〈特集〉直4エンジン最前線2020

名車カワサキZ2/Z1復刻!#3/3【リバイバルプロジェクトメンバーインタビュー】

稀代の名車として絶版車界で50年近くも不動の人気を誇るカワサキZ2/Z1。そのエンジンの核心部・最重要部品であるシリンダーヘッドをメーカー自身が復刻させたこのプロジェクト。ニューモデルを開発して販売することが使命であるメーカーが半世紀も昔の絶版車用部品を復刻するなど、まさに未知の領域だったはずだ。現代の技術者がZ2/Z1に改めて向き合い、感じたことを語ってもらった。


●文:栗田 晃 ●写真:モトメカニック編集部/川崎重工業 ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。

(左)川崎重工業 モーターサイクル&エンジンカンパニー 企画本部生産企画部・戸邊潤二氏:事業企画、営業企画および生産関係全般を兼務するプロジェクトリーダー。製造/素材領域のスペシャリストとして生産部門との橋渡しも務めた。(中)同カンパニー 技術本部第一設計部・松本孝史氏:設計領域の陣頭指揮を担当。空冷4気筒を含むエンジン設計のスペシャリスト。直近ではZ900RS、Ninja ZX-6Rのエンジン設計を担当。(右)同カンパニー 技術本部デザイン部・松村典和氏:デザイン全般を監修し、Z900RSやNinja H2、W800などをプロデュース。当時の設計図を古文書と称してクリーニング作業を担当した。

メーカーならではの技術で、Zを愛するユーザーのために

戸邊:2輪/4輪を問わず、絶版モデルを楽しまれているお客様は多く、弊社にも部品を再販してほしいというご要望は多く寄せられていました。そして我々としても、カワサキファンの声に応えたい気持ちは常にありました。

松本:絶版モデルに乗られているお客様は、部品の調達や修理で様々な工夫や努力をされています。しかしそれでは対処できず、諦めざるを得ない方々がいることも分かりました。我々は”どうすればZを乗り続けていて修理部品を待ち望むお客様に喜んでいただけるか”というテーマで討議を重ねて、”オリジナルを設計/製造した我々メーカーにしか造れない絶版部品を提供しよう”という結論に至りました。

――メーカーとして取り組む以上、事業として採算が取れるのはもちろんだが、「形状が複雑で、かつ高い製造精度が求められる重要機能部品」として選ばれたのがシリンダーヘッドだった。カワサキの絶版車ならWやマッハシリーズもファンが多いが、総生産台数/登録台数などを調査したところ、Z系が際立っていたそうだ。

図面を忠実に再現しつつ当時の質感にもこだわる

――そうした経緯を経て、Z2/Z1シリンダーヘッドリバイバル生産プロジェクトがスタートしたのは’18年初頭。まずは当時のオリジナル図面を解読するところから始めたそうだ。

松村:オリジナルのシリンダーヘッド図面は’18年以前に何度も見ていました。ただ、当時の図面は方眼紙に書かれており、データ化のためスキャンするとマス目が残ります。当然そのままでは使えず、データをクリーニングするのが大変でした。また年を追って変更された部分もあるので、その変化も反映させています。フォルムはオリジナルを完全に踏襲していますが、最高の”良いとこ取り”というわけです。

名車カワサキZ2/Z1復刻【リバイバルプロジェクトメンバーインタビュー】
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【方眼紙の図面をデータに起こす苦労】方眼紙をスキャンするとマス目もデータとなるため、必要な部分を抽出する作業に労力を要した(設計図の撮影はできなかった)。

松本:リバイバルヘッドのフィンは当時生産されたものより薄いですが、これが図面上の本来の厚みです。爪で弾くと高く澄んだ音色が良いんです。当時の鋳造技術ではここまで薄く製造することが難しかったので、製造範囲下限の厚みで製造されたのでしょう。この音の良さはアルミ素材の違いにも由来します。今回のヘッドで用いたのはカワサキオリジナルのアルミ合金で、硬度が高く耐久性も優れる、ZX-10Rと同じ材料です。形状は徹底的に当時のオリジナルにこだわりながら、最新モデルで実績のある進化した材料で生産しているのも、我々メーカーにしかできないことです。

