
当時の多くの若者に影響を与えたキャロルやクールス。そんな姿に憧れた若者が自らを撮った写真は、矢沢永吉のLP『A Day』のジャケット写真のロケ地・新宿副都心で撮影したものだった。革ジャンにリーゼント、そしてレイバンのティアドロップをかけ、命を削るほど苦労して手に入れたFXS ローライダーにまたがる。整備で一年中クルマの下にいた若者は、その約2年後、港区高輪にて「サンダンス」を創業し2輪業界を激震させていく、ZAKこと柴崎武彦氏だ。40余年の時を経て、進化するサンダンスハーレーと、創造し続けるZAK氏の姿を、いま再び写真に収めることができた。
●文:青木タカオ(ウィズハーレー編集部) ●写真:磯部孝夫 ●外部リンク:サンダンスエンタープライズ
キャロル/矢沢永吉/クールス…あの頃の僕たちのヒーロー
日本が誇る永遠のロックスター・矢沢永吉。社会現象をも巻き起こしたロックバンド「キャロル」の解散後、すぐに発表したソロデビュー曲が『アイ・ラヴ・ユー,OK』であり、そしてセカンドアルバム『A DAY』は、コンサートツアー『33000 MILES ROAD JAPAN』最中の1976年6月21日に発売された。
昭和51年、ロッキード事件で田中角栄前首相が逮捕され、ベトナムでは泥沼化した長い戦争が終わり、南北が統一。アントニオ猪木とモハメド・アリによる格闘技世界一決定戦が行われ、ナディア・コマネチがモントリオール五輪体操競技で史上初の10点満点を取る。
「記憶にございません」が流行語となり、『およげ! たいやきくん』が大ヒットする中、リーゼントに革ジャンで歌い演奏し、バイクを走らせるその姿に虜となっていた少年がいた。1982年、東京・高輪にハーレー専門店「サンダンス」をオープンする、ZAKこと柴崎武彦氏だ。デイトナや鈴鹿8耐など、国内外の第一線級のレースにハーレーで挑むなど、当時の常識を覆すさまざまな活動で業界を激震させ、世界に名を轟かすこととなっていく。
「ハーレーだからこんなもの」「ショベルだから故障して当たり前」と言われ、失望のどん底から、必ず改善させてみせる! との衝動を活動源に、常に最新鋭のテクノロジーを探求し、その技術をユーザーのストリートバイクへフィードバックし続けている。
そんなZAK氏が、初めて乗ったハーレーが1980年式のFXSローライダーだ。1枚の写真が残されている。淀橋浄水場跡に京王プラザホテルが建ち、高層ビル群が成長していく新宿副都心にて、当時写真技術を習得していた自らの手によって撮影現像された。
「当時は写真にも凝っていてね。現像や印画紙に焼くところまで、自分でやったんだ。このスタイルは、その頃のふだんの姿。僕らの時代はみんなそうだったんじゃないかな。クールス/キャロル/矢沢永吉は僕らにとってのヒーローで、ハーレーに乗ったのもクールスの佐藤秀光さんとの出会いがきっかけ。若くてお金もなかった僕は、かなり苦労してローライダーを買ったんだ」
黒×赤の車体色は意図して選んだのではなく「これしかなかった」という。
そして、撮影場所が新宿副都心であったのは『A DAY』のジャケット写真がそうだったからだ。
「照れくさいからやめようよ」
ZAK氏がそう言っていたところを「ぜひとも、やっていただきたい!」と熱望したのが、ロボヘッドローライダーの注文主・相楽誠氏である。
40年以上前に撮った写真を見て、ZAK氏のショベルFXSローライダーをそのまま受け継ぐような、現代版サンダンスハーレーが欲しいとオーダー。「完成した暁には、当時とそのまんま同じように写真を撮りましょう」と提案したのだ。
およそ20年間、サンダンスに足繁く通い、これまで数台のサンダンスハーレーを所有してきた相楽氏。感銘を受けたのは、車両の完成度の高さだけでなく、ZAK氏の生き様や一貫した信念であり、相楽氏自身が事業を成功させていく過程において多大なる影響を受けているという。
誰が見ても、ショベルのローライダーだと思うに違いない。ロボヘッドはエボリューションエンジンをベースとしながら、ロッカーカバーなどショベルヘッドを感じさせるもので、タンクやフェンダーなど外装もまた見紛うほど見事なまでに再現されている。
ソフテイルフレームはスイングアームとツインショック化され、細部にもかなりの加工が施される。低重心で、シート高を抑えられるというメリットももたらしているから舌を巻く。
ノーマル然としているのがサンダンス本流であり、お世辞にも効くと言えない純正ブレーキキャリパーは、そのままの外見を保ちつつ、高強度アルミビレットボディで4ポット化。旧き時代のものを現代的にアップデートさせている。
前後シリンダーのVバンク間にキャブレター2基を備えるロボヘッド1640ccタイプAを心臓部に、FXSローライダーのアイコンである2インチ径の2in1エキゾーストが4インチサイレンサーへ向かって伸びる。
プルバックハンドル/ヘッドライトバイザー/バックレスト/丸いウインカー、すべてが当時を感じさせつつ、よりハイグレードに生まれ変わった。そして、2眼メーターを縦列配置するコンソールには40年前の写真が撮られるきっかけとなった矢沢永吉のアルバム『A DAY』の文字が、オーナー自身のあつらえによってサンダンスのロゴとともに記されている。
ふだんから日々自ら厳しい運動を強いて、知り合いのアスリートも驚くほどの鍛え上げられた肉体に仕上がっているZAK氏だが、この撮影にあたって、さらに身体を鍛え直した。
「写真を撮ったのは22歳の時で、いまは66歳だから人生の1/3の頃になる。マシンが進化しているにもかかわらず、人間がそのままではいけませんからね」
粉骨砕身で取り組む仕事に対する姿勢はもちろん、自らにもストイックなほど厳しいZAK氏はそう言って笑った。ウィズハーレーにて、こうして記事にできたことを、編集長である筆者はたいへん光栄に思う。
EIKICHI YAZAWA『ADay』
矢沢永吉ソロ2作目のアルバム。そのジャケット写真は新宿副都心にて撮影された。現在もSonyMusic(ソニーミュージックエンタテインメント)にて楽曲を購入することができる。
【A面】 気ままなロックン・ローラー/最後の約束/トラベリン・バス/親友/真夜中のロックン・ロール/昼下り 【B面】古いラヴ・レター/六月の雨の朝/真赤なフィアット/ディスコティック/A DAY
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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