●文:山下剛
知っているようでよく知らない、海外バイクメーカーのヒストリーに注目してみたい。ブランドの成り立ちがわかれば、なぜそのメーカーが多くのファンに支持されているのかもわかってくるかも。本記事では、ドゥカティのエンジンがどのように進化し、どうなぜ“L”と呼ばれたのかを解き明かす。
すべて90度のV型だが、時代とともに呼び方が変わった
ドゥカティが生産するエンジンは、すべてV型レイアウトの多気筒エンジンだ。シリンダー挟み角(バンク角)が90度のため、慣例的に「L型」と呼ばれ、ドゥカティもそう表記してきた。しかし4気筒エンジンの登場とともに呼称を「V型」に変更し、「パニガーレV4」のように車名もこれに沿ったものとなった。
とはいえ、ドゥカティが生産しているエンジンはすべて90度V型であることに変わりはなく、もはやこれは伝統といえる。2017年にV4エンジンを発表したが、いまなおドゥカティのイメージは「Lツイン」といえる。
ドゥカティがそのL型2気筒エンジンを世に送り出したのは1970年のことだ。大排気量時代を見据えた次世代エンジンとして、ファビオ・タリオーニ技師によって開発された。ボア×ストロークは80×74.4mmで排気量は749cc。最高出力68ps/7800rpm。バルブ開閉はベベルギア駆動のスプリング式だった。ドゥカティの伝統となるLツインを搭載した市販車第1号となる750GTは1971年に発売開始となった。
もうひとつのドゥカティの代名詞的テクノロジーであるデスモドロミック(バルブ強制開閉機構)は、1974年の750SSイモラに初採用され、「Lツイン+デスモドロミック」はこの後長らくドゥカティの代名詞となっていったのだ。
そして2021年、ムルティストラーダV4の新型エンジンではデスモドロミックをやめ、バルブスプリング式を採用した。これによってバルブクリアランスのメンテナンスインターバルは、パニガーレに搭載されるV4エンジンでは2万4000kmだったものが6万kmと飛躍的に伸びた。
デスモドロミックは、ドゥカティにとって伝統的なテクノロジーであったことは間違いない。しかし時代が求める性能を実現することを第一に考え、技術革新していくことは重要である。デスモドロミックはあくまで手段であり、目的とする性能を諦めてまで固執するものではないということだろう。それはLツインにおいても然りである。
現在、ドゥカティは7種類のエンジンを生産している。いずれも90度V型レイアウトだが、ひょっとすると数年後には並列レイアウトや単気筒エンジンも登場するかもしれない。
では7種類のエンジンの大まかな特徴と、それを搭載するモデルを見ていこう。
空冷L型2気筒 OHC 2バルブ デスモドロミック(デスモドゥエ)
ドゥカティのラインナップのうち、空冷エンジンはスクランブラーシリーズに搭載されるのみとなった。とはいえ排気量バリエーションは3種類あり、空冷Lツインの醍醐味を幅広く味わうことができる。とくに日本においては普通二輪免許で乗れる400ccの存在感は大きい。
・400cc(ボアストローク:72×49mm=399cc、最高出力:41ps/8750rpm)
スクランブラーSixty2
・800cc(ボアストローク:88×66mm=803cc、最高出力:74ps/8250rpm)
スクランブラーアイコン/アイコンダーク/フルスロットル/カフェレーサー/デザートスレッド
・1100cc(ボアストローク:98×71mm=1079cc、最高出力:86ps/7500rpm)
スクランブラー1100/スペシャル/プロ/スポーツプロ
水冷L型2気筒 DOHC 4バルブ デスモドロミック(テスタストレッタ11°)
吸気バルブと排気バルブが同時に開いている時間(バルブオーバーラップ)を11度(クランクシャフト2回転分=720度のうちの11度という意味)に設定することで、理想的な燃焼を図ったLツインエンジンだ。2010年に登場した際はムルティストラーダ1200やディアベルに搭載されたが、現在では1000cc未満の排気量のみとなっている。
