●文:ライドハイ編集部(小川勤) ●写真:長谷川徹
ガソリンコックをオンにして、デロルト製キャブレターのティクラーを押すと、ガソリンの匂いが漂う。右足をキックにかけ圧縮上死点を探る。足応えを感じたところで、キックを力強く踏み下ろす。久しぶりだからなかなか勘がわからない…。そうそう、べベルはキックのストロークが長いんだった。でも、今のバイクにはないこんな儀式がたまらなく良い。昔のバイクは、走る前からこんな風にバイクとの駆け引きを楽しめる。
エンジンの爆発感は、現代のバイクにないダイレクトさ
「ズダダダダダッ」まるで機関銃を連射しているかのような、連続するエキゾーストノートがコンチマフラーから響く。決して大きな音ではないが、現代のバイクにはない存在感がある。「良い音だねぇ」撮影している長谷川カメラマンも思わず感心するほどだ。
久しぶりのベベル・900SSに心が踊る。ベベルというのは、カムシャフトがベベルギヤ駆動だから。その後ドゥカティはベルトでカムシャフトを駆動し、現在はチェーン駆動のモデルもある。それにしても、スロットルを開けるのがこんなに楽しいエンジンは他にないかもしれない。ゾクゾクするほど気持ちが良いのだ。
「伊豆スカイラインにはよく行きます」と、オーナーの菊池さん。この900SSは、菊池さんが1981年に登録し(なので1981年式というわけではない)、それ以来のワンオーナー車。年季が入っているディテールはあるが、よくメンテナンスされており、とても調子が良い。
「エンジンは4万kmを超えていますが、一度も開けていません。キャリパーはパッドピンの穴が長穴になってしまったので、交換しました。キャブも変えましたね」
実は菊池さんは、今回バイクをお借りした横浜のショップ「TIO」の工場長。調子が良いのは当然だ。
ドゥカティ=スパルタン。それを決定づける1台
ロー&ロング、そのスタイリングの通り、ポジションはかなりキツい。そして車体やサスペンションは、どちらかというと高速寄りの設定だから、街乗りなんかだと決して乗りやすくはない。
2000年代からはツアラー系などをリリースし、少しずつ身近になってきたドゥカティだが、当時はベベルのみ。その後もしばらくは尖ったスーパースポーツしかラインナップしかなかったため、今のドゥカティからは考えられないかもしれないが、1990年代後半くらいまでは、ドゥカティ=スパルタンというイメージが定着していた。この900SSは、まさにそれを象徴するようなハンドリングだ。
ビギナーお断りのポジション、超スリムで鋭いハンドリング、上手く曲がれない…、確かに難しいことを考えずに走り出せる今のドゥカティの感覚だと、走り出すことすらできないだろう。
ただ、実際に乗っていてカーブで決まった(乗りこなせた)時は、他のバイクにない感動があり、その感性に慣れてしまうと、他のバイクが曲がらなく感じるほどの痛快さがあるのだ。
これはドゥカティが現在でも多用するLツインエンジンによるもの。幅の狭いエンジンだけが見せるシャープな応答性だ。目一杯後ろに座って、前輪が素早くステアする感覚を楽しむ……
※本記事は2021年7月29日公開記事を再編集したものです。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
ライドハイの最新記事
CB750/900Fと並んで進んでいた、ホンダが大攻勢に賭けた初の新エンジン! どのクルマメーカーもお手上げだったマスキー法という排気ガス規制をクリアして、ホンダが世界に認められたCVCCエンジン開発[…]
チェーンの張り調整が必要なのは、チェーンが徐々に伸びるからだけど…… バイクのチェーンのメンテナンスといえば「清掃・潤滑」と「張り(あそび)のチェック」。まず、チェーンを長持ちさせるには清掃や潤滑をマ[…]
車体を傾けたら真っ先に接地する“バンクセンサー” カーブを曲がるために深くバンクさせると、車体のどこかが地面に接地して、ゴリッとかガーッという音と共にステップから衝撃がきてビックリしたことがあるライダ[…]
新型4気筒を待ち焦がれていたホンダファン CBにXが加わった車名のCBX400Fは、1981年10月にデビュー。バイクブーム真っ只中で爆発的な人気を誇ったホンダの切り札となったマシンだ。 実はカワサキ[…]
料金所の停車、30cm行き過ぎたらバックが必要に たとえば地下駐車場入り口のチケット発行機や、出口の料金支払い機、こうしたゲートのある料金所で停車するとき、何かの拍子で30cmほど行きすぎると、機械に[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
CB750/900Fと並んで進んでいた、ホンダが大攻勢に賭けた初の新エンジン! どのクルマメーカーもお手上げだったマスキー法という排気ガス規制をクリアして、ホンダが世界に認められたCVCCエンジン開発[…]
