スタンダードなGB350(以下STD)に対し、ライディングポジションをやや前傾姿勢とし、リヤタイヤ径を18→17インチに変更。外観もモダンかつスポーティに仕立てたバリエーションモデルがGB350S(以下S)だ。STDに遅れること約3か月、7月15日に発売となるSを連れ出して、STDとの比較試乗を敢行した!
●文: ヤングマシン編集部・松田大樹 ●写真: 長谷川 徹
ライディングポジションの差が2車のキャラクターを分ける
最初に述べてしまうと、SとSTDの差は驚くほど大きいわけじゃない。新設計の348cc単気筒エンジンが核となって生み出される、新GBの世界観はどちらを選んでも十分に満喫できる。しかしそれでもSとSTDには明確なキャラクターの差があったし、ゆえにSTDを買った後に“やっぱりSが良かった。ならばカスタムで…”と考える人がいても不思議はないのだが、その作業は少々ややこしいしお金も掛かりそう(後述)。なので、GBを検討している人はぜひ乗り比べて、後悔しない選択をして欲しいと思う。
まずは車体に跨る。もともとGB350はシート高が高めだが、Sは低く、かつ遠くなったハンドルによって上体が前傾するためか、腰高感がさらに強く感じられる(シート高は800mmで共通)。Sのシートは前端部がSTDよりやや幅広く、さらにサイドカバーの張り出し量が多いこともあり、実際に足着き性もやや悪化している印象だが、それらよりも低くなったハンドルがシートの高さを強調しているような印象だ。といっても、Sのライポジは前傾姿勢がキツすぎるとか、ステップが後ろ過ぎるなんてことはなく、街乗りからツーリングまで対応できそうなごく一般的なもの。STDは上体が完全に直立し、ステップもかなり前寄りという、今となっては珍しい“殿様乗り”のライポジ設定ゆえ、相対的にSをスポーティに感じるというだけのことだ。
そして、このライポジ設定が2車の性格を決定付けている。そもそもGB350の車格が大きめなこともあり、STDはこのクラスのバイクとしては珍しいほど安定感が強く、ライダーはどっしり走るバイクに乗せてもらっているような印象が強い。オフロード車にも一脈通じる、でっかい前輪がグルグル回っている手応えを味わいながら、歯切れのいいエンジンのパルスに包まれてユルユルと流すのが最高に気持ちいい。のんびり走るのが楽しいという意味ではクルーザーに近い性格とも言えるかもしれない。
その反面、ある程度以上のスピード領域に入ると、機敏に向きを変えるような走り方はやや苦手だと感じる。曲がり始めるまでに手応えというか、わずかな溜めがあるような印象で、これが独特のゆったりした操縦性、リヤタイヤを主軸に曲がるような旧車的な面白さにもつながっているのだが、スポーツライディング好きな人にはハンドリングが鈍いとか、直立性が強すぎると受け取られるかもしれない。
そういう意味ではSはぐっとスポーツ寄りだ。このクラスでは頭抜けた安定性や前輪の大径感は同様なのだが、曲がり始めるまでの溜めはかなり減っていて、STDよりも軽快にスイスイと向きを変えていく。低いハンドルで前輪の荷重が増したうえ、後方&上方に移動したステップ(バンク角もSTDより増えている)によって車体への入力もしやすくなっているのだろう。「GB350をより積極的に操縦できるライポジを得た」といった印象で、コーナリング時に感じる一体感はSTDより一枚も二枚も上手。もちろん、ユルユルと流せないわけでは全くないのだが、ツーリング先の峠道などで「チョイと遊んでいくか!」と思わせるような、STDではあまり感じないキャラが表に出ているのが面白い。
前後サスペンションの設定は2車に共通とのことだが、乗り心地が柔らかく、突き上げのカドも丸く感じられるSTDに対し、Sはごくわずかに硬く、ややザラザラと路面の印象を伝えてくる印象があった。これはSTDのダンロップGT601に対し、Sがメッツラー・ツアランスネクストとされたOEMタイヤの銘柄や、その指定空気圧にけっこうな違いがあること(STD:前後200kPa、S:前後250kPa。ともに1名乗車時)の影響が大きいのではないかと思う。もちろん、リヤタイヤのサイズ差や、Sに装着された高剛性なフロントフォークスタビライザー、前述した乗車姿勢の差なども関係しているだろう。乗り比べて初めて分かる程度の、わずかな違いではあるのだが……。
エンジンの気持ちよさは相変わらず
マフラーの違いに加え、ECUの設定もやや異なるというエンジンは、アイドリングでスロットルを煽った際、Sはやや抜けのいい音がするように感じたものの、走り出すとほとんど差を感じられなかった。当然ながらGB350の魅力の根源を成している、どんな速度域でも感じられる気持ちいいパルス感や、ブン回しても不快な振動が皆無といった点はSでも健在で、ロングストローク単気筒の美点だけを抽出してネガを綺麗に消し去ったような、このエンジンの完成度に改めて感じ入る。個人的には高めのギヤでスロットルを大きく開け、回転が上昇してくるのを待っている時の「トパパパパッ!」という歯切れのいい音が最高に魅力的だと思うが、そういう意味ではSよりもSTDによりマッチしたエンジン特性と言えるかもしれない。
Sを選ぶユーザーは、前後の樹脂製フェンダーやサイドカバー(STDは共に鉄製)、灯火類、タックロールが入るスウェード調シート表皮などによる、STDよりモダンな外観に惹かれて選ぶパターンがほとんどだろう。ただし冒頭で述べたとおり、購入後に走行性能をS→STD化、または逆にSTD→S化しようとすると、ハンドルはともかくとして、リヤホイールASSYは税込で約6万円と換装にはそこそこハードルが高いし、ステップも大物部品のプレートが違ったりと専用パーツが多く、これまた出費がかさむはず。カスタムで自分仕様を仕立てていきたい人にとっては、社外パーツの動きが思いのほか鈍いことも気がかりだろう。
そもそもGB350、20psという最高出力からも分かる通り、率直に言って速くはない。スピードの愉悦を見切ることがこのバイクを選ぶ大前提になるだろう(それでもメーター読みで140km/h近く出るようだが)。その上で、やっぱり峠道ではちょっとだけスポーティに楽しみたいならSを、ある意味受動的に、バイクが与えてくれる気持ちよさだけを享受したいならSTDを選べば間違いはないと思う。個人的には、近年ほぼSTD寄りの嗜好になったとはいえ、峠道を走るのは今だに大好きなので……。う〜む悩ましい。
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