ミドルクラスのドゥカティのほとんどのモデルに搭載されており、その点ではドゥカティの中核を担うLツインエンジンといえる。
・937cc(ボアストローク:94×67.5mm)
ムルティストラーダ950(最高出力:113ps/9000rpm)
スーパースポーツ950(最高出力:110ps/9000rpm)
ハイパーモタード950(最高出力:114ps/9000rpm)
モンスター(最高出力:111ps/9250rpm)
・821cc(ボアストローク:88×67.5mm、最高出力:109ps/9250rpm)
モンスター821(2021年モデルなし)
水冷L型2気筒 DOHC 4バルブ デスモドロミック(スーパークアドロ)
スーパーバイク・パニガーレに初搭載されたエンジンで、カムシャフト駆動方式をコグドベルトからセミカムギアトレインへ変更。より高出力かつ高性能を狙って開発された、もっとも戦闘的なLツインエンジンだ。
・955cc(ボアストローク:100×60.8mm、最高出力:155ps/10750rpm)
パニガーレV2
・1285cc(ボアストローク:116×60.8mm、最高出力:209.4ps/11000rpm)
1299パニガーレR ファイナルエディション(2021年モデルなし)
テスタストレッタDVT(水冷L型2気筒 DOHC 4バルブ デスモドロミック)
可変バルブ機構を備えた水冷Lツインは2014年に発表され、2015年式ムルティストラーダ1200に搭載された。2016年には排気量を拡大し、テスタストレッタDVT1262となってXディアベルに搭載され、ディアベルとの差別化が図られた。しかし2020年モデルではディアベルにも同エンジンが搭載され、さらにムルティストラーダにはV4エンジンが採用されたことから、ほぼディアベル専用エンジンとなっている。
・1262cc(ボアストローク:106×71.5mm)
ディアベル(最高出力:159ps/9500rpm)
Xディアベル(最高出力:160ps/9500rpm)
ムルティストラーダ1260エンデューロ(最高出力:158ps/9500rpm)
デスモセディチ・ストラダーレ(水冷90度V型4気筒 DOHC 4バルブ デスモドロミック)
ドゥカティはかつてV4エンジンを搭載したアポロを開発したものの、市販には至らなかった経緯がある。そのためパニガーレ用に開発されたこのエンジンが、ドゥカティ初の市販V4エンジンとなる。MotoGPマシンテクノロジーからフィードバックされた、同径ボア、逆回転クランクシャフト、ツインパルス点火順序などが特徴。ドゥカティ現行エンジンでもっともパワフルかつ高性能なエンジンだ。
・1103cc(ボアストローク:81×53.5mm)
パニガーレV4(最高出力:214ps/13000rpm)
ストリートファイターV4(最高出力:208ps/13000rpm)
V4グランツーリスモ(水冷90度V型4気筒 DOHC 4バルブ)
デスモセディチ・ストラダーレをベースとしてデスモドロミックを廃止。バルブスプリング式にしたことなどで、4気筒にもかかわらず2気筒のテスタストレッタDVTよりも1.2kg軽量に仕上げ、さらにバルブタイミング調整期間を2万4000kmから6万kmへと延長した。また、アイドリング時にはリアバンク(車体後方に位置する2基のシリンダー)を停止させる機能を備え、放熱を抑えるとともに燃費向上も果たした。
・1158cc(ボアストローク:83×53.5mm、最高出力:170ps/10500rpm)
ムルティストラーダV4
すべてが90度V型エンジンだが、排気量別に見れば10種類ものバリエーションを持つドゥカティのパワーソースは、いずれもバイクのスポーツ性を追求するための思想に基づいている。軽さ、レスポンス、ハイパワー。それらを高次元で満たしたエンジンを、ドゥカティはこれからも作り続けていくことだろう。
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