釣りとバイクレースは似ている……?

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.46「ブラインドコーナーの走り方は逆算で決める」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第46回は、ポルティマオサーキットで有終の美を飾ったモトGPと、七目を達成した内房での釣りについて語ります。

TEXT:Go TAKAHASHI

隙間のチャンピオンなんかじゃない!

第15戦ポルトガルGPをもって、MotoGPの2020シーズンは最終戦を迎えました。MotoGP好きないちファンとして、レースを開催してくれたことに心から感謝したいと思います。コロナ禍でシーズンを成立させることは、並大抵のことではなかったはず。でも今年、もしMotoGPがなかったらと思うと、やはり生活にもハリがなかったと思います。シーズン成立に尽力してくださった関係者の皆さんには、心から「ありがとうございます!」と言いたいですね。

ライダーとしても、やりづらかったと思います。毎週のように連戦が続くことなど、経験がないですからね。だいたいのライダーは自分なりのペースというか、ルーティンのようなものがあるはず。それが崩されてしまうのだから、想像するだけでも大変だったことでしょう。しかもしょっちゅうPCR検査を受けて、ホテルとサーキットの往復しか許されず、しかも気が抜けない超ハイレベルなレースが続くわけですから、ストレスが溜まる難しいシーズンだったと思います。

前回のコラムでも触れましたが、そんな中で落ち着いてシーズンを過ごしチャンピオンを獲得したジョアン・ミルはやっぱりスゴいライダーです。中には「マルク・マルケスがいなかったからチャンピオンになれたんだ」とか「隙間チャンピオンだ」なんて揶揄する人もいますが、ちょっと待ってほしいんです。マルケスがいなかったのは彼自身のクラッシュによるもので、他の誰のせいでもない。しかも今シーズンはミルがひとりで走っていたわけではありません。ライバルたちがいて、正当にレースをして、もっともポイントを獲るというゲームを勝ち抜いたのですから、僕は立派な価値あるチャンピオンだと思っています。

スズキのジョアン・ミル選手

最高峰クラスでルーキーから2年目の戴冠となったジョアン・ミル選手。スズキに2000年以来20年ぶりの王座をもたらした。 [写真タップで拡大]

高低差で先が見えないポルティマオサーキット

最終コーナーを立ち上がるポル・エスパルガロ選手。スリバチ状の右コーナーから登り坂をフル加速していく。 [写真タップで拡大]

ところで最終戦の舞台となったポルティマオサーキットは、すごいコースでしたね! 僕は走ったことがないのですが、アップダウンが激しいジェットコースターコースは、見ているだけでもかなりエキサイティングでした。難しそうだけど、面白そう! 開け開けの最終コーナーなんか、僕は得意じゃないかな。ちょっと走ってみたくなりました(笑)。

ポルティマオはブライドコーナーが目立ちますが、そこはたいして気になりません。というのは、現役時代に走っていたのはそんなコースばかりだったから(笑)。今のMotoGPサーキットも路面こそキレイになっていますが、先が見えないコーナーはとても多いんです。でも、数周もすれば慣れてしまうんですよね。

まさしくジェットコースターのよう。障害物よりも、激しい高低差で先が見えない。 [写真タップで拡大]

サーキットを走る時は、いつも目標を定めます。路面のシミでも草の切れ目でも看板でも何でもいいんですが、「ここでブレーキをかける」「ここでマシンを寝かせる」「ここから加速する」といった具合に、はっきりとしたモノサシを作ってしまうんです。そうすればブラインドコーナーだろうがアップダウンがあろうが、ほとんど気にならなくなります。だいたい、スピードを突き詰めていけばいくほど、どのライダーもほとんど同じレーシングラインを通りますしね。

