マシン・オブ・ザ・イヤー2018
特集:ナイケン徹底解剖#4/5

ヤマハNIKEN(ナイケン)「LMWアッカーマン・ジオメトリ」メカニズム詳解

ヤマハ・ナイケン

フロント2輪の強烈な存在感。見たことのない近未来的なデザイン…。バイクの常識をことごとく覆して、2018年バイク市場において大きな話題となったヤマハNIKEN(ナイケン)は、ヤマハの「バイク愛」がたっぷり込められた1台だ。このニューモデルを徹底解剖する本特集、#4はテクノロジー解説編として、ナイケンの革新的技術「LMWアッカーマン・ジオメトリ」を中心に、豪華メカニズムについても紹介する。


【特集:ヤマハNIKEN(ナイケン)徹底解剖】
#1:丸山浩の試乗レポート
#2:丸山浩の試乗レポート(公道&未舗装路編)
#3:丸山浩の試乗レポート(サーキット編)
#4:LMWアッカーマン・ジオメトリ詳解
#5:開発者インタビュー


NIKENは新技術でスポーツLMWの道を拓いた

これまでにない高い安心感を得られるLMW(リーニング・マルチ・ホイール)。このことはコーナリングにおいても、大きなメリットがあることに気付いたヤマハ開発陣。そこから、「スポーツLMW」という新カテゴリーの創造に全力が注がれたが、そこにはコミューターのトリシティでは現れなかったLMWの構造的な宿命が待ちうけていた。スポーツバイクである以上、深いバンク角を実現しなくてはならない。だが、バイクを寝かせるほどハンドリングが阻害されていってしまったのだ。そこで諦めなかった開発陣。これをナイケン独自のLMWアッカーマン・ジオメトリで見事に解消。ここに新たなスポーツモビリティが誕生したのだ。

まずはLMWのおさらい:パラレログラムリンクで左右にバンク

LMW(リーニング・マルチ・ホイール)とは、ヤマハが生み出した2輪のようにリーンして曲がる3輪車両。その操縦感覚は通常の2輪と極めて同じながら、高い安定感や片輪だけで段差に対応できるといったメリットも持っている。基本構造としては、パラレログラム(平行四辺形)の名のとおり、左右上部フォークとそれをつなぐ2本のリンクが左右にスライド可動することによって同時にタイヤをリーンさせている。操舵機構、つまりタイヤの向きを変える部分については、パラレログラムリンクの下にあるタイロッドをハンドル操作によって可動させることで行う。いわゆるアッカーマン構造として4輪に使われているものと基本的な考え方は同じだ。LMWはこれまでコミューターのトリシティ125と155が発売されており、今回のナイケンが3機種目。ナイケンでは、LMW機構を支える片側2本ずつの片持ち下部フロントフォークが、バンク角確保のため外側に設置されているのが特徴となっている。

ヤマハ・ナイケン

(写真左)ナイケンのパラレログラムリンクは見るからに剛性の高そうな部材で構成。激しい走行にもしっかりと足回りを支えて対応してくれる。(写真右上/右下)バンク角45度を実現したナイケンでは、パラレログラムリンクがここまで可動する。

ヤマハ・ナイケン

ハンドルバー部からリンクロッドを介してタイロッドに直結。そのタイロッドが下部フロントフォーク上に設けられたナックルエンドを押すことでタイヤの向きを左右同時に変える構造となっている。

バンク角を増やすことで問題発生:”ステアリング干渉”で引っ掛かる!?

本来、旋回中の内輪・外輪差がきれいな同心円状を描くことを実現したのがアッカーマン・ジオメトリだったが、スポーツバイクとしてバンク角を増やしていくと問題が発生。それが“ステアリング干渉”と呼ばれるもので、4輪と違い車体がリーンするLMWでは、リーンに伴ってタイロッドも傾斜するので実質上のタイロッド長が変わり、フロント左右輪の向きに狂いが生じてしまう。具体的にはバンク角が深いほどタイヤの向きが外側にガニ股のように開いていってしまい、結果として理想の進行方向に対して引っかかるような感じとなる。ハンドリングの悪化や、パワーロス、燃費悪化などにつながり、スポーツバイクとしては、これはかなり痛い。

ヤマハ ナイケン

(左図)一般的なアッカーマンジオメトリでは、約45度近くまでバンクさせると、タイロッドも傾きアッカーマン効果に影響を及ぼし、前左右輪の方向性に差が生じてきてしまう。これではハンドリング性能が悪くなる。(右図)理想的なジオメトリは、大きくバンクさせても左右輪は同心円を描き、スムーズな旋回を可能とするもの。これの実現にナイケン開発陣は”LMWアッカーマン・ジオメトリ”という回答を導き出した。

