
●文:中村友彦 ●写真:富樫秀明/YM ARCHIVES ●取材協力:ライトアーム
今も絶大な人気を誇る‘80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末永く楽しんでいくには何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家より奥義を授かる。本記事ではヤマハが放った異端のモデルにして世界中で熱烈な支持を獲得した「VMAX」のメンテナンスチェックポイントについて、ライトアーム・矢田氏に解説してもらう。

【取材協力:ライトアーム】顧客からの要望があれば他機種を扱うこともあるものの、’14年から活動を開始したライトアームの基本スタンスはVMAX1200専門店。’90年代中盤から約20年に渡って在籍したYSP/VMG大原時代を含めると、代表の矢田正夫氏が整備を担当したVMAXは数百台に達している。写真の2台は、いずれも矢田氏の愛車。
VMAXとは?:異端のモデルでありながら世界中で熱烈な支持を獲得VMAXの歴史/その進化:フロントまわりの構成が異なる前期型と後期型中古車相場は30〜90万円:100万円オーバーの個体はごくわずかウィ[…]
一般的な消耗部品の交換で本来の資質が取り戻せる
VMAXの新規ユーザーを対象として、ライトアームでは67項目の点検とキャブレターの調整&同調、車体各部の締め付けトルク確認を行う「コンディションレベルチェックパック」というメニューを設定している。そしてこの点検作業の次は、車両のコンディションに応じてさまざまな整備を行うのだが、定番と言うべきオイル/フルードの全交換やフロントフォークのオーバーホール、水まわりの見直しなどに加えて、同店では電装系とラバーパーツを刷新することが多いそうだ。
「弱点というレベルではありませんが、バッテリーの容量不足やイグニッションコイルの割れ、水が溜まりやすいプラグホール、’90年代半ばから対策品に変更されたレギュレーターなど、電装系にはいろいろと改善したいところがあります。ラバーパーツに関しては、各部のシールの劣化に加えて、ストッパーが存在しないバンドの締め過ぎで、Vブーストのジョイント部に亀裂が入っている個体が多いですね」
整備に関してちょっと意外な気がしたのは、同店ではエンジンをオーバーホールする機会がほとんどないということ。「どうしてもという場合は引き受けますが、ネットオークションにはヒトケタ万円台のVMAXの中古エンジンがたくさん出品されているんです。もちろん素性が不明の中古を使う場合は、各部の点検が必要になりますが、40〜50万円をかけてオーバーホールするより、載せ換えを選択したほうが、費用は確実に安く抑えられるでしょう」
写真は’07年型5GK。
キャブレーター:並列4気筒用と比べると、整備の難易度はやや高め
【連結プレートで平行/直角を維持】Vバンク間にマウントされるダウンドラフト式キャブレーターは負圧式のミクニBDS35。4つのボディを連結するプレートを安易に分解すると、本来の平行/直角が再現できなくなることがある。メインジェットやパイロットジェットは、プレートを外さなくても交換することが可能だ。
【パイロットスクリュー調整でエンジンフィーリングが一変】アメリカ/カナダ仕様は封印を解除する必要があるが、現状のエンジンの状況に合わせてパイロットスクリューを調整すれば、アイドリング〜低回転域のフィーリングは大きく変わる。4気筒の戻し回転数はバラバラになるのが普通。ラバーキャップは国内仕様の純正部品を使用。
【不調の原因となるラバーパーツの劣化】2つのバキュームピストンは、左が国内仕様で右が輸出仕様。長年の使用でラバー製のダイヤフラムが劣化した場合は、バキュームピストン丸ごとの交換が必要になる。なお、ボディ側面に備わるエアカットバルブ内のダイヤフラムも劣化が不調につながりやすい消耗部品だ。
ジョイントラバー:バンドの締め過ぎでラバーが破損しやすい
キャブレターとエンジンをつなぐインシュレーターの劣化は旧車の定番トラブルだが、VMAXの場合は、Vブーストの要になる前後気筒の吸気ポートを結ぶジョイントラバーの破損にも注意が必要。
トランスミッション:乱暴な操作をすると2速のドッグが磨耗
本来ならテーパーカットが施されている2速ギヤのドッグの磨耗は、VMAXに限らず’80〜’90年代車の大排気量車でよくあるトラブル。交換時は相手側ギヤの凹部とシフトフォークの磨耗も要確認。
スタータークラッチ:電圧の低下が破損の原因になる
耐久性が低いわけではないが、スタータークラッチはローラーが3個の旧態然とした構成。バッテリー電圧低下で逆方向のトルクがかかると、ボルトの緩みや破損が発生することがある。
クラッチレリーズ:定期的なフルード交換でレリーズの劣化を防止
ブリーダーボルトが上方に設置されているため、フルードの定期交換を怠ると、クラッチレリーズは内部に水分が溜まりやすい。その水分によってピストンが錆びると、シールにキズがつきフルード漏れが発生。
