プロに学ぶ神名車復活術

’80s国産名車・ホンダCB-F完調メンテナンス#2【対策部品投入で+αの性能を獲得】


●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 YM ARCHIVES ●取材協力:ジェイズ

今も絶大な人気を誇る‘80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末永く楽しんでいくには何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家より奥義を授かる本連載、今回はホンダ第2世代の並列4気筒モデルとして大ヒットした「CB-F」シリーズのウィークポイントを解説する。

ジェイズ
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【取材協力:ジェイズ】今回の取材に協力してくれたジェイズは、CB-F/Rシリーズと並列6気筒のCBXに特化したショップ。レストアを含めた整備やカスタムを行うだけではなく、多種多様なリプロ&オリジナルパーツを独自に開発している。代表の宮繁順一氏は、近年は愛車のCB750Fを駆ってレースに参戦中。写真は取材時に入庫中していたCB1100R。●住所:神奈川県厚木市下川入864-1

CB-Fシリーズ3つの弱点の主な原因は経年劣化と調整不良

CB-Fシリーズの弱点と言えば、充電不良/カムチェーンの伸びや破損/スタータークラッチの滑りなどが有名である。しかしながらジェイドの宮繁代表は、その3点を弱点と表現することに対して、少なからず違和感を持っているそうだ。

「まず充電不良は、経年劣化を考えれば当然ですし、発電機が備わる右側に転倒したことで、内部のコイルとローターの位置関係に異変が生じている個体が少なくありません。カムチェーンの問題は、調整不良が原因ですね。CB-Fのテンショナーは、定期的な調整が必要ですが、その事実を知らない人が多い。スタータークラッチの滑りも、主な原因は経年劣化です。ただし、現代の視点で見ると構造的には少々問題があって、1100に限っては現役時代から滑りやすかったようです」

その他に、ジェイズに入庫するCB-Fでよくあるトラブルは、キャブの不調と電装系の接点不良が挙げられるが、車体自体に弱点と言うべき要素は存在しないとのこと。

「逆に言うなら、ちょっとした部品の交換や調整で、調子が良くなる個体は非常に多いです。もちろん新車同様の性能を味わいたい場合は、徹底的な整備が必要で、その場合のコストは70万円前後ですね。なお車体に関しては、フレが出る、剛性が低いと言う人がいますが、きちんと整備された車両ならそんな印象は持たないはずです。ただし、CB-Fのシャシーはバランス的にシビアなところがあるので、1ランク上の走りを求める人には当店のオリジナルステムを推奨しています」

キャブレター:凝りに凝った構造は当時のホンダならでは

CB-Fシリーズが採用するケーヒンVP/VBキャブレターは、一般的な負圧式とは異なる複雑な構造。ジェイズでOHを行う際は、キースターの燃調キットを使用する。ボディ側面に備わるエアカットバルブは、ダイヤフラムの劣化によってトラブルを起こしやすい。

スタータークラッチ:問題点を克服して滑りを解消

純正のローラーはたった3個しかないが、ジェイズの強化スクータークラッチは25個のローラーを使用する。高剛性化と軽量化を実現したリダクションギヤがセットで、価格は4万150円。

ダンパーラバー:コトコト音の原因はダンパーラバーの硬化

回転方向の衝撃を吸収する素材として、CB-Fシリーズはクラッチハウジングとプライマリーシャフト内部にダンパーラバーを設置。この2つが硬化すると、アイドリング時にコトコト音が発生するが、ある程度までの音なら、極端にナーバスになる必要はないようだ

スパークユニット:発熱を抑えて安定した点火を実現

ジェイズが独自に開発した点火ユニットの特徴は、現代のFET素子を採用することで、純正のトランジスタのように発熱しないこと。価格は2個セット3万1009円で、防振&防水対策もバッチリ。

スパークプラグ:現行車とは異なる旧車の焼け具合

現代のインジェクション車とは異なり、’80年代以前の旧車は、プラグ外周にススが溜まるのが普通。ただし、中央のガイシと電極が真っ黒の場合は、キャブレターか点火系の不調を疑ってみるべき。

ジェネレーター:リビルド品で本来の充電力を回復

ジェイズが4万9500円で販売している発電用ローター+ステーターは、純正のリビルド品で、オーナーが所有する中古の買い取りも行う。なお現在の同店では、破損が多いジェネレーターカバーを砂型鋳造で開発中。

ヒューズ:ブレード式なら心配は不要になる

トップブリッジ上のボックス内に設置されたヒューズは、昔ながらのガラス管で、ホルダー側がダメになっていることが少なくない。現代的なブレード型ヒューズに変更すれば、以後の心配は不要になる。

メインハーネス:純正を凌駕する品質と拡張性

接触不良と思われるトラブルがあったら、原因を探すより、電装系の要となるメインハーネスを交換するのが得策。現代の技術を随所に投入したジェイズのリプロ品は、2万7500円~。

アース:電装系の盲点かも?

