日本では’17年モデルを最後にラインアップから消えていたが、’21年型で3代目に生まれ変わったスズキ ハヤブサ。新型は販売店の予約開始からあっという間に年内の日本国内向け販売台数が完売してしまった。相変わらずの超絶的人気を誇る”最強の猛禽類”を、旧型2代目と比較しながら公道/テストコースで徹底試乗。ヤングマシンおなじみの丸山浩氏がテスターを務めた今回の特集、その結果を総括する。
●テスター:丸山浩 ●まとめ:田宮徹 ●写真:長谷川徹 真弓悟史 山内潤也 ●外部リンク:スズキ
“愛され続けてきた理由”はスズキが一番知っていた
発表当初、最高出力ダウンが驚きをもって伝えられた新型ハヤブサ。しかしそもそも、旧型が開発された段階で、スズキの開発陣はトップパフォーマンスを狙っていたわけではないのかもしれない。上質でスポーツも楽しめて速く移動できるマシン。これがハヤブサに求められてきたものだ。
その正誤はわからないが、少なくともユーザーは、そういう部分に関して旧型を愛してきた。少なくとも、ほとんどのユーザーはハヤブサを超高速域で走らせるなんてことは皆無で、そのトルク感やハンドリングやツアラー性を楽しんできたに違いない。
だからこそスズキは、新型を開発する際にスペック競争をやめた。既存のユーザーが使えない(使わない)部分を伸ばすのではなく、現実的な走行環境で実際のユーザーが使ってきた領域を磨いてきたわけだ。
最高出力はダウンしているが、低中回転域のパワー&トルクは増されているため、今回試乗した高速道路や峠道や市街地など、公道で実際に使うエンジン回転域では、どのシーンでも実質的にはパワーアップ。ただしこれは、主要諸元では数値として表れてこない。扱いやすさやハンドリングや上質な乗り心地というのも同様で、これらが数値的に表されることは難しいが、乗ればすぐにわかる。高度な電子制御システムにも頼りながら、新型はハヤブサが本来長所としてきた部分を伸ばしてきたわけだ。そしてそれは、開発陣が既存のハヤブサファンのことを大切に思っているからこその設計なのだ。
新旧を乗り比べたとき、電子制御の有無以外でもっとも差を感じるのは上質性と接地感。その結果、新型ハヤブサは長距離を快適に移動するマシンとしても、ワインディングでコーナリングを満喫するハンドリングマシンとしても、大幅にブラッシュアップされている。デザイン性が大幅に向上したことで、所有満足度も高められた。
メガスポーツツアラーとして、ムダに虚勢を張るのではなく現実世界の中で輝く存在を目指した新型ハヤブサ。新旧を乗り比べてみたら、その採点には大差がつくことになったが、これこそが”進化”と”深化”の結果だ。
35項目・1000点満点チェックシート
エンジン:配点次第ではもっと大きな差になる
項目 | 満点 | 新型 | 旧型 |
トルク感 | 50点 | 50 | 38 |
加速 | 50点 | 48 | 42 |
最高速 | 40点 | 35 | 40 |
エンジン特性 | 30点 | 30 | 25 |
レスポンス | 30点 | 30 | 30 |
静粛性 | 30点 | 30 | 20 |
クラッチ | 10点 | 10 | 5 |
シフト | 10点 | 10 | 2 |
ギヤ比 | 10点 | 10 | 10 |
※合計 | 260点 | 243 | 202 |
“シフト”項目の配点が10点満点だったので8点差で済んだが、シフターの有無がもたらす快適性や変速時の気持ちよさは、本来ならもっと大きな差に感じられる。ただ”ある”ということだけでなく、新型はその制御も素晴らしい。最高速は、馬力ダウンを考慮して旧型の点数を上にしたが、足まわりも最高速付近では旧型のほうがいいかも…。
シャーシ:新型が各項目で少しずつ上を行く
項目 | 満点 | 新型 | 旧型 |
扱いやすさ | 50点 | 50 | 44 |
コーナーリング安定性 | 50点 | 50 | 40 |
ステアリング特性 | 40点 | 40 | 34 |
確実性 | 20点 | 20 | 16 |
バンク角 | 20点 | 18 | 18 |
直進安定性 | 20点 | 20 | 18 |
フロントサスペンション設定 | 30点 | 30 | 26 |
リヤサスペンション設定 | 30点 | 30 | 28 |
※合計 | 260点 | 258 | 224 |
