第47回マシン・オブ・ザ・イヤー2019

エンジン設計のスペシャリストが大考察!

60馬力&2万回転!? もしも【コスト度外視、最新技術】で4気筒250ccを作ったらどうなるのか

  • 2019/8/17

今の技術で250ccの4気筒を作ったら、どんなエンジンができるのか? 構成は? メカニズムは? そして、パワーや最高回転数は!? エンジン設計のプロフェッショナルに“理想のニーゴー4発”を考えてもらったら、モノスゴイ説得力だった!

4発クォーターよ、復活せよ!!!

正直な話をしよう。僕は超高回転エンジンのマニアだ。エンジン設計を生業とし、30年以上もいろんなエンジンに携わってきたが、個人的には若い頃から超高回転エンジンが一番好きだ。

ここで言う超高回転とは、だいたい15000rpm以上を指すと考えてほしい。当てはまるのは2輪の小型マルチシリンダーエンジンと4輪のF1エンジンぐらいしか見当たらない。では、それらのどこに人を虜にする魅力があるのだろう。

こんな話をするのも、今回のお題が250ccの4気筒だからだ。編集部からの情報では、近い将来に新たな4発クォーターが出るらしい。どうせ出るならこんなエンジンがいいな……というのを、エンジン設計者兼マニアの立場で考えてみたい。

イナガキデザイン代表

解説:稲垣一徳(イナガキデザイン代表) メーカーからエンジンの設計やコンサルティングを請け負うエンジンのスペシャリスト。関わったエンジンは明かせない物が多いが、1990年代後半にWGP500に参戦した、チームケニーロバーツの2ストロークV3エンジンは氏の設計だ。

皆さんは、4発クォーターの熱き時代を覚えているだろうか? 30年ほど前、レーサーレプリカブームの勢いに乗って、2ストロークも4ストロークも250ccはみな45psまで性能アップした時代があった。2ストクォーターはレーサーのほぼ正確なレプリカで、フルパワー化すると大排気量車を簡単にカモれるぐらいの性能を持っていた。対して4スト4気筒クォーターはと言うと、15000rpm近くのピークパワー付近はそれなりに速いものの、2ストよりも車重が重くて車幅も広く、それほど速いイメージはなかったのではないだろうか。

しかし、そんな4スト4気筒クォーターに魅力を感じていた人は僕を含めて大勢いたと思う。私事で恐縮だが、我が家にはカワサキのバリオス(それも45psの初代)がある。息子のバイクだ。熱き時代を知る由もない彼が自分で選んだバイクで、不思議に思って選択理由を聞いたことがある。理由の一つは「音が良いから」とのこと。息子は音楽好きでサックスを吹くが、確かに4発クォーターはまるで管楽器のような、昔の高回転F1エンジンに近い音がする。1シリンダーあたりの排気量が62ccしかない4発クォーターは、吸排気バルブの径もφ20mm以下しかなく、確かに管楽器サイズなのだ。

4発クォーターが新たに登場するとしたら、心配なのはこの魅力的な音だ。これから出るエンジンは、2020年から始まるユーロ5規制に適合させる必要がある。そのためには様々な排ガス処理装置が必須だが、三元触媒は排ガスを浄化する際に音を消してしまうし、二次エア導入装置やEGR装置のために吸気ポートや排気ポートに開けられた穴は、超高速で流れる吸気や排気にとって邪魔者でしかない。加えて、触媒を最も浄化効果が発揮できる場所に置けば、出力や音に大きな影響を持つエキパイの管長や形状にもおのずと制約が生まれてしまう。

でも、この時代にわざわざ4発クォーターを復活させるのだ。ここはユーロ5をクリアした上で、本当の超高回転と管楽器のような音の共存をぜひ目指して欲しいと思う。

現代の技術で作れば60ps/20000rpm!?

