第47回マシン・オブ・ザ・イヤー2019

「自信」という足がかりのために……

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.4「タイムアタックがもたらすもの」

  • 2019/3/1

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第4回は、テストではタイムアタックをしたことがないという理由について語る。

TEXT:Go TAKAHASHI

Aの方向がうまくいっても、Bを試しておく

マレーシア・セパンサーキットとカタール・ロザイルサーキットで行われた今年のモトGP開幕前公式テスト。調子を上げてきたように見えるヤマハ、ライダーのフィジカルコンディションが気になるホンダ、いろんな新技術をどんどん投入してくるドゥカティと見所はたくさんありますが、今年は特に新人たちの勢いの良さが目立ちますね! フランチェスコ・バニャイヤ、ファビオ・クアルタラロ、ジョアン・ミル、そしてミゲール・オリベイラ……。新人たちは1発のタイムアタックにもかなり気合いが入っています。みんな自分がどれぐらいイケるか試したくて仕方ないんでしょうね。

新人たちがハデなタイムを出している影で、着々と決勝に向けてマシンを仕上げているように見えたのは、マルク・マルケス、バレンティーノ・ロッシ、アンドレア・ドヴィツィオーゾの3人でしょうか。さすがに彼らは、今自分たちがやるべきことをしっかり見極めているようです。特にドヴィツィオーゾはレースを見据えて淡々と走り込んでいました。ランキング2位が続き、王座が間近に見えているだけに、テストの時間をどう使えばよいかがよく分かっているのでしょう。

僕自身は、テストでは一切タイムアタックをしませんでした。エンジニアに「ソフトタイヤを装着するからアタックしてよ」なんて言われても、まったくその気なし(笑)。GP参戦初年度の新人の時からそうでした。なぜかって? タイムアタックに自信がなかったから(笑)。というのは半分冗談、半分本気です。アタックに自信がないというより、そもそも予選では2列目グリッドまでに並べればいいと考えるタイプだったし、テストではとにかくレースセッティングを突き詰めたかったんです。だって、レースってライバルより1mmでも先にゴールすれば勝ちですからね。誰に教わったわけでもなく、ずっとそうやって戦ってきました。

テストでは、できる限りいろいろなことを試しておくべきなんです。Aという方向性でうまく走れたとしたら、そっちを突き詰めたくなるのがライダー心理。でもそれだけじゃなく、思い切り逆のBという方向も試しておかなければなりません。レーシングマシンはとてもシビアなので、路面コンディションがちょっと変わっただけでも急にうまく走れなくなることがあります。正しいと思っていた方向性が、突然通用しなくなるんです。そんな時、あるひとつの方向性しかテストしていないと、いきなり未経験のトライをしなければいけなくなる。レースウィークの限られた貴重な走行時間を無駄に費やすことになりますよね。

だから時間がたっぷりあるテストで、いろんな方向性を試しておくんです。そうするとうまく行かなくなった時にも、さまざまなデータが手元にあるから素早く修正できる。そういうことの積み重ねが、勝つためには必要なんです。まぁ、いくらテストだからって、他のライダーのタイムを気にするなっていうのも難しくて、どうしても焦っちゃうんですけどね。実際、マルケス、ロッシ、ドヴィツィオーゾたちはすでに十分な結果を残しているベテラン格だからこそ、落ち着いてじっくりテストができるけど、若手や新人がどうしても目先のタイム出しに走ってしまう気持ちも理解はできます。

というよりむしろ、新人はどんどんタイムアタックした方がいいんですよ。レースでは勝てないかもしれないけど(笑)。というのは、タイムをどんどん上げていくことで手に入るものもあるからなんです。それは、自信。やっぱり世界のトップカテゴリーで競い合う連中っていうのはハンパないですからね。その中で自分が本当に通用するかどうか、新人は誰だって不安だらけです。テストでも何でもいいからタイミングモニターの上の方に自分の名前があれば、「おっ、オレもやれるのかもしれない」と思える。そこからがスタートです。何事においても前に進めるのって、「自信」という足がかりがあるから、なんですよね。

ところで別の視点から見ると、モトGPにデビューしたばかりのニューカマーがいきなり活躍できるのは、それだけモトGPマシンのデキがいいから、とも言えると思います。モトGPマシンは乗ったことがありませんが、300km/hを余裕で超える最高速やラップタイムの速さからもエンジンパワーの凄まじさは分かります。それを電子制御が扱いやすくしているのでしょう。共通ECUになって制御の精度は落ちたと言われていますが、大きな助けになっていることは間違いありません。僕も最高峰クラスで3シーズンを戦いましたが、当時の2ストマシンはアクセルを開ければウイリーかホイールスピンといったシロモノで、とんでもなく難しかった(笑)。それに比べれば今のモトGPマシンはずっと完成度が高く洗練されているはずです。

じゃあ誰でも速く走れるかといえば、それはまた別の話。電子制御をどう使いこなすかというテクニックはもちろんのこと、体力もかなり必要です。モトGPマシンのスピードはかなり速いし、車重も重いので、特にブレーキング時に体にかかるGは相当なものです。カーボンブレーキの強烈な効きで体が前方に持って行かれそうになるのをしっかりと支えながら、素早く繊細なブレーキ操作をしなければなりません。もちろん凄まじい加速にも耐えなければならない。体力的にはかなり厳しいでしょう。そんなモトGPを操っていきなりタイムを出すんだから……、やっぱり今年の新人たちはスゴイ!!

【’93年 ロードレース世界選手権 250ccクラス】レースはライバルより1mmでも先にゴールすれば勝ち。グランプリ参戦初年度からその姿勢は崩さなかったという原田さん。

『世界GP王者・原田哲也のバイクトーク』は、毎月1日・15日にお届けします!

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原田哲也

原田哲也

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1993年ロードレース世界選手権(WGP)250の世界チャンピオン。1992年に全日本で同クラスのチャンピオンを獲得し、翌年に初挑戦のWGP250で戴冠した。現役当時のニックネームは「クールデビル」。'02年に現役を引退し、現在はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。