新世代の電子制御車両が求める要件にフィットさせるべく開発された新しいアドベンチャーセグメント向けタイヤ、それが2013年に登場したメッツラーのTOURANCE NEXT(ツアランス・ネクスト)だ。その次世代モデルにあたる『ツアランス・ネクスト2』は、前作の性能を全方位に拡大したポジショニングを確保。オーストラリアで開催された試乗会の模様をレポートしよう!
●文:ミリオーレ編集部(松井勉) ●写真:メッツラー ●外部リンク:メッツラー
松井 勉(まつい・つとむ)/1963年生まれ。モーターサイクルジャーナリスト、BMW MOTORRAD公認オフロードインストラクター。高校生の時、同級生から譲り受けたホンダ CB400Tからバイクライフをスタート。BAJA1000やダカール・ラリーなどへの参戦経験もある。現在の愛車は、BMW R1250GS アドベンチャー。
カバーエリアを拡大し、ライダーにその進化を体感させてくれる
メッツラーからアドベンチャーモデル用タイヤ『ツアランス・ネクスト2』がリリースされた。ヨーロッパで人気が続くアドベンチャーモデルをターゲットにしたタイヤで、フロント19、リヤ17インチを履くプレミアムクラスはもちろん、フロント21、リヤ18インチを装着するトラベル・エンデューロと呼ばれるミドルクラスカテゴリーに対するリプレイスや、OEMで活躍が期待されるタイヤだ。
アドベンチャーバイクのユーザーは、バイクが持つ機能性、機動性に刺激され、趣味の幅がとても広い。日常使いからツーリング、そしてトラックデイでスポーツライディングを楽しむ層や、海外では国境を越え道を選ばないツーリングをするクロスオーバーな遊びをする層も珍しくない。
そんなアドベンチャーならではの多様性を楽しむために、メッツラーではこのカテゴリーのタイヤを細分化。ロードよりのモデルから順に、『スポルテックM9RR』『ロードテック01』ここに紹介する『ツアランス・ネクスト2』、ローライズしたブロックパターンでストリートとダートロードをクロスオーバーしたタイヤ『カルー・ストリート』、さらにはその走りを昇華させダートでの走りの機能が刷新された『カルー4』と、走り方、遊び方に合わせ綺麗なグラデーションを描くラインナップを持つ。
新たなオンロード指向タイヤのベンチマーク
ここで紹介する『ツアランス・ネクスト2』は、いうなればアドベンチャーバイクのど真ん中、ニュートラルポジションに向けたタイヤだ。スポーツツーリングからダートロードまで、しかもあらゆる天候でメッツラーに期待する安心感を持たせたつくりが特徴となっている。
開発は、ツアランス・ネクストが持つ性能を拡大伸張させるような方向で行われ、ニューモデルに投入された進化した要素は次のとおり。
1.あらゆるリーン角度でライダーが感じるコントロールの正確性を向上。
2.ウエット性能の向上。ブレーキングパフォーマンスの向上による制動距離の短縮。
3.新しいコンパウンドとトレッドパターンにより性能維持と耐久性をアップ。
各項目を具体的に見てみよう!
