![[バイクの仕組み] タイヤの溝が機能する意味が大きく変わってきた〈ネモケンのライドナレッジ〉](https://young-machine.com/main/wp-content/themes/the-thor/img/dummy.gif)
●文:ライドハイ編集部(根本健) ●写真:ピレリジャパン
ブロックでも舗装路で良好なグリップ。瓦礫に弾かれない柔軟性
欧米では大型バイクの中心的な位置づけにまで成長したアドベンチャー系カテゴリー。砂漠が続くパリダカを制した大型オフロード系のイメージをベースに、そんなサバイバルな逞しさを長距離ツーリングでの新たなポテンシャルに置き換える形で、旅バイクの主流にまでのし上がってきた。
しかし、ツーリングバイクを乗り継いだライダーにとっては、非舗装路を意識したタイヤを装着しているのに、果たして高速道路のクルージングや、一般のワインディングで安心できる安定性やグリップが得られるのか? そんな心配がアタマをよぎっても不思議はない。
が、実際に走ればすぐわかるのだが、いわゆるブロックパターンを装着したオフ系のバイクのような、足元が掴みドコロのないグニャグニャ感など皆無。高速道路でもこれまでのツーリングバイクと遜色ない直進安定性を持っており、ワインディングでもネイキッドスポーツと変わらないグリップ力でグイグイ曲がっていくのだ。
従来のブロックパターンのタイヤとの最大の違いは、完全なラジアル構造へと進化を遂げていることがある。例えばピレリ スコーピオンラリーの場合、内部の繊維(カーカス)構造が、0°(ゼロディグリー)と回転方向で膨張を抑えるベルトに直交したサイドウォールとで構成されており、高速での腰のある安定力とグリップの基本をしなやかな路面追従性で得る、理想的なポテンシャルが構築されている。この変形の追従性は、従来の常識を覆すたわみ方で、大きな安心感と操る醍醐味にも繋がっている。
さらに注目すべきが、そのブロックパターン。まずコンパウンドについて、温度依存の低い、つまりトレッドのゴムが暖まらなくても路面の凹凸に変形して優れたグリップ特性を得る基本性能の向上が大きい。そしてもちろん、ブロックパターンの配列など、その形状にも積み重ねたノウハウが活用されている。
そもそも溝の少ないオンロードタイヤが、ちょっとした非舗装路へ足を踏み入れた途端、前輪から左右へ逃げて一気に不安定になるのは、たとえば砂利の小石を弾いてタイヤを横方向へ逃げる動きを与えてしまうという理由が大きい。
ブロックパターンは、このブロックの柔軟性と深い溝が瓦礫の尖った部分を吸収し、全体にやんわりと包み込むような動きでバイクをホールドできるので、思い通りに操れる特性をキープできるという違いがある。
こうしたオフロードでのノウハウを、舗装路での安定性やグリップとを融合させるのが、最新のブロックデザインだ。タイヤが瓦礫に弾かれない特性を、溝の幅やピッチとで絶妙に得ているため、ちょっとした非舗装路へ踏み込んでも安定したハンドリングが得られている。
このように見た目からは想像もつかない進化が、アドベンチャー系の舗装路でのツーリング・ポテンシャルを大きく変えたのだ。
水はけの溝…ではあるけれど、温度と柔軟性がグリップを支配
一般的にタイヤのゴムは、暖まらないと路面をグリップできないとされてきた。しかしこの常識を覆す変革が、タイヤのトレッドデザインの意味さえ変え始めている。
まずトレッドに刻まれた溝(グルーブ)には、雨天時に路面とタイヤの間に水膜を生じると浮いて滑りやすくなるのを防ぐ、水はけ効果が目的と考えられてきた。
確かにレースのレインタイヤには、深い溝があってこのおかげでグリップできると思いがちだ。もちろん水しぶきを上げるほど雨が降れば、この水はけ効果は大きい。
が、レース中に雨が降り出し路面を濡らしても、レースライダーはしばらくスリックタイヤのまま走り続ける。
溝がなければ瞬く間に滑ってしまいそうだが、タイヤが暖まったまま急激に冷えない状況があれば、パワーでドリフトするようなことさえ避ければ、そこそこグリップできる特性のコンパウンドだからだ……
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