1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第38回は、バイクで釣りに出掛けた話や、予想していたMotoGP勝者について。
クアルタラロが2連勝、マルケスの超人っぷりも驚きました
MotoGPがようやく開幕した……と思ったら、2週連続ヘレスサーキットでの開催となりました。それにしても、ここまで長かったですね! 毎年春になれば自動的に開幕すると思っていたMotoGPをなかなか観ることができず、妙な感じでした。MotoGPマシンが走る姿をようやく目にした時は、さすがに感慨深いものがありました。
この難しい状況の中、レースを開催してくれて、関係者の皆さんには本当にありがとうと言いたいです。フェイスシールドやマスクを付け、ソーシャルディスタンシングも守りながらのレースは、かなり大変だと思います。特に欧米の人たちはマスクを付ける習慣がありませんから、相当な我慢を強いられているはず……。そしてレーシングライダーたちも! 暑いヘレスで走り終わってすぐ、ツナギ姿のままマスクを装着するなんて、あり得ないですよ……。ホント、GPに携わっているすべての人たちには、感謝しかありません。
MotoGPとしては初戦となった第2戦スペインGP、そして第3戦アンダルシアGP、どちらもヘレスサーキットでの開催でしたが、やっぱりレースは面白いですね! 事前に自分のツイッター(@31channel)では、第2戦優勝はマルク・マルケス、2位ファビオ・クアルタラロ、3位マーベリック・ビニャーレスと予想していました。そして第3戦は優勝と2位はクアルタラロかビニャーレスのどちらか(テキトーすぎる!)、3位は期待を込めて中上貴晶くんと予想。
結果は皆さんご存じの通り、第2戦でクアルタラロが初優勝を果たし、2位ビニャーレス、3位ドヴィツィオーゾ。第3戦もクアルタラロが連勝し、2位ビニャーレス、3位バレンティーノ・ロッシとヤマハが1-2-3を成し遂げました。予想はなんとなく当たったようでいて、あんまり当たっていないかな……。もっと精進しなくては(笑)。
思っていた以上にヤマハ勢が調子よかったですね。ヘレスサーキットとの相性がよかったのかもしれません。特にファビオ・クアルタラロは去年もポールポジションを獲っていますしね。ただ、心配なのはエンジンの信頼性です。第2戦ではバレンティーノ・ロッシが、同じヘレスで行われた第3戦アンダルシアGPではフランコ・モルビデッリがマシンを止めてしまいました。ずっとパワー不足が指摘されているので、何らか対策した結果なのだと思うのですが、今後に向けて大きな不安材料になっています。
大きな出来事としては、第2戦決勝でのマルケスの転倒がありました。実は僕、予想しながら「マルケスは転倒してしまうかも……」と言ってもいたんですよね。悪い予感というか、「クアルタラロが調子いいから、マルケス焦るかもなあ」と思っていたんです。5周目にコースアウトした時には200km/hから見事にリカバリーし、そこからは猛烈な勢いで追い上げました。抜き方の鋭さと言ったら! あれ、やられた側としてはガックリですよ。本気のマルケスにものすごい実力差を見せつけられるわけですから……。コースアウトした5周目には16番手まで順位を落としたのに、20周目には3番手。圧巻でした。
マルケスはもちろん勝つことを考えたでしょう。でもそれ以上に「クアルタラロを押さえ込みたい」という気持ちが強かったと思います。「ここで調子づかせるとヤバイ」と。ハイサイドを食らった3コーナーは、下りながらアクセルを開けていくという難しいコーナー。リヤの荷重が抜けがちなところへきて、次の4コーナーに向けてさらに曲げていきたい場所です。あの速さでのハイサイドは、さすがのマルケスも為す術がありませんでした。
ここからが超人の本領発揮です。レース明けの火曜日に手術を受けると、4日後の土曜日には第3戦アンダルシアGPを走行! はっきり言って、あり得ません。アレックス・リンスとカル・クラッチローも負傷を押してアンダルシアGPに出走しましたが、MotoGPライダーは本当にスゴイ。医学の進歩もあると思いますが、フィジカルとメンタルの強さが違います。よい子のライダーは決してマネしないでいただきたいと思います(笑)。
マルケスは結局決勝出走を断念しましたが、とりあえず土曜日に走っただけでも称賛に値します。僕は95年オランダGP予選に転倒し、背骨の突起と腕の尺骨を折りました。僕もチームも決勝は諦めていたのですが、当時のクリニカモバイルのドクター、コスタ先生だけがなぜか「大丈夫だ、走れ」と。たぶん「オレがOKを出してやった」と自慢したかったんじゃないかな(笑)。一応、決勝日朝のフリー走行は走ったんですが、背中があまりの激痛で気持ち悪くなっちゃって……。決勝出走はやめることにしました。マルケスの上腕骨骨折だって、いくら彼が超人とは言え、痛みはあったはず。今の速くて重いMotoGPマシンで、よく走ったものだと思います。
絶妙なブレーキコントロールをし続けられるクアルタラロ、41歳で表彰台のロッシ!