――当時の”質感”に対するこだわりも見逃せないポイントのひとつ。

松村:塗装下地に用いるショットブラストは、現行モデルはステンレスを使います。しかし塗装を施すと、ギラギラ感が強くなりZのシリンダーとマッチしない。そこでいろいろ試行して、亜鉛メディアを採用しました。その上でシリンダーと組み合わせた時の色味とツヤにもこだわって塗料を調色しました。ちなみに当時の銀ヘッドはアルミ地肌そのものですが、リバイバルヘッドは現代の品質基準に合わせて、銀ヘッドもシルバーで塗装しています。

――さらにこだわりは細部に宿る。

松本:カムシャフトを押さえる4個のベアリングキャップは同形状ですが、鋳物の浮き出し文字で1~4の数字が入るため、金型が異なります。現代であれば鋳造時に全ての数字を入れておき、後で不要な数字を削り取れば機能的に不都合はなく、金型も1種類で済みます。しかしそれでは当時のZ2/Z1と違ってしまう。結果的に1~4まで4種類の金型を新造しました。

【カムカバーを開けた際の光景は異なるべからず!】カムシャフトのベアリングキャップはこの部分。カムカバーを外さなければ見えないが、浮き出し文字でなければ納得できないという声に推されて1〜4を別個に製造。

――コスト度外視といえば語弊があるが、細部までこだわればこだわるほど手間がかさむのは事実。だがこのプロジェクトでは、誰もが高いモチベーションを発揮したという。

松本:図面通りのフィンも、実際には厚い方が鋳造工程も楽になります。だけど現場は”なんとかしますよ”と。もちろん’70年代当時に比べれば鋳造技術もレベルアップしていますが、現場の返事が”できない”だったことはありません。”Zの部品だから”という思いもあったのでしょう。

【鋳造用金型は新規製作。製品価格は大バーゲン!?】数万台生産する量産車でも、1000個製造するリバイバルヘッドも、鋳造に用いる金型の構造や製造コストは同じ。従って生産数量が少ないほど販売価格に占める型費の割合が増す。そう考えると今回のヘッドは相当リーズナブルに思えてくる。

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【梱包ダンボールもこだわりアリ】発送用段ボールのカワサキロゴの上は通常「GENUINE PARTS」(純正)だが、リバイバルヘッドは「HERITAGE PARTS」(遺産)と書かれたスペシャル版だ。

改めて実感する完成度。カワサキにとっての伝統継承

――こうして開発が進んだヘッドの存在が明らかになったのは’19年3月1日。

戸邊:SNSで告知した際の反響は、予想を大きく上回るものでした。生産準備の進捗状況も弊社SNSから発信しましたが、こちらも常に多くのアクセスをいただき、注目度の高さがプレッシャーになることもありました。

――では現代の技術者の目に、カワサキ初の4気筒エンジンのシリンダーヘッドはどう映ったのか。

松本:空冷と水冷、吸排気バルブ数の違いはあるにせよ、Z2/Z1のシリンダーヘッドには技術的に欲しい要素がほぼすべてあります。最初の量産4気筒でこのレベルに到達していたことに驚くばかりです。コンピュータで図面を引きながら、当時の稲村さんたち(稲村暁一氏・Z2/Z1のエンジン設計者)の”思い”を想像するうちに、高性能・信頼性・組み立て性・メンテナンス性・製造要件など、多岐に渡る条件を高いレベルで具現化する手法が徐々に解ってきました。例えば吸気
ポート形状やカムジャーナルなど、’70年代にこれができていたと思うと驚きました。そうした”当時の開発者たちの思い”をすべて反映させることがリバイバルヘッド設計者の使命であり、もっとも重視したポイントです。

――インターネット注文や1000個という生産数(限定ではないので念のため)など、話題を集め続けたプロジェクト。’20年1月6日に受付が始まった銀ヘッドの第1ロットは、わずか数時間でオーダーストップという、開発陣も驚くスタートダッシュを切った。となれば、次はこのパーツが欲しい、他機種での展開はあるのか……と期待する絶版車オーナーも多いはず。

戸邊:Wやマッハシリーズのユーザーの声も届いていますが、現時点では次が”ある”とも”ない”とも明確なお答えはできません。今回のリバイバル部品販売プロジェクトの推移を見ながら、様々なカワサキのモデルにお乗りいただいているお客様に喜んでいただけるよう、積極的に検討を続けさせていただきます。

――まさにエポックメイキングと呼ぶに相応しい、Z2/Z1シリンダーヘッドリバイバルプロジェクト。継承すべき名車のための取り組みに拍手を送るとともに、今後の進展にも期待したい。

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