僕たちレーシングライダーは、いかに早くアクセルを開けるかを考え、逆算してラインを決めていきます。立ち上がり、旋回、進入の順でラインを決めることがほとんどです。そしてそれは最終的にだいたい同じ線になる。だから僕は自分のスクールで、皆さんに「僕のラインをトレースしてください」と言うんです。ひとつの目安にはなりますからね。でも実は僕のラインを通ることは、決して簡単ではありません。難しくしている要因は、主にはブレーキングですね。ブレーキをかけるタイミング、そして強さ……要するに減速度によって、通れるラインが決まってしまうからです。

せっかくなので少しだけ種明かしをすると、僕は皆さんより早めに、そして強めにブレーキをかけています。ブレーキングを開始してすぐに、最大の制動力を発揮させるイメージですね。それからクリッピングポイントに向けて少しずつブレーキをリリースしていきます。いきなりスパッとリリースすることはありません。ブレーキングによってフロントにかかった荷重をコントロールしながら、もっとも良い車体姿勢を維持しています。

スクールなどで皆さんのブレーキングを見ていると、どうも逆の人が多い。ブレーキの掛け始めは弱くて、徐々に強めていき、コーナーに入るとスパッとリリースしてしまう。これではもっとも旋回力を出したいパートで過荷重気味になりますし、スパッとリリースしてしまうことでせっかく下がり気味だったフロントが高くなってしまいます。いずれも旋回力を落としてしまう要素になります。

千葉県の茂原ツインサーキットで2017年から開催している「原田哲也ライディングレッスン」にて。たとえ緩やかなスピードでも、同じラインを通るのは簡単ではない。 [写真タップで拡大]

ただ、こういうブレーキングになるのも分かります。それはほとんどの皆さんが公道でバイクに乗っていて、その走り方が身に染み込んでいるから。何があるか分からない公道では、どうしても探り探りの走りになるものです。ブレーキを掛けるという行為にしても、路面状況をしっかりと判断しながら、恐る恐る掛け始めるぐらいの方がちょうどいい。いきなり強いブレーキをかけて前輪がすくわれてしまったら、即転倒ですからね……。

サーキットの路面は整備されていますし、対向車もいなければ、予期せぬ何かが飛び出してくることもまずない。公道に比べればはるかに高い安全が保証されているからこそ、早め・強めのブレーキングが可能なんです。ポルティマオも、確かにブラインドコーナーが多い。でもコースはしっかり清掃され、ライダーたちは何周も同じところを走り、コースマーシャルが状況を教えてくれるという万全な体制が敷かれています。だからライダーたちは思い切ったブレーキングができる。

ブレーキングひとつとってみても、サーキットの走りと公道の走りはまったく違います。同じような違いが、バイクを傾ける場面でも、立ち上がり加速する場面でも起こります。もしサーキットライディングを追求しようと思っているなら、そんな意識で自分の走りを見直してみてください。逆に、サーキットライディングを公道では行わないようにしてくださいね。サーキットのゲートをくぐったら別の人になるぐらいのつもりで、気持ちを切り換えるといいと思います。

カンパチ、イナダ、シーバス!

ところで、ちょっと自慢させてください! 先日バイク業界の仲間たちと釣りに行って、七目を達成したんです。内房・保田の村井丸という船に乗ってライト落とし込みとジギングをを楽しんだですが、カンパチ、イナダ、シーバス(スズキ)、ソウダガツオ、イサキ、アジ、ウマヅラハギの7魚種を釣ることができました。いや〜、楽しかった!

最近はかなり釣りにハマッています。何が釣れるか分からないドキドキ感もたまりませんが、ずっと竿先を見て集中している感じは、レースにちょっと似ているのかもしれないなぁ……。あ、そういえばどの深さに仕掛けを落とすか、どうやって誘うかなど、釣りって結構細かいんですよ。セッティングしてるみたいな面白さもあるし、さっきの「ブレーキングポイントを決める」のように、ライディングそのものに近い感覚があります。そんなわけで、さっきもまた新しい竿を購入! 早く使ってみたいな〜!!

釣果に大満足の世界王者。同行したスタッフからは「集中力がスゲェ……」との談話も。 [写真タップで拡大]


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