“LMWアッカーマン・ジオメトリ”の誕生:オフセットジョイントでタイヤの向きをキレイに

本来、操舵伝達を受け持つタイロッドにリーン機能も持たせたために生じた構造的宿命の“ステアリング干渉”。だが、ヤマハ開発陣は、独自の“LMWアッカーマン・ジオメトリ”にたどり着いてこれを見事に克服、実用化に成功した。可能にしたのはオフセットジョイントと呼ぶレイアウトで、タイロッドのリーン軸とナックルエンドとつながるステアリング軸をオフセットして設定。加えてトレッド、キャスター、タイヤ等との位置関連を最適化することで、バンク角が変化しても左右フロントタイヤが同心円を描く最適なアッカーマン・ジオメトリを得ることができるようになった。これによって、ナイケンはスポーツLMWとして、その性能をいかんなく発揮。満足いくハンドリングを身に着けることとなったのだ。

ヤマハ・ナイケン

タイロッドはリーン軸とナックルエンドがオフセットジョイントによりそれぞれ独立しており、バンク角が変化してもパラレログラムリンクとタイロッドが平行を保ち、左右輪のトー変化は生じないようになる。

ヤマハ・ナイケン

パラレログラムリンク下にあるタイロッドのリーン軸と、ナックルエンドのステアリング軸の位置を互いに邪魔しないようにオフセットして設定。これが”LMWアッカーマン・ジオメトリ”の構造的なキモとなる部分で、ナイケンで初の実用化となった。

ヤマハ・ナイケン

フルバンク中の正面から見ても、タイヤの向きがキレイに揃っているのが分かる。これがLMWアッカーマン・ジオメトリの恩恵だ。

その他にもナイケンには豪華メカニズムを投入

ヤマハ・ナイケン

フロント2輪のLMWであることと、スポーツモデルらしい力強さをアピールするデザイン。スポーツ性能を発揮するためにステアリング部以降は、通常のモーターサイクルレイアウトが採用された。乗車位置は若干後ろ寄りの設定となっている。

ヤマハ・ナイケン

LMW機構のためにワイドなボリュームを持つフロントまわりに。一方、リヤは細身ですっきりとまとめられた。タイヤサイズはF15&R17インチ。

ヤマハ・ナイケン

「スポーツLMW」を名乗るにふさわしく、フロントフォークには伸/圧側ダンパー調整機構が備わっており、幅広いレベルの走りに対応。

ヤマハ・ナイケン

メーターはネガポジ反転液晶タイプ。タコメーターはバーグラフ式となっている。トラコンやD-MODE、クルーズコントロールの設定も表示。

ヤマハ・ナイケン

リヤサスのプリロードは、工具いらずで調整できるリモートアジャスターを採用。2人乗りを楽しむときなどに手軽に変更可能となっている。

ヤマハ・ナイケン

エンジンはMT-09の並列3気筒をベースに、クランク慣性を18%増加。さらにFI最適化などで、スムーズに発進&走行できる特性となっている。

ヤマハ・ナイケン

クラッチ操作いらずのクイックシフター(アップ方向のみ)を装備。またエンジンにはアシスト&スリッパークラッチも採用されている。

ヤマハ・ナイケン

ロングツーリングも楽しんでもらいたいとタンク容量は18L。YZF-R1/R6と同一工法によるアルミ製で軽量化にも寄与している。

●まとめ:高橋 剛 ●撮影:松井 慎/飛澤 慎 ●取材協力:袖ヶ浦フォレストレースウェイ
※この記事は『ヤングマシン2018年12月号』に掲載されたものを基に再構成したものです。
※3輪によるサーキット走行は袖ヶ浦フォレストレースウェイの許可を特別に得てテストしたものです。同施設にて3輪を走らせる場合は、可能かどうか事前に問い合わせを。


【特集:ヤマハNIKEN(ナイケン)徹底解剖】
#1:丸山浩の試乗レポート
#2:丸山浩の試乗レポート(公道&未舗装路編)
#3:丸山浩の試乗レポート(サーキット編)
#4:LMWアッカーマン・ジオメトリ詳解
#5:開発者インタビュー


kas

kas いわゆるWeb担的な黒子

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研二くんのゼッツーに憧れるも手が届かずZ400GPで卒輪(そつりん)した"自二車は中型二輪に限る"世代。あれから30余年を経てまさか再び二輪の世界に触れることになろうとは人生何が起こるかわからんもんだ(笑)
愛車:シトロエン2馬力号(自分的には"屋根付き四輪バイク"の位置付け)

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