空気と燃料を混ぜた混合ガスに点火し、その燃焼で回転エネルギーを生み出すバイクのエンジン。現行バイクはFI(フューエルインジェクション=電子制御式燃料噴射装置)で混合ガスを作っているけれど、その前はずっとキャブレターが使われていた。キャブレターってなんだかアナログっぽいし、いったいどんな仕組みの機械なんですか?
●文:伊藤康司 ●写真:富樫秀明、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ
電気も動力も使わずに、単体で混合ガスを作るキャブレター
エンジンに空気とガソリンの混ざった混合ガスを供給するのは、内燃機関のバイクが登場してから100年近くキャブレターによって行われていた。1980年頃から市販バイクに燃料噴射装置が採用され始め、キャブレターは2010年頃にほとんど姿を消したが、そもそもどんな仕組みで混合ガスを作っていたのだろうか?
ターボやスーパーチャージャー等の過給機を持たない自然吸気のエンジンは、シリンダーの中をピストンが下降する際に生まれる負圧で混合ガスを吸い込む。キャブレターの吸気通路(ベンチュリ)は途中で狭まることで流速が増加する。キャブレター下部の燃料溜め(フロート室)のガソリンには大気圧がかかり、ベンチュリ内は負圧で圧力が低いため、細いジェットノズルから吸い上げられ、ニードルの隙間から霧状に噴出して空気と混ざり、混合ガスになる。これが大まかなキャブレターの仕組みだ。
キャブレターにも様々な構造があるが、国産バイクは可変ベンチュリ型の強制開閉式、もしくは負圧式の2種類が一般的。可変ベンチュリとはキャブレター内の吸気通路の開口面積を変化させることで混合ガスの量をコントロールするキャブレターのこと。そして古くから使われたのが、キャブレターのピストンバルブをスロットルグリップで開け閉めする強制開閉式だ。
キャブレターは、後に解説する負圧式も含め、基本的に電気や何かしら他の動力を必要とせず、物理現象のみで単体で稼働するじつは相当に優れたパーツなのだ。
ちなみにバッテリーが上がってしまったとき、キャブレター車の多くが「押しがけ」でエンジンをかけられるのも、電気を必要としない仕組みのおかげだ。
強制開閉式(VM)キャブレター
扱いやすい負圧式キャブレターが登場
燃料供給がFI(電子制御式燃料噴射)になる前、4ストロークエンジン車の多く(市販の公道モデルはほとんど)は可変ベンチュリ型の負圧式(CV)キャブレターを装備していた。スロットルグリップで吸気流量を調整するバタフライバルブを開閉するが、ベンチュリの絞りとガソリンの噴出量はバキュームピストンが受け持つ構造になっている。
強制開閉式はライダーの操作で直接ベンチュリの開口面積をコントロールできるので鋭いレスポンスを期待できるが、実際にエンジンが欲する吸気量はその時の回転数やエンジンに対する負荷によって変わるので、ライダーの技量によってエンジンが出せる性能が変わってしまい、ギクシャクしたり燃費が悪化することも多い。
しかし負圧式(CV)キャブレターはエンジンの吸気負圧に応じて自動的にベンチュリの絞りを調整するのでライダーの技量の影響が少なく、スムーズに加減速でき無駄な燃料消費を抑えるメリットもある。そのため、ライダーの手(スロットルグリップ)が全開でも、キャブレター自体は全開になっているとは限らない。
ただし2ストロークエンジンや原付などの小排気量は、吸気負圧が小さくバキュームピストンの作動が困難なため、負圧式(CV)キャブレターは採用されない。