こだわりバイクライフSNSショッキングVol.9
「制約がバイク趣味を楽しくする」元ガレージ難民 たまねぇさんのバイクライフ
ライダーの数だけバイクに対する向き合い方も、バイクライフの楽しみ方も違うハズ。そんなひとりひとりのこだわりをリレー形式で語ってもらう連載企画。タイトルは某アワーのパク…リスペクト。第9回目は、実家暮らし時代から整備場所に悩み、いつしか理想のバイクライフを手に入れたたまねぇさんだ。
リレーのバトンを受け取りました、たまねぇと申します。仕事と家庭の狭間で、どうにか趣味ライフを楽しもうと日々奮闘中です。私の記事では、限られた時間や機材、敷地の制約の中で、どのようなバイクライフを過ごしてきたかを、自身の単車道に絡めつつお話しようと思います。
バイク趣味のきっかけは、ノルタルジー溢れるYB-1
バイクにのめり込むきっかけとなったのは、大学生だった2014年頃。ネットでたまたま見かけた1枚の写真です。そこに写っていたのは、夕日に照らされた、ブロック塀沿いに位置する古そうなバイクでした。そのノスタルジックな雰囲気に心惹かれてしまって。調べてみると、それは1996年に発売されたレトロスポーツ「ヤマハ YB-1」という原付だということが分かりました。
メッキパーツの単車らしい輝きと、普通免許でも乗れる手軽さから、完全に虜に。缶ジュースのために1駅歩くほどにセコかった私ですが、YB-1のことが頭から離れず、ついに少ないバイト貯金のほぼすべてを、オークションにぶつけて購入しました。
大きな買い物をさせたがらない父も、私の熱意にやられて応援してくれて。画面に「落札」の二文字が浮かんだときには、いよいよバイクライフが始まるんだと手が震えました。
ラクに遠くにと考えるうちに、安心して走れる車体を自分で仕上げたくなり、整備に俄然、興味が湧いてきました。ところがいざ始めようと思うと、そううまくはいかなかったのです。
整わない整備環境
当時は実家のマンション住まいで、たいした工具もなく、相談できるバイク仲間も少なかったのです。じゃあ駐輪場はといえば、狭い共用スペースだけ。そこで弄るには少し寂しくて、最初に”ガレージ”としたのは、玄関でした。エレベーターにバイクを押し込んでは、人目を気にしてそそくさと部屋の中に運び入れたのも、今ではいい思い出です。
ガソリンが漏れて床材がボロボロに剥がれ、親にひどく叱られたものです。それからは、たまに友人から知識と工具を借りつつも、基本的には青空整備でした。
1年ほど経った頃に、周囲の仲間が続々と中型バイクに乗り換えていくように。一緒にツーリングへ向かうことが難しくなり、こっそり教習所に通って、ホンダのGB250を購入しました。増車でいよいよ整備場所に困ったところで、力になってくれたのが、近所の製本工場でした。
かけ合ってみたところ、空きスペースを借してくれることになったのです。でも、作業は工場の人が捌けた日没後。当然、明かりはほぼありません。レンチを持つ時間より、防犯灯の人感センサーに手を振っている時間の方が長かったのは、香ばしい思い出です。
その後も、ひとり暮らしのために引っ越したり、同棲/結婚したりと環境がどんどん変わっていきましたが、整備場所の問題は常に付きまといました。迷惑にならない場所を探して、日中にロケハンし、持ち主に許可を取り、夜中にバイクを押していって整備。忘れ物をするたびに、家まで帰るという試行錯誤の日々が続きます。
ですが一方で、場所や機材にとらわれない楽しみ方が身につきました。たとえば、加工しやすいプラ素材でパーツを作って、塗装でアルミに見せるとか、ボルト留めを隠してパテで溶接痕を再現してみるなどです。小排気量車のカスタムに目覚めたのも、車両が細くて省スペースで整備ができるためですね。
ガレージライフの始まり
その後のバイクライフを大きく変える出来事が起こったのは、2019年のこと。いつものように、アパートの物陰で整備をしていたら、後ろから声をかけられたのです。
「お兄さんこういう古いバイクが好きなの? ウチ古い乗り物直してるから、今度遊びに来てみない?」と。通りすがりのその方は、自宅アパートから徒歩10分ほどのご近所さんで、旧車の発掘やレストアに知見を持っていました。
話せば話すほど、お互いの趣味が合うことがわかり、すぐに意気投合。その後、その方を中心に集まった趣味仲間で、美容室の居抜きをガレージ化することになり、急速に旧車ライフが加速していきます。