バッテリーのマイナス端子を起点とするメインアースは、クランクケース後部右側のエンジンマウントボルトと共締め。ここが錆びや腐食で劣化すると、導通が得られなくなる。フレームの再塗装時も要注意ポイント。

フロントブレーキ:まずは整備&パッド交換

同店の推奨パッドはシンタードタイプのSBSとベスラ。ディスクについては、’21年春に純正と同径のリプロ品を発売する予定。制動力向上を求めるユーザーには、サンスターφ320mmディスク+ブレンボを推奨。

ステアリングステム:上質で信頼できるハンドリングを実現

トレールの適正化を図って上質なハンドリングを獲得するため、ジェイズではオフセットを45→37mmに短縮した、削り出しのステムを開発。純正フォーク対応品(左)と、φ43mmフォーク用(右)が存在。

リヤショック:予算に応じて3種の社外品を推奨

純正のリヤショックに好感を抱いている宮繁氏だが、オーバーホールにはかなりのコストがかかる。そこでダンパーの抜けやオイル漏れが生じた場合は、ハイパープロやアラゴスタ、YSSなど、アフターマーケット製への交換を推奨している。

ドライブチェーン&スプロケット:630/530を525に変更

’80年代と比較すると、現代のドライブチェーン&スプロケットは格段に丈夫だ。FZは630、FA以降は530が標準だが、近年のジェイズの定番は、純正以上の耐久性を維持しながら、駆動抵抗が低減できる525サイズ。

チェーン&テンショナー:エンジンOH時に必ず交換するべきパーツ

【1次減速用ハイボチェーンも伸びる】カムチェーンほどではないものの、クランクシャフトとプライマリーシャフトを結ぶハイボ式のプライマリーチェーンも、長年の使用で伸びが発生しやすいパーツである。ジェイズが独自に開発した復刻版の価格は、750が1万5400円、900が1万8150円、1100が2万1780円。

【オートではなくマニュアル調整式カムチェーンテンショナー】左が750/900用で、右が1100用のカムチェーンテンショナー&スライダー。’70年代末はオートテンショナーの普及が徐々に進んでいたものの、CB-Fは昔ながらのマニュアル調整式で、シリンダーの前後にアジャスターボルト&ナットが備わる。理想の調整時期は5000kmごと。

【調整を怠ると伸びや破断が発生】カムチェーンは独創的な2段がけ。テンショナーの調整を怠ると、伸びや破断が発生する。ジェイズでは純正を手がけていたメーカーに依頼して、各排気量ごとにノーマルタイプと強化タイプの2種を製作。750用の価格は、ノーマルが5045+4070 円、強化版が5709+4730円。

パーツ流通:潤沢でないものの、心配は不要

カワサキZやスズキ・カタナなどと比べると、何となく補修部品があまり潤沢ではない…気がするCB-F。とはいえ、これまでに数多くのCB-Fに接して来た宮繁氏は、修理不可能という状況に陥ったことは一度もないそうだ。「もちろん、Zやカタナほど潤沢でありませんが、純正部品は意外に出るし、リプロパーツは国内外で生産されているし、ウチの場合は、ないものは現代の技術を投入して新規で制作するので、悲観するような状況ではないですよ」

【ありがたい純正部品の再生産】CB750F用として、ホンダは’19年に23点の部品を再生産。その中でジェイズの使用頻度が高いのは、メーターカバー/インジケーターパネル/コンロッドボルト/バルブスプリングなど。

【ジェイズでは鋳造品ピストンを推奨】補修兼ボアアップ用ピストンは鍛造品が豊富に揃うが、宮繁氏は鋳造を推奨。左は同店オリジナルの750用0.5mmオーバーサイズで、右はスカートにセラコートを施した1100の純正。

【最新技術でシール性能を高める】ジェイズでは、純正が欠品になったガスケット類を独自に製作。ヘッド/シリンダー用や左側ケースカバー用は、最新技術を導入して、純正とは一線を画するシール性能を実現している。

【純正と同じ真空注型方式で復刻】外装はすべて欠品だが、ネットオークションには中古が数多く出品されている。サイドカバーは十中八九の確率でツメが破損しているため、同店ではツメ部分に補強を施した復刻品を製作。


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