
最近、ドゥカティディーラーにいくとゼッケン21をまとったパニガーレV2をよく見る。『21』はワールドスーパーバイクで3回のタイトルを獲得したトロイ・ベイリスのゼッケン。ベイリスはなぜこんなにドゥカティスタに愛されているのか? ここではベイリスのストーリーを紹介しよう。
ベイリスに人生最大のチャンスが訪れたのは2000年
トロイ・ベイリスは、1969年オーストラリア生まれ。4歳の時から自宅の近くの森の中をミニバイクで走りまわり、10歳の頃にはモトクロスやダートトラックレースに参加。プロライダーになることを夢見て少年時代を過ごしていた。23歳の時、彼と後に妻となるキムと2人で貯めたお金を元にして、最初のレーシングバイクを購入。レースの世界でキャリアをスタートさせた。
オーストラリアでスーパースポーツ選手権などを戦い、好成績を収める。1997年にはフィリップアイランドで行われたオーストラリアGPにワイルドカードで参戦し、6位に入賞。1998年からはGSEレーシングから996RSを駆り、BSB(ブリティッシュ・スーパーバイク選手権)に参戦。1999年にはチャンピオンを獲得している。
キャリアの初期でライダーとしての才能を示したベイリスに人生最大のチャンスが訪れたのは2000年のこと。SBKの第2戦、フィリップアイランドで当時のドゥカティのファクトリーライダーであったカール・フォガティが負傷。その代役としてベイリスが抜擢され、日本のスポーツランドSUGOで開催される第3戦でファクトリー仕様の996に乗ることになったのだ。この時、ベイリスはすでに30歳だった。
レース1のスタート直後、ベイリスは第1コーナーに向かうが接触してクラッシュ。信じられないことに同じことがレース2のスタート直後にも起こった。ベイリスは菅生での2回のレースを1周も走ることができずに終えた。大きなチャンスを逃し、ベイリスの夢は消えてしまったように思えた。
ファクトリー2年目となる2001シーズン。第5戦モンツァでダブルウイン。その後もホンダのコーリン・エドワーズとタイトル争いを繰り広げながら、第12戦アッセンでタイトルを決めた。マシンは996 F01。 [写真タップで拡大]
雪辱の舞台はドゥカティの本拠地イタリアのモンツァ。1回のブレーキングで4台を抜き去った伝説のオーバーテイク
ドゥカティの聖地イタリアのモンツァで開催されるSBK第5戦は、再びベイリスにチャンスが回ってきた。ベイリスは日本での苦い経験から、このオファーを受けることを最初ためらったという。しかし、サーキットのスタンドを埋め尽くしたイタリア人ファンの視線のほとんどは、ドゥカティのファクトリーライダーに向けられていた。迷った末に、ベイリスはその多くの期待を背負う覚悟を決めたという。
ベイリスがレースの世界でレジェンドとなったのはレース2の9周目のことだった。300km/hを超える速度で進入する最初の連続コーナー。首位と僅差の5番手でこのコーナーに突入したベイリス。前を走るライバルたちがみんなブレーキをかけて頭を上げたとき、ベイリスはまだマシンに伏せたままだった。そこで一気に4台を抜き去ると、本来のブレーキングポイントのはるか奥で、猛然とフルブレーキング。スタンドを埋めるイタリア人ファンは息を吞んだ。そして、その直後、歓声が沸き起こったのだ。レースの解説者は熱狂的にベイリスの名前を4回連続で叫んだという。
ゼッケン1でディフェンディングチャンピオンとして挑んだ2002シーズン。前半圧倒的な強さを見せたが、1ポイント差で挑んだ最終戦でコーリン・エドワーズに敗れランキングは2位に。マシンは998 F02。 [写真タップで拡大]
「ドクター、ドクター。指を切り落としてくれ、レースに戻りたい」
モンツァでの伝説のオーバーテイクによって、ドゥカティファンの心をわしづかみにしたベイリスは、その後も快進撃を続け2001年もファクトリーライダーとして継続。2001年には996Rを駆って15回の表彰台を獲得し、キャリア初のSBKチャンピオンの栄冠に輝いた。
2002年シーズンも素晴らしい戦いを続け、年間14勝をあげポイントランキングトップで最終戦イモラ(イタリア)に挑む。その時の2位は、ホンダVTR1000 SP-2を駆るコーリン・エドワーズで、ポイント差はわずか1ポイント。最後の決戦は大勢のイタリアンが見守る中で、抜きつ抜かれつの大接戦に。TV観戦していた数多くのファンは、居ても立っても居られずに、サーキットのゲートの前に詰めかけたという。レースに敗れ、悔し涙を流すベイリス。そんな彼を慰めるようにエドワーズはベイリスを抱きしめた。その時の2人の姿は、ファンの記憶に永遠に残るものとなった。