1.メッツラーが得意とする進行方向に対し0°で巻き付けられたスチールベルトが貢献。タイヤの軽量化と均一した発熱性、そして理想的な接地面をつくるためのたわみ剛性を獲得し、自然なハンドリングを実現している。
2.フロントタイヤには、さまざまな路面状況への対応力を強化した、新しいアダプティブハイシリカ・トレッドコンパウンドを採用。このテクノロジーを用いることで、雨天時の85㎞/h走行時からのブレーキングでマイナス10%の制動距離を実現している。リヤはハイパーベースと呼ばれる技術を投入。トレッド面の下にもう一枚100%カーボンブラックのゴムベースを引くことで、熱安定性を高め、センタートレッドが受けた熱を床暖房のようにサイドに伝えるような構造となっている。
3.トレッドの溝の幅、深さなどをセンター、ミドル、フルバンクのエリアで分けたほか、トレッドゴムを最適化することにより具現化。また、接地するトレッドを4種類のピッチで描くことで走行時のタイヤパターンノイズも低減している。
メッツラーの技術者は、軽いハンドリングと低い気温時でも安心のグリップ、ウエット性能を届け、多くのユーザーに認められた先代を超えるパッケージとした、という。
試乗会では様々なビッグアドベンチャーとの相性を実感
今回のテストは、フロント19、リヤ17インチを履く、BMW R1250GSアドベンチャー、ドゥカティ ムルティストラーダV4S、KTM 1290スーパーアドベンチャー、ハーレーダビッドソン パンアメリカを乗りかえながら行った。空気圧はメーカー指定値。2人乗り可能時のフロント2.5バール、リヤ2.9バールで走行した。
まず1250GSアドベンチャーで走り始める。もっとも重量級であるこのバイクでどう感じるのか関心があったからだ。
動き出しの低速ターンはスムーズかつ転がりが軽い。市街地に出て交差点や左折小回りも意のまま。乗り心地に関してもド新品なのに芯の固さもない。5㎞ほど走り、ガソリンスタンドに入った際にリヤタイヤのトレッドを触ると、すでに40℃程度に発熱をしている。
秋のオーストラリア、外気温は16℃、路面温度も太陽が出ているとはいえ、高くても25℃程度。ここまでは60km/hを上限に信号待ちや交差点へのアプローチだけでアベレージは低い。多少暖かい程度かと思ったら、しっかり発熱していることに驚かされる。ここまでも不安なく走れたのはこうした暖機性能の良さだろう。
市街地から郊外へ。制限速度は100km/hまで上がる。いわゆる対向二車線の道を100km/hで流す。緩やかなカーブで、アドベンチャーバイクが持つ視界の良さ、そしてアップダウンをものともしない大トルクが身にしみる。
ムルティストラーダV4でも好印象!
途中、ドゥカティのムルティストラーダV4Sに乗り換える。V4グランツーリズモエンジンを搭載し、競合がひしめく中でもパワフルさを売りにする一台だ。
渓谷沿いを流していると、ワインディングへと入っていく。下りセクションが続くが、全体のペースが上がっていく。カーブの曲率がキツく、山側は高い壁。崖を縫うような感じで走っていく過酷なシチュエーションだ。
ライディングモードをツーリングからスポーツにシフトすると、サスペンションの減衰力が強まるのを実感。ハンドリングのレンスポンスに軽快さがでてくる。それでもストロークのあるサスペンションのためアベレージを上げた際のブレーキングでは姿勢変化が大きめ。
そのキャラクターを活かしながら、奥まで見通せない道をゆとりを持ったラインで進む。フロントは19インチながらレスポンスは良く、リーンアングルに合わせた反応をしてくれる。減速、旋回ともグリップに不満はない。
アクセルを開け、加速しながら次なるコーナーを目指してV4の大トルクを与えると、リヤタイヤは粘るようにグリップして脱出加速を楽しませてくれる。このパートだけを見るとスポーツツーリングタイヤ、ロードテック01SEに近いものを感じさせてくれるほどだ。
開発テスト中、高速サーキットのとあるシケインの通過セクターで前作と新作を比較したところ、1秒以上の差が出たという。それでいてキャラクターは前作に近く、ハイペースなのにゆったりとした心境で走り続けられている。
履くだけでグレードアップを実感できる!
軽快なのにライダーを急かさないこのキャラクターは乗り換えたハーレーダビッドソンのパンアメリカでも同様だった。ランチスポットで折り返し、同じ道を辿って帰る。
途中、雨雲が残したウエット路面も走ることができたが、なるほど、安心感がある。特に乾いた部分と濡れたところが交互に現れるような場面の峠道ではリーンアングルこそ多少起こすものの、そのまま通過してもトリッキーな挙動はなく、濡れた路面を通過する瞬間、微少に動くレベル。おしなべてメッツラーのウエット性能は高いが、先代から伸張した性能という説明に偽りはない。
マイレージにかんして400キロ弱のテストでは言及できないが、ここまでのテストで得た各部の進化から察すれば文言通りなのではないか。メッツラーらしい全方位性能の高さにより尖った感なく高い総合性能を楽しめた。
新作は、前作のキャラクターを拡大した、という結論になるが、『ツアランス・ネクスト2』を履くだけでグレードアップする走りを知った今、自分のバイクとこのタイヤを長期間履いたらどうなのだろう、という新たな興味すら沸いてきたのである。
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