高いポテンシャルを持ちながら肩の力を抜いて乗れる二面性で大ヒット セローが登場した1985年は、オンロードでは本格的なレーサーレプリカブームが到来する頃でした。オフロードも同様で、パンチのある2ストロ[…]
XLCRとはあらゆる点で違う ブラックに統一された精悍な車体の中で、フューエルタンクに貼られたバー&シールドのエンブレムがゴールドで彩られ、誇らしげに煌めいている。 クォーターサイズのコンパクトなフェ[…]
50ccスクーターでバイクいじりを楽しむ 女性向けやビジネス向け、スポーツモデルからハイグレードタイプまで、かつては原付免許を取得したライダーが一度は所有したことがあったのが50ccスクーターだった。[…]
2020年モデルでシリーズ全カラーを総入れ替え! カフェは3色→2色に “火の玉”Z900RSとヴィンテージライムグリーンのZ900RSカフェが牽引してきた初代2018年モデル~2019年モデル。すで[…]
最新の関連記事(ドゥカティ)
ミドルSSの究極を目指しフルチェンジ パニガーレはドゥカティが誇るスーパーバイクで、2018年からはV型4気筒エンジンを搭載し、その戦闘力を高めるとともに車名がパニガーレV4となった。そして2020年[…]
スクランブラー誕生10周年。スタンダードモデルと特別仕様車を発表 ドゥカティ スクランブラーは、2014年に登場したネオクラシックシリーズで、1960~1970年代に人気を博したモデルをモチーフとした[…]
熟成度が深まったアドベンチャーツアラー ムルティストラーダはドゥカティのアドベンチャーツアラーで、2021年のフルモデルチェンジで1158cc水冷V型4気筒エンジン『V4グランツーリスモ』を搭載した。[…]
ライダーを様々な驚きで包み込む、パニガーレV4S 5速、270km/hからフルブレーキングしながら2速までシフトダウン。驚くほどの減速率でNEWパニガーレV4Sは、クリッピングポイントへと向かっていく[…]
全日本ロードレース最高峰クラスで外国車が優勝したのも初 全日本ロードレース選手権シリーズ後半戦のスタートとなる第5戦もてぎ2&4レースで、ついにDUCATI Team KAGAYAMAの水野涼[…]
人気記事ランキング(全体)
2025年こそ直4のヘリテイジネイキッドに期待! カワサキの躍進が著しい。2023年にはEVやハイブリッド、そして2024年には待望のW230&メグロS1が市販化。ひと通り大きな峠を超えた。となれば、[…]
一定以上のスピードの車両を自動的に撮影する「オービス」 結論から言うと、基本的にバイクはオービスに撮影されても捕まらない。そもそもオービスはバイクを取り締まるつもりがない。ただし警察にもメンツがあるか[…]
第1位:JW-145 タッチパネル対応 蓄熱インナーグローブ [おたふく手袋] 2024年11月現在、インナーウェアの売れ筋1位に輝いたのは、おたふく手袋が販売する「JW-145 蓄熱インナーグローブ[…]
新色×2に加え、継続色も一部変更 ホンダは、水冷4バルブの「eSP+」エンジンを搭載するアドベンチャースタイルの軽二輪スクーター「ADV160」に、スポーティ感のある「ミレニアムレッド」と上質感のある[…]
寒い時期のツーリング 冬はライダーにとって、本当に過酷な季節です。急激に気温が下がったりしてきましたが、オートバイに乗られているみなさんは、どういった寒さ対策をしていますか。 とにかく着込む、重ね着す[…]
最新の投稿記事(全体)
今シーズンに続き富樫虎太郎選手を起用、新加入は木村隆之介 元MotoGPライダーの中野真矢さんが率いるレーシングチーム「56RACING(56レーシング)」が、2025年のレース活動概要を発表した。 […]
全日本ST1000とASB1000の両カテゴリーを制す! 開幕2連勝を飾り、常にポイントリードし最終戦を待たずにチャンピオンを決めた全日本ST1000クラスに比べ、ARRC ASB1000クラスは、ポ[…]
一度掴んだ税金は離さない! というお役所論理は、もういいでしょう 12月20日に与党(自民党と公明党)が取りまとめた「令和7年度税制改正大綱」の「令和7年度税制改正大綱の基本的な考え」の3ページ目に「[…]
ヤマハの最先端技術の結晶、それがYZF-R1だ 今からちょうど10年前の2014年11月。イタリアはミラノで開催されたEICMAにおいて、7代目となるヤマハのフラッグシップ“YZF-R1”が華々しくデ[…]
場所によっては恒例行事なバイクの冬眠(長期保管) 「バイクの冬眠」…雪が多い地域の皆様にとっては、冬から春にかけて毎年恒例の行事かもしれませんね。また、雪国じゃなかったとしても、諸事情により長期間バイ[…]