日本車の絶頂期だった’80年代の名車たちに“高騰”の波が押し寄せている。超プレミアマシンと化した’70年代車のような状況ではまだないものの、現実的な価格で入手できる時間的猶予はそう長くないだろう。本記事では初の油冷エンジンを搭載したスズキGSX-R750の状況を中心にレポートする。
※本記事に掲載されている車両価格等は、取り扱い店舗における’20年6月時点の情報です(関連写真提供:グーバイク)。
GSX-R750:初の大排気量レプリカで初の油冷エンジン搭載車
’80年代前半、市販車をベースとしたレースの頂点(TT-F1)は過渡期にあり、’84年にはレギュレーション変更によって排気量上限が1000ccから750ccに引き下げられた。
スズキは当初、空冷のGSX750Eでこれに対応したが、ライバル勢は高性能な水冷エンジンを導入。そこで、これに対抗してレースで勝利を収めるために開発されたのが’85年型の初代「GSX-R750」だった。
開発リーダーを務めたのは、GSX1100Sカタナの生みの親でもある横内悦夫氏。スズキは’83年型RG250Γで、他社に先駆けてアルミ製フレームを市販車に投入しており、’84年型のGSX-R(400)に続いて750にもこれが用いられたが、それ以上に特徴的だったのは「油冷エンジン」の採用だった。
シリンダーヘッドに8本のノズルでエンジンオイルを吹いて積極的に冷却。大量のオイルを大型オイルクーラーで冷やすこの機構により、高出力でありながら小型軽量なエンジンの設計に成功。登場と同時に速さを見せつけた。
GSX-R750 各年式のポイント
1. ’85モデル:世界初の油冷エンジン
初代’85モデルの開発時には水冷も検討されたが、最終的に市販二輪車初の油冷機構SACSが搭載された。アルミ製フレームとの組み合わせで乾燥重量179kgの軽さだ。
2. ’86モデル:ラジアルタイヤに
続く’86モデルでは、スイングアームを25mm延長。前後18インチタイヤのラジアル化や前後サスの熟成などにより、操縦安定性の向上が図られた。
【’86 GSX-R750R:ヨシムラ仕立ての限定「R」モデル】デビューイヤーに全日本TT-F1王者になったことを記念して、翌’86年には乾式クラッチやシングルシートを装備した限定モデルが発売に!
3. ’87モデル:前後ワイドリム化
’87モデルでは、フロントブレーキディスクが310mmに大径化された。リヤタイヤもワイドに。
4. ’88モデル:17インチに2本出し
中期モデルとなる’88年型では、ショートストローク化された新エンジンをレーサー直系の新たなフレームに搭載。外装も一新され、前後タイヤは17インチ径に。
5. ’89〜’91モデル:180km/hリミッターに
’90年型でボア・ストロークが戻された。’90~’91年型は倒立フォーク。油冷は’91年型までで、’92モデルより水冷に変更。レトロ感は’89年型までの方が濃い。
【’89 GSX-R750R:ヨシムラ仕立ての限定「R」モデル】レース用のホモロゲモデルとして、ボア・ストロークを’87年型以前に戻しながら専用開発された限定車。大口径BST40キャブを採用する。
GSX-R750:相当台数が出回ったものの、現存する台数は極少〈実例物件サンプリング〉
- 相場:65万円前後(約40~120万円)
- タマ数:極少
初年度の’85年には日本国内で約5700台を販売。’86年は限定車を合わせて約4200台、’87~’89年型は計5000台ほどと、かなりの台数が新車販売された。しかし、サーキットや峠道に持ち出されることが多くて使い方が荒いカテゴリーであることや、日本での人気が低迷かつ円安が進行した’90年代後半や’00年代前半に海外流出したことなども影響して、中古車は日本では絶滅寸前だ。
サンプル1:初期型の場合
限定車とカスタム車を除いた’80年代GSX-R750中古車の価格は相場程度。この車両には新車発売当時のヨシムラ製マフラーが装着されている。
サンプル2:2世代目の場合
’85~’87年型とエンジンやフレームが異なる’88~’89年型で、価格帯に大きな差はない模様。こちらは、メーター走行距離がかなり少なめ。
サンプル3:限定車の場合
約20件の中古車物件の半数近くが限定車。’86年型の相場は100万円台前半からで、カスタムの内容や車両の程度により200万円超も……。
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