カワサキZ系の純正鋳鉄スリーブがシリンダーバレルの中で踊って抜けるのは、Zユーザーにとっては半ば常識。バイクいじり専門誌『モトメカニック』がオススメしたいのは、鋳鉄より硬度が高く耐摩耗性も優れたアルミ製メッキスリーブを使う、井上ボーリングが開発した「ICBM®エバースリーブ」だ!
●文・写真:栗田 晃 ●取材協力:井上ボーリング ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
抜けてしまうカワサキZ系の純正鋳鉄スリーブをアルミ製メッキスリーブに
アルミ製のシリンダーバレルと鋳鉄製スリーブという従来からの組み合わせを改め、鋳鉄より硬度が高く耐摩耗性も優れたアルミ製メッキスリーブを使うのが、井上ボーリングが開発した「ICBM®」である。
カワサキZ系の純正鋳鉄スリーブがシリンダーバレルの中で踊って抜けるのは、Zユーザーにとっては半ば常識。ではそもそもなぜスリーブが抜けるのか? 大きな要因は、アルミ合金製のシリンダーバレルと鋳鉄製スリーブの線膨張率の違いにある。アルミは鋳鉄に対して約2倍の線膨張率を持ち、同じ温度で加熱すればアルミの方が2倍膨張する。さらにアルミ合金には高温で荷重を掛け続けることで歪みが増大する「クリープ」という問題もある。
製造から5年や10年ではさして問題にならないかもしれない歪みや変形も、40年を経た後には恒久的な変形として鋳鉄スリーブとの間に緩みを生じさせる原因となる。
新たな鋳鉄スリーブを圧入しても、素材の性質からいつかは再び緩むが、それは次に緩んだ時に考えれば良いだろうという考え方もある。しかし井上ボーリングでは、せっかく内燃機加工を行うのなら、すでに分かっているネガティブな要素は克服したいという信念の下、アルミメッキスリーブの実用化を果たした。
そしてICBM®を実用化した井上ボーリングが、アルミメッキスリーブの普及を目的に開発したのが「エバースリーブ」である。鋳鉄スリーブの場合、スリーブの外径よりシリンダーバレルの内径を6/100〜8/100mmほど小さくして、120℃ぐらいまで加熱膨張させた上でスリーブを圧入するが、これに対してエバースリーブは、シリンダーバレルの内径をアルミメッキスリーブ外径と同じか、1/100mmだけ小さく加工するという。鋳鉄スリーブなら確実に緩む内径差だが、シリンダーバレルとスリーブが共にアルミ製なら走行風で冷却されるシリンダーバレルより燃焼時の熱を受けるスリーブの方が膨張するはずだから、スリーブの密着度は高まるのではないかと想定。
圧入代がほぼゼロなら、アルミスリーブをシリンダーバレルに挿入した際の内径変化が発生しない。そうであるなら、使用するピストンをあらかじめ決めておけば、内径加工とメッキを施したアルミスリーブを準備しておくことができる。
アルミスリーブを挿入してから内径を加工し、その後でメッキを行う場合、メッキ加工により納期が2ヶ月ほど掛かる。だがメッキ済みのアルミスリーブあれば、どこの内燃機屋や機械加工屋でもシリンダーバレルに下穴を開けてスリーブを挿入できるから短納期が実現する。
それでもアルミメッキスリーブは高額な印象があるかもしれない。具体例を挙げれば、内径加工とメッキを行ったZ1/Z2用エバースリーブは1本3万円〜3万5000円となる(予価税抜)。一方、井上ボーリングで鋳鉄スリーブを購入すると1本1万8000円(税抜)。単体価格は6割以上高額だが、鋳鉄スリーブは圧入後にボーリングとホーニングが必要なの対して、エバースリーブはシリンダーバレルの内径加工だけで済むため、加工費を含めた総額の差はグッと縮まるという。
私のKZ900LTDはエバースリーブ第一号機なのだが、加工組み立て後1000kmほど走行した時点では何ひとつ問題は発生していない。シリンダーバレルとアルミスリーブの膨張率が同じなのは先述の通りだが、アルミスリーブとアルミピストンも膨張率は近似となるため、鋳鉄スリーブよりもピストンクリアランスを小さくできる。これはピストンの振れやエンジンノイズ減少にも効果的に働いているはず。
井上ボーリングでは古いエンジンを現代的な技術で蘇らせる考え方を「モダナイズ」として提唱している。Z1/Z2用から始まるエバースリーブで、アルミメッキスリーブのICBM®を体感するZオーナーが増えることを期待したい。
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