ベイリスがレースにどれだけ情熱を注いできたのかということが分かるもう一つのエピソードがある。2007年イギリスのドニントンのレース1のトップを走っていたベイリスは、高速コーナーでクラッシュして、右手をバイクに潰されてしまう。出血し、ぶらさがるような状態の小指をかかえて、エマージェンシールームに駆け込んできたベイリスの口から発せられたのは「ドクター、ドクター。指を切り落としてくれ、レースに戻りたい」というものだった。
レース2を走り、少しでもポイントを稼ぐ必要があるのだという。その直後、ベイリスは気絶してしまう。本当に指を切断することになったベイリスだったが、レースに対する情熱を失わず、その翌週のバレンシアでは表彰台を獲得。世界中のドゥカティファンからさらに愛されるライダーとなったのだ。
2006年、ベイリスはSBKのタイトルを決めた直後にMotoGP最終戦であるバレンシアに怪我をしていたセテ・ジベルノーの代役で参戦。スタート直後から飛び出し、MotoGPで自身初勝利をあげた。2位に入ったのはロリス・カピロッシ。ちなみにこのラウンドでホンダのニッキー・ヘイデンがタイトルを決めた。 [写真タップで拡大]
SBKでは現役最後となった2008年シーズン。1098のデビューイヤーにタイトルを獲得。自身3度目のSBKタイトルを獲得した。引退後は四輪のレースやダートラックを楽しみ、48歳の時にはオーストラリアスーパーバイク選手権にも参戦している。ベイリスの後方を走るゼッケン41はヤマハの芳賀紀行で、ベイリス引退後にドゥカティのファクトリーライダーに。2009年にランキング2位を獲得している。 [写真タップで拡大]
パニガーレV2 ベイリス 1stチャンピオンシップ 20周年記念モデルが上陸!
52回の優勝、94回の表彰台、3回のスーパーバイク世界選手権タイトルを獲得したドゥカティとベイリスのコンビ。ベイリスは2003年から2005年はMotoGPに参戦。2006年には再びSBKの舞台で活躍。2006年と2008年にタイトルを獲得した。
そんなベイリスの偉業を記念して誕生したのが、新型パニガーレV2 ベイリス 1stチャンピオンシップ 20周年記念モデル。ベイリスが2001年に最初のSBKタイトルを獲得したときに駆っていた996Rからヒントを得たカラーリングを採用。また、サーキットでの走りを新たな高みへと引き上げる、プレミアムなオーリンズ製の前後サスペンションを装備している。
2001年にベイリスが初タイトルを獲得してから、2021年で20周年。これを記念し、ベイリスのキャリアに敬意を表して製作されたのが、パニガーレV2 ベイリス 1stチャンピオンシップ 20周年記念モデルだ。ベイリスが2001年のスーパーバイク世界選手権(SBK)で駆っていたドゥカティ996Rを想起させる特別記念カラーが特徴となっている。 [写真タップで拡大]
主要諸元■全長/全幅/全長未発表 軸距1438mm シート高835mm 車重197kg(装備)■水冷4ストロークV型2気筒DOHC4バルブ 955cc 155ps/10750rpm 10.6kg-m/9000rpm 変速機6段 燃料タンク容量17L■タイヤサイズF=120/70ZR17 R=180/60ZR17 ●価格:265万円 ●色:20周年特別色 [写真タップで拡大]
リチウムイオンバッテリーとシングルシートを採用することで、スタンダードのパニガーレV2から3kgの軽量化を達成。ゼッケン21をあしらったイタリアンカラーのステッチが施されたシートもスペシャルだ。前後サスペンションはオーリンズ製。サスペンションの違いからか、ホイールベースはスタンダードのパニガーレV2よりも2mm長く、シート高は5mm低い。 [写真タップで拡大]
※本記事は”ミリオーレ”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です。
パニガーレV2/ベイリス1stチャンピオンシップ20周年記念モデル 概要 伝統的に設定されてきた同社最高峰モデルの弟分。アルミモノコックフレームに、お家芸のLツイン955㏄を搭載し、速さと自由度の高さ[…]
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