そして、クアルタラロ2連勝。これは本当にスゴイことです。彼には1発の速さもありますが、それよりも怖いのはアベレージタイムの速さ。めちゃくちゃコンスタントに走り続けられることです。これはライバルにとっては大変な脅威。決勝に特に強いライダーということですから、みんな本気で警戒しているはず。クアルタラロの存在がマルケスの転倒の一因になったことは間違いありません。
クアルタラロは、フランス人ライダーの伝統なのか(?)、リーンウィズに近い今どきとしては地味なライディングフォームです。でも、コーナー進入のギリギリまでニーグリップしている彼のスタイルは、ブレーキングを重視してのこと。そう、クアルタラロの武器は短時間で一気に曲がれる速度まで減速できることなんです。
いかにMotoGPマシンとはいえ、遠心力とタイヤのグリップ力との兼ね合いで、向きを変えられる速度は物理的に決まっています。その速度まで、いかに短時間で減速できるかがポイントです。ご想像の通りフロントブレーキを強く掛けるんですが、そうするとリヤが浮いてしまいます。後輪のグリップを失うと、減速距離は伸びてしまう。だからクアルタラロはものすごく微妙にブレーキ圧をコントロールしているんです。もちろんリヤブレーキの使い方もうまい。さらに立ち上がりでの姿勢制御にもブレーキを使っているようで、これも彼の武器になっています。
そしてさっきも書いたように、そのギリギリのブレーキングを20周以上ある決勝レース中、コンスタントに続けられるのが本当にスゴイ。僕もそんなブレーキングを現役時代にやってましたが、予選の1発だけ(笑)。決勝中にずっとあんな走りができるなんて、ものすごい集中力の持ち主です。20歳でその域に達しているんですから、ライバルたちにとっては本当に脅威ですよね……。
「スゴイ」と言えば、ロッシの3位表彰台もスゴイ! 41歳ですよ!? 信じられません。ビニャーレスとのバトルに注目していましたが、やはりレース巧者! 微妙なブロックラインを通ったり、インを開けているようで、相手がそこに飛び込むと曲がり切れなかったり……。最後はミスしてビニャーレスにかわされてしまいましたが、後ろに目が付いているんじゃないかというぐらい相手の出方を読み切った走りは、さすが、何度も世界チャンピオンを獲っているだけのことはありますね。
この2連勝でクアルタラロは50点を獲得。一方、最大のライバルであるマルケスは0点と、非常に大きなポイント差が広がりました。でも、これでチャンピオンシップが決まったわけではありません。マルケスに起こることはクアルタラロにも起こり得る。いろいろな意味で変則的で何があるか分からないシーズンになっています。すべてのライダーの無事を祈りつつ、いちファンとしてシーズンの行方を楽しませてもらおうと思っています。
YouTubeも撮影順調! ミシュランのPV撮影では、おとなげない岡〇さんが……
さて、僕は6下旬日に日本に来て以降、いろいろな撮影を楽しませてもらっています。コロナ禍の影響はもちろんあり、中止や延期になってしまったものも多くて、なかなか思い通りには行きません。でもこればかりは仕方がない。感染防止に最大限気を付けながら、やれる範囲の中で楽しむしかありませんよね。
最近では、ミシュランのスポーツタイヤであるPowerシリーズの中から、Power 5、Power GP、そしてPower CUP2のプロモーションビデオ撮影がありました。袖ケ浦フォレストレースウェイを岡田忠之さん、多聞恵美さんと一緒に走ったんですが、いや〜、楽しかった! 岡田さんは意外にも袖ケ浦を走るのが初めてということでしたが、おとなげなさすぎの激走(笑)。自分の撮影パートじゃない時にもブンブン走り回ってました。
同じ「Power」の名が付いてるだけあって、基本的な乗り味は共通しています。一番優れているのは、前後バランスのよさ。ミシュランはもともと後輪グリップの良さで知られているんですが、Powerシリーズは前輪の接地感が増していて、より安心して走ることができるんです。この前後バランスの良さをベースとして、3モデルともしっかりとキャラクターが分かれています。公道ツーリングに対応しながらサーキット走行もこなすワイドレンジなPower 5、公道走行とサーキットパフォーマンスが半々といった印象のPower GP、そしてサーキット走行を重視し、公道を走ることも可能なハイパフォーマー、Power CUP2。用途や走りのステージに合わせて選べるのが、また楽しいですよね!