ファイナルギヤ:耐久性は抜群だが、使い方次第で問題が発生
シャフトドライブ関連部品はかなり丈夫。ただし、過剰なエンジンブレーキを頻繁に使ったりリヤの車高を極端に上げたりすると、ファイナルギアケース前部のピニオンギアシャフトの折損や、タル型のカップリングギアの偏磨耗を招く可能性がある
プラグキャップ:対策品に交換すれば水分の侵入を防げる
プラグホールに水が溜まりやすいVMAXだが、対策品のリブ付きプラグキャップに変更すれば、水分の侵入はかなり防げる。なお同店では、抵抗値が異なるアフターマーケット製は推奨していない。
サーモスイッチ:電動ファンの作動は純正の温度設定でOK
冷却通路の途中に備わるサーモスイッチは、電動ファンの作動を司るパーツ。設定温度が低いカワサキ製に交換するユーザーも多いようだが、同店ではバッテリーの負担を考えて純正を推奨している。
ウォーターパイプ:漏れが生じる前に一度は全交換したい
ホースやOリングなど、水回りに使われるラバーパーツも消耗部品。漏れが生じやすいのはウォーターポンプやサーモスタット周辺などだが、交換時はできればすべてをイッキに行いたい。
フレーム:独自の補強ユニットでヨレを解消
超高速域の安定性が万全とは言えないVMAX。その主な原因をガソリンタンクを内側に備えるリヤフレームの弱さと考えるライトアームでは、左右のシートレール後端をサンドイッチ構造で連結する独自の補強ユニットを開発(2万6180円)。
フロントフォーク:’80年代に流行したエア加圧式フォーク
前期型も後期型もフォークはエア加圧式で、トップカバーを外すとバルブが現れる。規定値は0.4〜1.0kgf/cm3で、この数値を下回るとフロントの車高が低くなってしまい、本来のハンドリングを味わえなくなる。
ステアリングステム:勘合長の増大でネジレを最小限に
一般的なネイキッドと比較すると、VMAXのフォークは全長が長くネジレにはあまり強くない。この問題を解消するため、同店では勘合長を伸ばしたアルミ削り出しのステムを開発した(17万2692円)。
フロントブレーキ:フロントの定番はMOSキャリパー
制動力向上を求めて、後期型ユーザーはフロントに純正MOSキャリパーを装着するケースが多い。同店ではリヤに100mmピッチの4ピストンキャリパーを装着するサポートも販売している。
タイヤ:前後セットで選べるのは2種類の純正のみ
リヤが特殊なサイズであるため、タイヤの選択肢は純正として開発されたダンロップF20/K525とブリヂストンG525/526のみ。ライトアームでは前者の人気が優勢のようだ。
電装部品:長い目で見れば必ず劣化する電装系
左から、メインハーネス/レギュレーターレクチファイヤ(対策品)/’90年型以降用のピックアップコイル/イグニッションコイル。車両入手時の交換履歴が不明なら、これらは新品を準備しておきたい。
バッテリー:通常電圧がやや高いMF式を推奨
容量が少なめのバッテリーは、マメな補充電が必要。純正に替わる製品として、同店では通常電圧が開放式よりやや高いブロードのMF式・駆:カケルBG16AL-A2が定番になっている。
エンジン/ファイナルギヤオイル:上質なオイルでライフが伸びる
パワーユニットの耐久性はオイル次第で変わる。ライトアームの推奨品は、矢田氏が20年以上に渡って使い続けているスペクトロ。エンジン用は20W-50で、ファイナルギヤ用は80W-90。
パーツ流通:現在でもほとんどの補修部品を入手することが可能
外装の大半やVブーストコントローラー、前期型用フォークの一部などが欠品になっているものの、初代VMAXの消耗部品は現在でもほとんどが入手可能。しかもネットオークションには膨大な数の中古パーツが出品されているので、維持で困ることはなさそうだ。
「ただ、現役時代を知っていると最近の純正部品の価格上昇には驚きますね。欠品の外装やVブーストコントローラーは現状では中古で何とかなっています」(矢田氏)
【ガスケット&シールは欠品ナシ】エンジン関係で交換頻度が高いのは、ラバー製のシリンダーヘッドカバーガスケット。ただし良質なエンジンオイルを使っていれば、そう簡単に劣化することはないそうだ。
【乗り手の技量で耐久性が変わる】クラッチの耐久性は乗り手の技量次第。1万km以下で滑り出すケースもあれば、5万km以上持つこともある。交換はフリクション&スチールプレートのセットで行いたい。
【内部加工でストレート排気化】パワーユニットの潜在能力を引き出す手段として、ライトアームではノーマルマフラーの内部加工を行っている。費用は、輸出仕様7万2050円、国内仕様8万3050円。
【かゆいところに手が届くパーツ】ライトアームは多種多様なVMAX用オリジナルパーツを開発。アルミ削り出しのフロントフォークスタビライザーは2万900円で、インナーチューブガードは1万4728円。
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