[名車レビュー] ドゥカティ900SS(1981):色褪せない感動的な乗り味と美しさ

ドゥカティ900SS

●文:ライドハイ編集部(小川勤) ●写真:長谷川徹

ガソリンコックをオンにして、デロルト製キャブレターのティクラーを押すと、ガソリンの匂いが漂う。右足をキックにかけ圧縮上死点を探る。足応えを感じたところで、キックを力強く踏み下ろす。久しぶりだからなかなか勘がわからない…。そうそう、べベルはキックのストロークが長いんだった。でも、今のバイクにはないこんな儀式がたまらなく良い。昔のバイクは、走る前からこんな風にバイクとの駆け引きを楽しめる。

ドゥカティ900SS

始動はキックのみ。コツは必要だし、できればプラグを持ち歩いた方がいいかもしれないが、そんな駆け引きもベベルと暮らす楽しみだ。

ドゥカティ900SS

このシルエットに憧れるライダーは多い。最初のSSは1972年の750SSだが、900SSもそのスタイリングを踏襲する。

エンジンの爆発感は、現代のバイクにないダイレクトさ

「ズダダダダダッ」まるで機関銃を連射しているかのような、連続するエキゾーストノートがコンチマフラーから響く。決して大きな音ではないが、現代のバイクにはない存在感がある。「良い音だねぇ」撮影している長谷川カメラマンも思わず感心するほどだ。

久しぶりのベベル・900SSに心が踊る。ベベルというのは、カムシャフトがベベルギヤ駆動だから。その後ドゥカティはベルトでカムシャフトを駆動し、現在はチェーン駆動のモデルもある。それにしても、スロットルを開けるのがこんなに楽しいエンジンは他にないかもしれない。ゾクゾクするほど気持ちが良いのだ。

「伊豆スカイラインにはよく行きます」と、オーナーの菊池さん。この900SSは、菊池さんが1981年に登録し(なので1981年式というわけではない)、それ以来のワンオーナー車。年季が入っているディテールはあるが、よくメンテナンスされており、とても調子が良い。

「エンジンは4万kmを超えていますが、一度も開けていません。キャリパーはパッドピンの穴が長穴になってしまったので、交換しました。キャブも変えましたね」

実は菊池さんは、今回バイクをお借りした横浜のショップ「TIO」の工場長。調子が良いのは当然だ。

ドゥカティ900SS

迫力の空冷エンジン。ドゥカティはこの時代よりもっと前から現在まで、Lツインエンジンを育み続けている。シリンダーの三角形の蓋の中には、ベベルギアが収まる。キャブレターのデロルトの文字の下にある真鍮のスイッチのようなものがティクラー。これを押してガソリンをフロートに送り込む。

ドゥカティ=スパルタン。それを決定づける1台

ロー&ロング、そのスタイリングの通り、ポジションはかなりキツい。そして車体やサスペンションは、どちらかというと高速寄りの設定だから、街乗りなんかだと決して乗りやすくはない。

2000年代からはツアラー系などをリリースし、少しずつ身近になってきたドゥカティだが、当時はベベルのみ。その後もしばらくは尖ったスーパースポーツしかラインナップしかなかったため、今のドゥカティからは考えられないかもしれないが、1990年代後半くらいまでは、ドゥカティ=スパルタンというイメージが定着していた。この900SSは、まさにそれを象徴するようなハンドリングだ。

ビギナーお断りのポジション、超スリムで鋭いハンドリング、上手く曲がれない…、確かに難しいことを考えずに走り出せる今のドゥカティの感覚だと、走り出すことすらできないだろう。

ただ、実際に乗っていてカーブで決まった(乗りこなせた)時は、他のバイクにない感動があり、その感性に慣れてしまうと、他のバイクが曲がらなく感じるほどの痛快さがあるのだ。

これはドゥカティが現在でも多用するLツインエンジンによるもの。幅の狭いエンジンだけが見せるシャープな応答性だ。目一杯後ろに座って、前輪が素早くステアする感覚を楽しむ……

※本記事は2021年7月29日公開記事を再編集したものです。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。