“あの事件”から、気になる現在の仲は……?

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.1「カピロッシ? 今じゃ親友だよ」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんがヤングマシンに登場だ! ’99年以来となる連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第1回は、日本のGPファンなら誰もが悲鳴を上げた’98年最終戦、ロリス・カピロッシとの「あの事件」から……!

TEXT:Go TAKAHASHI

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お互いに過去のことには触れない、でもそれでいい

年始のパーティーはずいぶん飲んだなぁ……。生きてきた中でも1番楽しいパーティーだったかもしれません。誰と一緒だったかって? 1998年に世界GP250ccクラスでチャンピオンを獲得した、ロリス・カピロッシです。ロリスは踊りまくるわヅラをかぶるわ、本当に楽しいヤツです。……なぁんて話をすると、以前からGPを観ていた方には「ええーっ!?」と本気で驚かれます。僕とロリスとの間では、日本人GPファンの方にとっては衝撃の出来事がありましたからね。

’98年の250ccクラスは、ロリスと僕がチャンピオン争いをしていました。勝負は最終戦アルゼンチンGPまでもつれ込んだんですが、決勝のファイナルラップでロリスが僕にオーバースピードで突っ込みクラッシュ。僕は転倒リタイヤし、立て直して2位でチェッカーを受けたロリスがタイトルを獲得したんです。

現役時代は「ふざけんなよ!」とずっと思ってました。すれ違っても口を利くことはなかったし、ロリスからの謝罪のようなアクションも何ひとつありませんでした。レースはれっきとしたスポーツで、やっていいことと悪いことがある。今振り返っても、あれは絶対にやってはいけないことです。

でも、決して許されない行為であり、今でも「アレは絶対にナシだぜ!」と思っていることを前提とした上で言えば、あの時の「何としてでもチャンピオンを獲りたい」というロリスの気持ちを、僕は買います。それぐらいの気迫がなければ、世界チャンピオンは獲れない。接触して本当に相手を蹴落としてしまうのは許されないことだけど、世界タイトルを獲るためには、それぐらいの執着心を持って戦いに挑むべきです。……もっとも、’01年の大ちゃん(加藤大治郎)とのタイトル争いは常にクリーンでしたが(笑)。

世界チャンピオンになるか、ならないかは、本当に驚くほどの差があります。僕が獲得した世界タイトルは結局’93年の1度だけでしたが、それでもヨーロッパでは大事にされています。もし’98年に2度目のタイトルを獲っていたら、人生はさらに違ったものになっていたんじゃないかな。そう考えると悔しいは悔しいけど……いや、そんなに悔しくないかな(笑)。結果は覆らなかったから、仕方ないとしか言いようがありません。僕が知らないところでロリスの裁判が進められていて、僕は「カピロッシのチャンピオン確定」と聞かされただけだったので……。

僕もロリスもモナコに住んでいるので、’02年に僕が現役を引退した後も、たびたび顔を合わせることはありました。でも特に用事もないし、声をかけることもなかった。話をしたらチャンピオンが返ってくるわけでもないし、まぁ、冷戦状態ですね(笑)。それが変わったのは、ヨメ同士の付き合いからです。

ウチの娘たちとロリスの長男が同じ学校に通っていて、学年は違うのにヨメ同士が仲良くなったんですよね。で、ヨメの美由希さんに「いいかげん話ぐらいしなさいよ」と言われるようになり、「やだね!」とかわしたんですが、しまいに「子供みたいなこと言ってんじゃないの!」とピシャリ。ヨメの鶴の一声をきっかけにロリスと話すようになり、今やほぼ毎日のように顔を合わせる仲です。

’98年最終戦アルゼンチンGPの話は、一切してません。だから和解もしてない(笑)。でもロリスはもともといいヤツだし、まわりにもすごく気を使うタイプで、一緒にいてめちゃくちゃ楽しいんです。お互い過去のことには触れないままだけど、あの瞬間に時計が戻るわけでもないから、それでいいんだと思っています。

ああ、でもこうして’98年の話をしていると、世界GP250ccをアプリリアで戦った’97~’98シーズンを思い出しますね。次回はそのあたりについてお伝えします。

中央にいるのがロリス・カピロッシさん、その左が原田哲也さん。互いの奥様同士のチームワーク(?)により、交流が再開された。

『世界GP王者・原田哲也のバイクトーク』は、毎月1日・15日にお届けします!

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