、経営破綻に陥ったためにバイク製造からの撤退を余儀なくされ、その名を歴史から消した。
イタリアの一流レーシングブランドの消滅に対して、黙っていられなかったのが、父が興したカジバ社を継いだクラウディオ・カスティリオーニだ。彼は金属加工業だったカジバ社をバイクメーカーへと転身させると、たちまち成功をおさめる。そしてハーレーダビッドソン、ドゥカティ、モトモリーニ、ハスクバーナを次々と買収した後、ついにMVアグスタのブランド名を継承したのだ。そして99年には社名をカジバからMVアグスタへ変更し、現在に至っている。
そんな経緯をたどったカジバが80年代に製造していたデュアルパーパスマシン(当時はまだ“アドベンチャーバイク”という名称はない)が『エレファント』だ。エレファントには125、200、350、650、750、900と実に豊かな排気量バリエーションが生まれたが、650cc以上のモデルにはドゥカティ製空冷Lツインエンジンが搭載されていた。パリダカで2度の優勝を果たしたのも、Lツインを搭載したエレファントである。
このたびMVアグスタが発表した『LUCKY EXPLORER PROJECT 5.5/9.5』は、カジバ時代の歴史と偉業を再現するものだ。5.5と9.5の2台は搭載エンジンこそ異なれど、その外観はいずれもエレファントの力強い造形をしっかりとモチーフとしている。
5.5に搭載されるエンジンは、新開発となる554cc水冷並列2気筒エンジンで、鋼管トレリスフレームに搭載される。組み合わされるホイールはフロントが19インチ、リアが17インチとなっており、KYB製前後サスペンションによって、オフロードのみならずオンロードも快適に走破できる特性を意図している。
対する9.5は、やはり新開発となる931cc水冷並列3気筒エンジンで、F3などに搭載される800cc並列3気筒をベースとしている。ボア、ストロークともにアップして排気量を約130cc上げているが、エンジン外寸を変更することなく改良を果たした。その結果、エンジン重量はわずか57kgに抑えられている。
このエンジンはスチール製ダブルクレードルフレームに搭載され、フロントは21インチ、リアには18インチのワイヤースポークホイールが組み合わされる。このホイールはチューブレスタイヤに対応しており、オフロード走破性に優れる豊富なブロックタイヤを装着できる。
前後サスペンションはザックス製で、フロントフォークはφ50mm倒立、リヤはモノショックが装着される。これらは電子制御式で、ダンピング、コンプレッション、プリロードが路面や走行状況に応じて自動調整される。ストローク長はそれぞれ220mm、210mmと十分で、優れたオフロード走破性を持つ。そのほか8段階トラクションコントロールやクルーズコントロール、オートシフターなども搭載している。
MV AGUSTA LUCKY EXPLORER PROJECT 5.5
主要諸元■全長2220 全幅915 全高― 軸距1505 シート高860(各mm) 車重220kg(乾燥)■水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ 554cc 47.6ps/7500rpm 5.19kg-m/7500rpm 変速機6段 燃料タンク容量20L■タイヤサイズF=100/80ZR19 R=150/70ZR17 ●価格:未発表
MV AGUSTA LUCKY EXPLORER PROJECT 9.5
主要諸元■全長2270 全幅980 全高― 軸距1580 シート高850/870(各mm) 車重220kg(乾燥)■水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブ 931cc 123ps/10000rpm 10.4kg-m/7000rpm 変速機6段 燃料タンク容量20L■タイヤサイズF=90/90-21 R=150/70R18 ●価格:未発表
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