それではここから、僕が考える新型4発クォーターの理想像を書いていこう。編集部からの要望もあり、コストに関してはある程度無視した“夢のエンジン”を考えてみたい。

まずは、熱き時代には出来なかったことを実現したい。エンジンをもっと小さく、軽く、現代の2気筒250ccと同等レベルに仕上げたい。お手本は現在のリッターSSのエンジンだ。昔は一列に並んでいたクランク/メイン/カウンターの3軸を立体的に配し、前後長の短いエンジンにしたい。

現代のシャーシにマッチさせるには、重心位置も重要だろう。4発ゆえに増加する横幅は、ジェネレーターやスターターをうまく配置し、希望も込めて2気筒+20mmくらいに収めたい。横幅で大事なのがシリンダーで、ボア間の短縮と冷却性能アップのためにアルミメッキシリンダーを採用したい。スリーブを入れるよりも約15~20mmは寸法を詰められる。市販車である以上は低中速回転域も無視できないから、ボア×ストロークは従来同等、ボア径で48mm程度でいいだろう。

高コストゆえ、近年ではホンダRC213V-S程度しか採用例のないカムギアトレイン。写真は1986年登場のホンダCBR250フォア。

性能面では、熱き時代で15000rpm程度だった最高出力発生回転数を約18000rpm、最高許容回転数(=レッドゾーンの入口回転数)を20000rpmとしたい。出力的にはレース仕様で60ps、公道仕様でも220ps/Lとなる55ps程度を狙いたい。かなり希望も入っているが、燃料供給がキャブからFIになったことはプラスに働くはずだ。

それらを実現するためのメカニズムだが、超高回転エンジンとしては、まずは動弁系が肝心だ。18000rpmというと、4バルブは当然として、吸気カムの開度が300度は必要となる。こうした開度の広いカムでは、ピストンのバルブリセス(逃げ)が深くなり、バルブのリフト量と圧縮比をさほど大きく出来ないという、超高回転エンジンに特有の問題が生じる。バルブリフトは最大10mm程度、圧縮比も12.0~12.5がいいところだろう。それでも超高回転なので単位時間あたりの燃焼回数は多く、たくさんの仕事をこなすことが可能だ。

リフトが高くないこともあって、動弁系にフィンガーフォロワー方式までは必要ない。動弁系の等価重量、つまりカムに押されて動く部分の重量が軽いにこしたことはないが、リフター形式でも対応はできる。バルブもチタン合金と行きたいところだが、ここは4発クォーター特有の理由でスチール材とせざるを得ない。チタンバルブは軽さでは有利だが、強度がスチールより劣るためにステム径を太くする必要がある。ただでさえ細い250ccの吸排気ポートをさらに狭めてしまう可能性があるからだ。

可変カムにチタンコンロッド、ドライサンプも欲しい!

もう一つ、動弁系のトピックとしてはカムギアトレインの採用だろう。カムチェーン方式だと10000rpm程度からチェーンが微妙に暴れ出し、正確な動弁系駆動が難しくなる。18000rpmで超高速の動弁系駆動を行うためにはギアトレインは必須と言える。30年前の熱き時代も、ホンダの4発クォーターだけはギアトレインを採用していて、超高回転で最も綺麗な回り方をしていた。ただし、カムギアトレインも12000~13000rpmぐらいに共振点が出ると思われるので、ここは知恵を絞る必要がある。

さらに、新時代の4発クォーターを名乗るからには動弁系の可変機構が欲しい。スズキGSX-R1000のような可変バルブタイミングも良いが、理想はより効果の大きいカム切り替え機構。例えば開度300度と250度を回転数などで切り替え、それに応じてリフトやバルブタイミングも変更されるメカニズムで、ホンダ4輪のVTECや、2輪でもBMWが展開するシフトカムなどと同様のものだ。4発クォーターは低回転域の摩擦損失が大きく(全て4つ付いてるからね)、どうしても低速トルクが細くなってしまう。カム切り替え機構があれば低速トルクが改善されて乗りやすくなるうえ、燃費や排ガス規制への対応も楽になるのだ。

