
●文:モーサイ編集部(山本晋也) ●写真:北村誠一郎 ホンダ
ホンダ EM1 e:のデザイン/装備:質感は普通の50ccスクーターよりワンクラス上
2023年5月にホンダが発表した、同社として初の一般ユーザー向け電動スクーター「EM1 e:」。楽しみにしていた公道でのテストライドをする機会に恵まれました。ホンダが推進している交換式リチウムイオンバッテリー「Hondaモバイルパワーパックe:」と、インホイールモーターによる電動パワートレインを与えられたEM1 e:の走りはどのようなものだったのか、さっそくお伝えしようと思います。
あらためてEM1 e:の外観からチェックしてみましょう。門のようにシグネチャーで囲われたヘッドライトをはじめ、灯火類にはすべてLEDを採用。シンプルなデジタルメーターは電動パーソナルモビリティらしいムードを高めています。
スタイリングのコンセプトは「シンプル&クリーン」。フレンドリーさを狙ったということですが、フロントに12インチタイヤを履き、ディスクブレーキを採用していることもあって安っぽさはありません。
EM1 e:は原付一種(いわゆる50ccクラス)の電動スクーターですが、パッと見には原付二種と思わせるほどの立派さがあります。
ホンダ初の一般ユーザー向け電動2輪車「EM1 e:」。原付一種のスクーターで、2023年8月24日発売。車体色はパールサンビームホワイト/デジタルシルバーメタリックの2色をラインアップ。
ホンダ EM1 e: 価格は29万9200円となっているが、車両本体15万6200円/バッテリー8万8000円/充電器5万5000円という構成で、個別に購入することも可能。
ホンダ EM1 e:の走行性能:ダイレクトかつレスポンスのいいスロットル反応
後ろから見ると排気系が存在しないのは当然ですが、リヤホイールがメカメカしく重量感のあるものとなっています。これはEM1 e:が駆動系としてインホイールモーターを採用しているから。ホイール自体をモーターとすることで、変速機によるエネルギーロスを減らすことができ、レスポンスを向上させられるのがメリットです。反面、ダイレクト駆動ということで、減速による駆動量のトルクアップが難しいというデメリットもあります。
そして、EM1 e:に採用されたインホイールモーター・EF16M型のスペックは、定格出力0.58kW/最高出力1.7kW/最大トルク90Nmとなっています。定格出力は原付一種の上限が0.60kWなので妥当として、最高出力は原付一種としてみても低く感じます(1.7kW=2.3ps)。最大トルクは一見すると大きく見えますが、減速比を勘案した“駆動トルク”でいうと、原付一種エンジン車でも100Nmは超えますから、やはり力強いとはいえません。
インホイールモーターで後輪を駆動。リヤサスペンションは一般的なスクーターで定番のユニットスイングではなく、スイングアーム式。
フロントタイヤは12インチ(多くの50ccスクーターは10インチ)。フロントブレーキは190mmシングルディスク。
性能数値以上に余裕のある走り!
はたして、EM1 e:の公道初走行の感想は、「すべてに余裕がある」というものでした。
モータースペック的には、エンジン車の原付スクーターと比べて見劣りするのは事実ですが、インホイールモーターによるダイレクト感と、スロットルに対する反応の適切さが、そうしたネガを完全に打ち消しています。
EM1 e:には、スタンダードとECON(イーコン)という2つのライディングモードが用意されていますが、スタンダードで走っているかぎり、原付スクーターとして加速が鈍いという感じはありません。
このように表現すると、「回り始めに最大トルクを発生できるというモーターの特性から、発進加速が鋭いだけでしょう」と思ってしまうかもしれませんが、そういう意味ではありません。
むしろ発進時はマイルドに仕上げてあって、走り出してからの中間加速にモーターらしいダイレクトさやレスポンスを感じられるのです。原付スクーターというのは、普通自動車免許でも運転できますし、初心者が乗る機会も多いモビリティです。そうしたユーザー特性を十分に意識したセッティングになっているといえるでしょう。
初心者や普段バイクに乗らない人でも扱いやすいように、リヤ(左)ブレーキ操作でフロントブレーキも作動するコンビブレーキも採用されている。
ここで誤解してほしくないのは、EM1 e:の走りは決しておとなしいわけではないことです。前方に路上駐車しているクルマが突然ドアを開けたようなシチュエーションでは、危機回避としてスラローム的な走りをすることもありますが、そうした動きをしたときの安定性は、原付スクーターとは思えないレベルとなっています。
また、急制動をかけたときの安定感も抜群。バッテリーをシート下に積んでいることやインホイールモーターを採用していることにより、後輪荷重がかかっているので、フルブレーキングでも前後輪がしっかり接地しています。この感覚は、エンジン車ではなかなか味わえない新鮮なものでした。
ECONモードを選ぶと、最高速度は30km/hに制限され、そこまでの加速も明らかに絞られた印象となりますが、住宅街などを走るのであれば、むしろ好ましいといえるフィーリングとなっています。
というわけで、公道走行の第一印象は非常によいものでしたが、実際に購入検討する上で気になるのは実用性でしょう。
右スイッチボックスに、スタンダードモードとECON(マイルドな走行感かつ省電力となるモード)の切り替えスイッチがある。
シンプルな円形のメーターユニット。液晶内には速度計/バッテリー残量を大きく表示、オド/トリップ/時計は切り替えで表示できる。液晶上部は走行モードと速度警告灯のインジケーター。
ホンダ EM1 e:の航続性能/機能性:“電費”はバッテリー10%で4kmぐらいだった
前述したように、交換型バッテリーをシート下に搭載する関係から、メットインスペースはありません。小物を入れることはできますが、ヘルメットの収納については、リヤボックスを付けるか、持ち歩くかしなさそうです。
それよりも気になるのは航続性能でしょう。カタログスペックでは30km/h定地走行で53kmとなっています。定地走行の数字が実用的な航続可能距離を示していないというのは、多くのライダーであればご存知でしょう。
ホンダの発表している参考値でいえば、欧州のWMTCクラス1モードで走ると、30kmを走行するのにバッテリーの80%を使うということです。EM1 e:はバッテリー残量が20%を切ると、最高速度などを抑えたライディングモードに切り替わる仕様となっているので、バッテリーを使い切るまで走るとトータル41.3kmの走行が可能ということになっています。
そうはいっても「カタログスペックやモード走行は参考にならないよ」と思うかもしれません。しかし、それはエンジン車の感覚であって、電動車両というのはタイヤの数にかかわらず、意外なほどWMTCモード値に近い走りが可能なものです……
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