年1〜2回サーキット走行会に参加するけど、メインはツーリングというライダーなら、Power 5がオススメ。タイヤの温まりが非常に良いので、気温が低くてもウエットでも安心感が高いのが特長です。路面ギャップもソフトにいなしてくれるので、手首などの疲れを感じにくいのもいいですね。
ツーリングも多いけど、自走でしばしばサーキット走行会に行くライダーなら、Power GP。扱いやすいキャラクターはそのままに、ハンドリングはひときわシャープでスポーティ。幅広いステージに対応する懐の深いタイヤです。トランポにバイクを載せてサーキットに行くようになったら、Power CUP2がピッタリ。かなりハイグリップでサーキットでのスポーツ走行時に高い安心感が味わえます。加減速がしっかりできて荷重がかけられるほど本領発揮するタイヤなので、中級以上のライダーほど楽しめると思います。
おとなげない岡田さんや、カッコよくも慎重に走っていた多聞さんとも意見はほぼ一致していました。それだけ分かりやすい作り分けができるのも、ミシュランの技術力のなせるワザですね。プロモーションビデオの完成を楽しみにしていてください。僕のYouTubeチャンネル「31チャンネル」でも撮影舞台裏をご紹介する予定です。
テネレ700やCT125ハンターカブに乗ったり、釣りハマったり
YouTubeチャンネルのロケも順調にこなしています。茂原ツインサーキットで行った僕のライディングレッスンや、テネレ700のインプレツーリング、そしてこのミシュランプロモーションビデオ撮影舞台裏、さらに先日はハンターカブで初めての船釣りにも挑戦しました。今回は内房・金谷の光進丸で黄金アジを狙ったんですが、釣り、面白い! さっそくテレビで釣り番組を観たりして、ハマっています。バイク+αという楽しみ方は、やっぱりアリですね。身をもって実感しました。
でも、僕のYouTubeチャンネルは、なかなかアップされないことで有名です(笑)。なぜかって、現場があまりにも楽しすぎて、そこでもう気分的には終わっちゃうんですよね(笑)。まぁ僕はバイクに乗ったり釣りをしながらしゃべってるだけなので、制作スタッフに比べればラクなもの。いずれいろんなネタがアップされると思いますので、気長にお待ちください。さ〜て、次はどこに行って何をしようかな!
TEXT:Go TAKAHASHI ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也氏。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り[…]
天才と呼ばれた、ふたりのレーシングライダーがいた。原田哲也と、加藤大治郎。世界グランプリ250ccクラスを舞台に、常人には知り得ない領域で戦ったふたり。引き合うように、そして、寄せ合うように。近付いた[…]
その赤は、情熱だ。燃え上がる怒り。たぎる思い。興奮。熱意。ほとばしる命の脈動。爆発的な勢いで高空に舞い上がり、火花を散らしながら突進する。 その白は、冷静だ。ただそこにある純粋さ。いつだって真新しい気[…]
MotoGPもようやく再開されましたね。ただ、関係者を最低限に絞り全員にPCR検査を行い、無観客で行われています。国内でも、4輪のSUPER GTは無観客、短縮スケジュールで開催されています。 国内の[…]
現代のスーパーマンたちが繰り広げる珠玉の戦い ヒマである。新型コロナウイルスのせいで、イベント仕事がほぼすべてフッ飛んでしまった。 ヒマな時、どうするか。考えるのだ。本日のワタシは、モトGPライダーと[…]
最新の記事
- 2025年「56レーシング」チーム体制発表! 13歳の富樫虎太郎は全日本J-GP3フル参戦、新たに9歳の木村隆之介も加入
- Wチャンピオンを手土産に世界に再挑戦!【國井勇輝インタビュー】
- 「いつから、いくら下がる?」ついにガソリンの暫定税率廃止へ! 新原付の地方税額も決着……〈多事走論〉from Nom
- 【2024年12月版】シート高780mm以下の400ccバイク10選! 地面に足が着くのはやっぱり安心
- 「これを待ってた」ホンダ新型CB400フルカウル「CBR400RR/CBR400R FOUR」スクープまとめ「かっけー!」