カムシャフトを左右にスライドさせてハイ/ローカムを切り替えるBMWのシフトカム(写真)。ロッカーアームを用いるホンダ4輪のVTECのように、ハイカム時に動弁系重量が増加しないのがメリット。

燃焼室は、とにかくバルブを立てて、ヘッド側を小さくまとめたい。より細身なスパークプラグやレーザークラッドバルブシート(アルミ製シリンダーヘッドのバルブが当たる部分を、レーザー照射などで硬化処理したもの)も採用可能だろうから、熱き時代のものよりバルブ径も大きくしやすいし、燃焼室上部の冷却も改善できる。

主運動系については機械損失、特に摩擦損失が小さくなるよう、ひとつひとつの部品を見直したい。ピストンも30年前よりピンハイト(ピストンピンより上の寸法)を短くし、はるかにフリクションを小さく設計できる。ピストンリングも薄くしてフリクションを減らしたいが、いちばんのキモはオイルリングで、ここの厚さと張力のダウンは限界まで頑張りたい。

コンロッドについては、熱き時代は細く軽いコンロッドをスチールで作るため、浸炭熱処理という表面硬化処理を行っていた。現代ならやはりチタン合金コンロッドだろう。こちらはさほど小さい部品でもないので、バルブと違いチタン合金で対応可能。連桿比(コンロッド中心間長さ÷ストローク半径)も最低5弱は必要で、ここを外すと回るエンジンにはならない。

クランクは、ピン径とジャーナル径を極力細くしてフリクションを減らしたい。ジャーナル径も5ヶ所を揃える必要はなく、端側はより細くしてもいいが、細くした分は強度確保のため、現代の良質な鉄鋼材料を使う必要がある。熱処理によるクランク強化も可能だろう。ピン部とジャーナル部の隅R(フィレットRと呼ぶ)も極力大きくして強度確保に努めたい。

クランクまわりで大切なのがセンター給油化だ。18000rpmの超高回転下では、通常のジャーナルからのオイルの受け渡しは難しく、クランク端部からオイルを入れ、その中心部を縫うように設けられたオイル通路からピン部へ給油するべきだろう。クランクベアリングについてはメタルではなく、半割りタイプのニードルベアリング(一体型クランクとボルト留めタイプのコンロッドが使える)の採用もアリだ。潤滑系には近年のリッターSSで採用され始めているドライサンプか、またはセミドライサンプを採用したい。18000rpmでクランクが回っているケース内では、オイルミストでさえ抵抗でしかない。

吸気系はFIになったことで、熱き時代よりもかなりアドバンテージがある。緻密な燃料セッティングはもちろんだが、実は最大のメリットはスロットルをエンジンに近づけられること。超高回転エンジンでは吸気管長は極力短くする必要があるが、熱き時代はキャブレターボディの大きさで、あまりエンジンに近づけなかった。超高回転域の燃料供給の安定性を増したいなら、吸気ポートに加えてファンネル上部からも燃料を吹く、ツインインジェクター式としてもいい。

正直、全てを採用するとリッターSSクラス並みに高価になってしまうかもしれない。でも、超高回転化はひとつの技術で成り立つわけではなく、多くの技術を積み重ねていき、少しずつ達成していくものなのだ。

だから、もしメーカーが新しいエンジンを開発しているなら「これぞ新時代の4発クォーター!」という姿を見せつけて欲しいし、その意味ではカムギアトレインとセミドライサンプをぜひ採用して欲しい。性能も、さすがに55psは難しいとしても、熱き時代の45psは上回りたいし、Z900RSのようなサウンドチューニング技術を駆使すればいい音も実現できると思う。メーカーさん、そんな4発クォーターを待ってます。いいのが出たら息子のバリオスを買い替えますから(笑)。

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帰ってきたネイティブ足立区民。ヤングマシン、姉妹誌ビッグマシンで17年を過ごしたのち旅に出ていた編集部員だ。見かけほど悪い子じゃあないんだぜ。
■1974年生まれ
■愛車:MOTOGUZZI V7 SPECIAL(2012)