車体関連は、どこかの項目で極端に差がつくというよりも、すべてにおいて平均して新型が旧型以上という印象。バンク角のみ、峠道での試乗でどこかを簡単に擦ってしまうようなことがどちらのモデルにもなかったので同点とした。ちなみに前後サスペンションは新型のほうがよく動き、この点からも新型が実用速度域を大切にしている感じがある。
日常の使い勝手:デザインの進化が影響を与えた部分も
項目 | 満点 | 新型 | 旧型 |
足つき性 | 50点 | 50 | 48 |
ライダー快適性 | 30点 | 28 | 24 |
パッセンジャー快適性 | 20点 | 20 | 16 |
防風性 | 20点 | 20 | 18 |
バックミラー視認性 | 20点 | 18 | 20 |
ヘッドライト | 20点 | 20 | 16 |
装備 | 30点 | 30 | 16 |
操作性 | 20点 | 20 | 18 |
収納スペース | 10点 | 8 | 10 |
積載性 | 10点 | 10 | 8 |
航続距離 | 30点 | 26 | 30 |
※合計 | 260点 | 224 | 194 |
新型はデザインがかなり洗練され、近くで眺めても細部の造形が素晴らしい。たとえばバックミラーなんて、旧型は四角い鏡面で古臭い…のだが、空と地面がいっぱい映るこのミラーが、意外と後方視認の安心感を高めてくれる。収納スペースや、項目にはないがグラブバーの握りやすさなども、新型はデザイン性に優れる代わりに実用性では旧型に一歩譲る。とはいえ、外観の洗練度を考えたら大した問題には思えない。
安全性&コストパフォーマンス:今振り返ってみると旧型もスゴいが…
安全性
項目 | 満点 | 新型 | 旧型 |
ブレーキ力 | 30点 | 30 | 26 |
ブレーキコントロール性 | 30点 | 30 | 20 |
ABS性能 | 30点 | 30 | 18 |
トラクション性能 | 30点 | 30 | 12 |
※合計 | 120点 | 120 | 76 |
コストパフォーマンス
項目 | 満点 | 新型 | 旧型 |
価格 | 50点 | 48 | 48 |
質感 | 30点 | 30 | 10 |
燃費 | 20点 | 16 | 20 |
※合計 | 100点 | 78 | 58 |
ブレーキやトラクション性能は、電子制御も関わってくる部分で、新型が圧倒して当然。悩んだのは車両本体価格の設定。結果、引き分けとした。新型は旧型と比べて約50万円増だが、これだけ電子制御を満載してエンジンと車体を熟成したら、それも納得。一方で旧型も、日本仕様登場は7年前のことながら、現在の10%消費税換算でもこの性能で163万9000円だったというのは、なかなかスゴい!
1000点満点チェック・評価合計
満点 | 新型 | 旧型 | |
全体評価 | 1000点 | 923 | 754 |
【参考】ライバル”3忍”との違いとは?〈vs ZX-14R/H2 SX/H2〉
カワサキ勢のニンジャZX-14R/H2 SX/H2カーボンは、いずれもトップパフォーマンスを追求してきたモデル。その中でZX-14Rは、上質な乗り味という点で旧型ハヤブサを上回っていた。私はかつてそれを”マイグリーン車”と新幹線にたとえて表現したが、新型ハヤブサを含めたこの3台は、空の世界で表現するなら速く快適に移動できる”旅客機”の方向性だ。これに対して、H2カーボンは”戦闘機”。勝利こそが使命で、多少乗りにくかろうが暴れようが速さ優先だ。H2 SXは、そんな戦闘機のエンジンを使った旅客機で、ちょっとアンバランスな雰囲気。いずれにせよ、H2系の2機種は、上質でスゴい性能も持つ旅客機を目指したハヤブサとは、そもそもの立ち位置が異なる。
キャラクターMAP〈今度はハヤブサが中心的存在に!?〉
これまではZX-14R vs ハヤブサの図式で、洗練や熟成といった部分で旧型ハヤブサは劣勢だった。しかし新型はここに磨きがかけられ、かなり大きな存在に成長。再びメガスポーツ界の中心に立とうとしている。H2やH2 SXとはまるで路線が異なり、そう考えるとやはり14Rとライバル関係。H2と新型ハヤブサは対極にあり、存在感の大きさはどちらも同じとなるだろう。
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