同時に、ガレージ仲間の「まだ乗れるマシンが捨てられていくのはもったいない」という言葉を受けて、同行する形で”救出活動”を始めました。
これはどんな活動かというと、たとえば、散歩してると、カブなどの古いバイクが民家の間で放置されてることがありますよね。そういったバイクを見つけては、家主に声をかけて、譲ってもらい、ガレージに持ち帰って、清掃/動体化するといった感じです。
何度も通った道でも意識すると、街並みの解像度がグッと上がるものです。放置車がそこかしこに見つかって、とても面白い。ガレージ内もどんどん賑やかになっていきました。こういった活動を軸に、どんどん趣味仲間が拡大し、生活圏内にフラッと立ち寄れる拠点が増えていきました。
「今日まで生き残った個体を大事にし、車両・文化ともに次の世代に残したい」という思いが強くなってきたのも、この頃。ゼロから始める旧車の世界は、すべてが新鮮で。とくに、何でもネットで情報が手に入るこの時代に、文化が古いゆえ整備情報が検索に出てこないケースがあるということが、とても感慨深いです。
そこからわかるように、旧車の維持には人同士の繋がりが大事だったりします。その気付きが得られてからは、コミュニケーションに前向きになれて、心なしか性格も社交的になりましたね。事実、展示イベントやガレージセール等で知り合って、仲良くなってくれた方がたくさんいて、私のバイクライフを支えてくれています。
コロナ禍での新たなバイクいじり
しかし、仲間と趣味に没頭して語り合う最高の日々も、2021年からのコロナ禍で、中断せざるを得なくなります。ガレージに集うことができなくなり、整備する機会も激減してしまいました。あり余った創作欲をどうしようかと悩んでたところ、目についたのがプラモデルです。
実車だとおいそれとできないカスタムでも、スケールモデルならやりたい放題。コスパもよすぎるだけでなく、触る場所も時間も自由なので、さまざまな欲求を満たしてくれました。
加えて、手に取ることで、バイクが持つデザインの美しさに気づけたことも収穫でした。当時のメーカーのこだわりや、そのバイクに込められた意志にまで思いをめぐらせることができ、1台作るたびに大きな満足感を得られます。
最近では、その車両が歩んだ歴史も再現するようになりました。たとえば、錆やヤレの表現には、実車の整備経験がとても参考になっています。今では独立した趣味のひとつとなり、今後も続けていくつもりです。
いつしか自分の中にあった、こだわりの単車道
こうした日々を経て、いつの間にか私なりに、バイクと向き合う上でのこだわりができていました。そのひとつは、車両に敬意を払うこと。何人ものオーナーと一緒に、数十年歩み続け、私が知らない歴史を経て、いまここにある…。そう、思いを巡らせると、ロマンを感じずにはいられないのです。ボルト1つでも、その年期を含め、もう絶対に増えることはない部品たち。愛着を持って扱っています。
さらに、当時に思いを馳せて面白がることもまた、私なりのこだわりです。産まれるより何年も前の、存在しない夜にトリップして、同じ趣向の仲間とあーだこーだと語り合う時間がとても楽しいですね。あえて1970~1980年代っぽい服で乗ってみたり、その時代の小物を暮らしに取り入れたりと、車両そのものだけでなく、いろんな角度から懐旧の情を味わっています。
バイクだけにゾッコンにならないこともまた、バイクを楽しむための秘訣です。結婚後は時間の制約も加わり、簡単な作業に数週間かかったりするのですが、それもまたいい。見切り発車で作業できないからこそ、時間とお金のムダ使いを防げています。それに作業する日を心待ちにしながら、別の趣味に寄り道していると、楽しみが長持ちするんですよ。
もっとも、趣味を楽しむうえでは、家族の理解がなにより大切です。なるべく家事をしてポイントを貯め、双方気持ちよく生活できるように「家族時間の先行投資」は欠かさないようにしています(笑)。それもまた、自分の人生を豊かにしてくれている時間だったりするから、面白いですよね。
次回の「こだわりライダーSNSショッキング」は…
イラストレーターのすらくすさんが登場予定。どんなバイクライフやバイク愛を語ってくれるか、乞うご期待!!
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