大成功のサーキット秋ヶ瀬 チャリティイベントも総括

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.26「鈴鹿8耐で再びレース界へ! &テストライダー・ロレンソ」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第26回は、1月19日の秋ヶ瀬イベントの手応えと鈴鹿8耐でのレース監督デビュー、そして今年のヤマハMotoGPについて。


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数十人も来てもらえたら……と思っていたら

1月19日、サーキット秋ヶ瀬で行われた「秋ヶ瀬新春祭り」。二輪レーシングライダーや四輪レーシングドライバーが集まり、お客さんも含めてのレースや各種企画で楽しもうというチャリティイベントです。ことの発端は去年の終わり、日本テレビの用事で本山哲くんと青木ハルちゃん(編註:青木治親さん)、そして僕が集まった時、一緒に食事しながら「そういえば本山くんの実家、大変だったんだって?」という話をしたことです。ご存じの方も多いと思いますが、本山くんの実家はサーキット秋ヶ瀬を経営してるんですが、去年の台風で大変な被害に遭われていました。

ちなみに本山くんは子供の頃ガチでポケバイをしていて、僕も同じレースに出たことがあるレース仲間です。彼はその後レーシングカートにハマッていくわけですが、実は僕も少しだけカートに乗ってたんですよね。でも「やっぱりバイクの方がいいや」と僕は二輪に集中してGPライダーになり、本山くんは四輪に集中してトップドライバーになりました。不思議な縁があるんですよね。

サーキット秋ヶ瀬は、僕たちに限らず多くのライダーやドライバーを育ててきた大切な場所です。「台風被害からの復興に向けて、何か役に立てることはないかな……」と考えた時に、なかば思いつきで「ライダーとドライバーを集めて復興イベントをやったらいいんじゃない?」と言ったんです。本山くんもみんなも「いいね!」とすぐに賛同してくれました。そこからは話が早い早い(笑)。さっそく武田雄一や亀谷長純、そしてハルちゃんたちが現役選手たちにババーッと声をかけてくれたんです。

左から、井筒仁康選手、長島哲太選手、原田哲也さん、武田雄一さん、本山哲選手。――裏方として忙しく立ち回った武田雄一さんは「また来年も実現したい」と意欲的だという。
ステージ上で進行役に駆り出される一幕もあった亀谷長純さん。レジェンドからの無茶振りにタジタジ?

僕は言い出しっぺですがモナコに住んでるし、ハルちゃんもオートレースがあるのでそうそう動けません。二輪系実働部隊として頑張ってくれたのは雄一や長純で、彼らには本当に感謝しています。僕も長島哲太に声をかけたり、日本テレビのスタッフに声がけの協力をお願いするなどできる範囲のことはやらせてもらいました。もちろん本山くんの四輪人脈も駆使して、二輪、四輪合わせて約30人も揃ってくれることになったんです。

とは言っても、イベント会社にお願いしてるわけでもないし、大々的な宣伝もできません。事前PRは参加者たちのSNSでの情報発信頼み、という状況だったので、当日までは「お客さん、20人も来てもらえたらうれしいなぁ」なんて思っていました。ところがふたを開けてみたら数百人の来場者が! 本当にビックリしたし、ありがたいなあ、と。イベントの詳細はヤングマシンでもレポートされているので見ていただくとして(関連記事参照)、やっている僕たちとしてもすごく楽しい時間になりました。

個人的に「すごくいいな」と思ったのは、舞台が小さなミニバイクコースだということです。とにかく選手たちとお客さんとの距離も近いし、やってることが全部丸見えって、お客さんとしてもうれしいですよね。僕たちもリラックスできます。中にはお遊びレースに真剣になりまくったカズートというニックネームのライダーもいたし、ショートカットしてトップでフィニッシュしてしまったクールデビルとか呼ばれてたライダーもいましたが、イベントを盛り上げるためにはお笑いも大事。人任せにせず、自分たちでお客さんを喜ばせようという心意気なので、大きな心で許してやってください(笑)。

カズート(坂田和人選手)とかクールデビル(原田哲也さん)とか。
ライダーたちも、とにかく楽しんでいた。それはお客さんにも伝わったはず。左から小椋藍選手、長島哲太選手、原田哲也さん。

そんなわけで大盛況に終わり、しっかりと募金活動もできました。発起人としては、いくらチャリティイベントとはいえトップ選手たちに協力してもらったからには、せめて交通費ぐらいは出せればよかったな、と申し訳なく思っています。でも、すごくいいイベントだったのでぜひまた来年もやりたいし、いろんなサーキットを巡業しても面白いかなとか、すでにいろいろ考えています。何しろお客さんの笑顔がたくさん見られたのがうれしい! それが次につながる最大のモチベーションです。

現役選手たちもしっかりファンサービス。手前は浦本修充選手 、奥は長島哲太選手。

鈴鹿8耐ではチーム監督として、ライダーたちをサポートしたい

イベントでは、今年の鈴鹿8耐でNCXX RACINGのチーム監督に就任したことを発表させてもらいました。知人の紹介でつながった話ですが、僕自身も茶耐やもて耐などに出て「耐久レースって面白いものだな」とその魅力を知ったこと、そして「そろそろ本格的なレースに携わってもいいかな」と思ったことなど、いろいろなタイミングがちょうど重なっての監督就任です。

とは言っても、鈴鹿8耐には出たことがない……どころか、去年視察に行ったのが初体験。チーム監督とは言っても運営すべてをカバーすることはできないので、経験のあるスタッフたちと役割分担しながら、僕はライダーに対するフォローを中心に活動していくつもりです。NCXX RACINGは、鈴鹿8耐のなかでも改造範囲の狭いSSTクラスに参戦しており、’18年はクラス優勝、去年もクラス2位になっている実力のあるチームです。目標はもちろんクラス優勝、最低でもクラス表彰台を獲得したいですね!

もうひとつの狙いは、僕がチーム監督になることで、少しでも鈴鹿8耐SSTクラスを見てもらえれば、ということです。SSTクラスは改造範囲が厳しく制限されている分、上位のEWCクラスよりも参戦コストが抑えられています。こういう裾野を広げる取り組みが、今、二輪モータースポーツにとってすごく大事なことだと考えているんです。若手のステップとしても重要ですしね。鈴鹿8耐はどうしてもEWCクラスを中心とした総合優勝に注目が集まりますが、ぜひSSTクラスにも目を向けてもらえるとうれしいです。

「Zaif NCXX RACING」のチーム監督を務めることになった原田さん。今年の8耐の楽しみが増えた。

“勝てるライダー”を早々に押さえたヤマハ

さて、MotoGPではヤマハがいち早く体制発表をしましたね! ファクトリーチームはマーベリック・ビニャーレスと’22年までの契約を結び、’21~’22年にはファビオ・クアルタラロを登用することになります。ずいぶん早いタイミングですが、勝てるライダーを求めるのがファクトリーチーム。マルク・マルケスをホンダから引っ張ってくるわけにもいかないし、他のライダーを見渡してもちょっと首を傾げたくなる状況の中、ビニャーレスとクアルタラロを押さえるのは、確かに今しかなかったように思います。

マルケス選手への包囲網を強めていくヤマハ。今年から来年以降に、どんな化学反応が起こるのか。

2月に41歳になるバレンティーノ・ロッシがファクトリーチームで走るのは今シーズン限りということになりました。今シーズン途中までの成績によって来季の身の振り方を決める、ということですが、ファクトリー仕様のマシンなど、最低でも去年のクアルタラロと同程度の待遇が用意されるようです。もし来季以降も現役を続行するなら、事実上今までと大きな違いはなさそうですね。

それにしても、本人にまだ現役を続けるだけの意欲と体力があって、続けさせてくれる体制が整えられるというのが本当にスゴイ! ロッシがまだ19歳だった’98年、アプリリアで僕のチームメイトでしたからね。その彼が今も最高峰クラスで走り続けているとは……。ロリス(カピロッシ)はMotoGPでのレース経験がありますが、「MotoGPは体力の消耗がめちゃくちゃ激しいんだ。あのマシンに40歳のバレンティーノが乗ってるなんて信じられないよ!」とよく言ってます。僕も同意。

ただ、1、2勝はするかもしれませんが、正直なところチャンピオン争いは難しいでしょう。若いライダーがどんどん台頭している中、ロッシの成績が年々下がってきているのはまぎれもない事実です。でも、どのサーキットに行ってもロッシを応援する「黄色軍団」がいますからね。彼のファンを引き寄せる力、ファンに魅せるレースは、今もMotoGPに必要なものなんだと思います。だからこそ、シートも用意されてるわけですしね。

今シーズン途中の成績によって来季以降の去就を決めるというバレンティーノ・ロッシ選手。

ロレンソがテストライダーとして成功するには

ホルヘ・ロレンソがヤマハのテストライダーになることも発表されました。彼のライディングスタイルはもともとヤマハに合っているし、ドゥカティやホンダを経験したことでヤマハに足りない部分も分かったはず。しかも、言うまでもなく速いライダーですから、テストライダーにぴったりです。僕の意見としては、テストライダーはレーシングライダーと同等レベルに速い方がいい。ラップタイムで言えば、少なくともレーシングライダーの1秒以内、できればコンマ5秒以内で走れるテストライダーが望ましいと思います。

というのは、1秒以上もタイム差があったらマシンに起こる挙動がだいぶ変わってしまうからです。ハンドリングについてもエンジンについても、レーシングライダーの要求を深く理解するには、やはり同等レベルで走れるテストライダーが必要になってきます。僕のヤマハ時代は難波恭司さんがテストを担当してくれましたが、袋井テストコースなんか僕より速かったんですよ(笑)。しかも難波さんは僕の走りを熟知していて、「哲也ならこういうマシンが欲しいはずだ」という観点からマシン作りをしてくれました。だから僕も安心してレースすることができたんです。

ロレンソのポイントはここです。「自分が乗りたいマシン」ではなく、「ビニャーレスが求めるマシン」を作れるかどうか。コーナリングスピードが高いロレンソと、ブレーキングを重視するビニャーレスでは、走り方がかなり違います。そのことを理解して、ビニャーレスのためのマシンを作れるかがカギになるでしょう。テストライダーは、誰も乗ったことがないマシンを走らせたり、使ったことがないパーツを付けたりと、かなりリスクを背負う仕事です。しかも、頑張って速く走ってもレーシングライダーのように華々しい勝利が待っているわけじゃない。言ってみれば地味な仕事をロレンソが受け入れられれば、テストライダーとしての成功が待っているでしょう。

難波恭司さん(左)に対しては現役時代、テストライダーとして絶大な信頼を寄せ、またレーシングライダーの先輩として現在も尊敬しているという原田さん。写真はビッグマシン誌2016年4月号より。 ●撮影:折原弘之

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