ワールドカップ優勝とGPタイトルの相関関係を徹底検証! サッカーの強さとレースの速さは果たして比例するのか!?

●文:[クリエイターチャンネル]風間ナオト
世界的な人気を持つサッカーとモーターサイクルロードレースは、ヨーロッパを中心に発展してきたという共通点を持っています。
産業構造によって状況は異なり、特にたくさんの費用がかかるモータースポーツ人口は、その国の経済状況とも密接につながってきますが、サッカーの強さとレースの速さには、果たして相関関係があるんでしょうか?
サッカー強豪国から順番に検証していきましょう。
2022年はサッカー強国のイタリアがロードレース界で復権! フランチェスコ・バニャイアが2009年のロッシ以来となるMotoGPチャンプになり、ドゥカティもコンストラクターズ部門のタイトルを日本メーカーから奪い取りました [写真タップで拡大]
【ブラジル】
ワールドカップ優勝数:5
チャンピオン獲得回数:0.5?
2003年のゴロワーズ・ヤマハ、2004年のレプソル・ホンダでは陣営のエース格として期待されましたが、結局、タイトル獲得までには至りませんでした。
ハードブレーキングと雨に強いことで知られ、難しいコンディションに見舞われた1999年の鈴鹿8耐では、岡田忠之とのコンビで優勝もしています。
そのバロスに才能を見出されたディオゴ・モレイラは、デビューイヤーとなった2022年のMoto3でランキング8位。ポールポジションを獲得するなど速さもあり、まだ10代と若いことから、今後、母国に初の栄誉をもたらす可能性は、決して少なくはないでしょう。
2017年のMoto2王者で、現在、ヤマハのファクトリー・チームに所属するフランコ・モルビデリは、母がブラジル人、父がイタリア人なので、もしかしてブラジリアンのチャンピオン獲得回数を0.5回と数えてしまっても良いのかも?
【イタリア】
ワールドカップ優勝数:4
チャンピオン獲得回数:81(MotoGP/500cc:21、Moto2/250cc:25、Moto3/125cc:24、350cc:8、50cc/80cc:2、MotoE:1)
1934年の地元大会をはじめ、通算4度の栄冠を手にしているイタリアは、ロードレースでも強さを遺憾なく発揮しています。
合計9回(MotoGP:6、500cc:1、250cc:1、125cc:1)の世界チャンピオンに輝いたバレンティーノ・ロッシと合計15個(500cc:8、350cc:7)もの世界タイトルを獲得したジャコモ・アゴスチーニのGP2大レジェンドをはじめ、フランコ・ウンチーニ、マルコ・ルッキネリといった伊達男たちが、歴代王者に名を連ねます。
最高峰クラスでは惜しくもチャンピオンにはなれませんでしたが、250ccを4年連続で制したマックス・ビアッジの活躍も記憶に残ります。
さらに2022年にはフランチェスコ・バニャイアが、2009年のロッシ以来となるMotoGPチャンプになり、ドゥカティもコンストラクターズ部門のタイトルを日本メーカーから奪還しました。
1975年、アゴスチーニが日本メーカー初となるタイトルをヤマハに導くまで、同国のMVアグスタを走らせたライダーが、1958年から1974年まで最高峰クラスを17年連覇しているのも驚異的です。
ヨーロッパ予選プレーオフで敗退し、今回のワールドカップ本大会には出場していませんが、ユーロ2020で優勝した実力国なだけに、ロードレース界と同じく、きっかけ次第で再びイタリア最強時代がやって来るのかもしれません。
【ドイツ】
ワールドカップ優勝回:4
チャンピオン獲得回数:18(Moto2/250cc:10、Moto3/125cc:4、350cc:2、50cc/80cc:4)
【フランス】
ワールドカップ優勝回:2
チャンピオン獲得回数:8(MotoGP/500cc:1、Moto2/250cc:5、Moto3/125cc:2)
ワールドカップの実現に尽力したフランス出身のFIFA会長、ジュール・リメの名が冠された優勝トロフィーが、初めてかの地に渡ったのは地元開催の1998年。前回のロシア大会で2度目の優勝を遂げました。
1984年王者のクリスチャン・サロンや2000年にチームメイトの中野真矢との激戦を制したオリビエ・ジャックなど、250ccクラスをはじめとする中・軽量クラスで活躍するライダーを多く輩出しているイメージですが、2021年にファビオ・クアルタラロが同国に初めて最高峰クラスのタイトルをもたらしました。
2022年はエンジンパワーに勝るドゥカティ勢に対して劣勢を強いられ、惜しくもチャンピオンを逃しましたが、現在23歳とまだまだ若いので、YZR-M1の競争力次第では、今後、フランス王朝を築くことも十分考えられます。
2015年・2016年とMoto2クラスで2連覇を果たしたヨハン・ザルコは、ドゥカティ陣営で実戦開発的な役割をしていますが、シーズンの流れ次第で周囲のサポートを得られれば、自らタイトルを獲得することも夢ではないでしょう。
【アルゼンチン/ウルグアイ】
ワールドカップ優勝数:2
チャンピオン獲得回数:0
1986年のメキシコ大会、対イングランド戦でのマラドーナの5人抜き、神の手ゴールが世界に鮮烈な記憶を与え、2度目の優勝を果たした南米の強国から世界チャンピオンはまだ生まれていませんが、セバスチャン・ポルトは最も成功したライダーといえるでしょう。
1994年からGPへと参戦。翌年から250ccクラスへとフルエントリーし、2002年のリオGPで初勝利。2004年には5勝を挙げ、ランキング2位を獲得。キャリア通算7勝を挙げました。ちなみに本名は「ポルコ」ですが、豚みたいで格好悪いと思ったのか、いつの間にか「ポルト」に名前が変わっていました。
1930年に自国で開催された初回大会、1950年のブラジル大会を見事に勝ち抜き、同じく優勝2回の古豪ウルグアイからも残念ながらGP王者は生まれてきていません。
MotoGPを統括するドルナスポーツが、世界の頂点を目指す若いライダーを発掘する『Road to MotoGP』のプログラムとして『ラテンアメリカ・タレント・カップ』と『FIM ミニGP・ラテンアメリカ・シリーズ』を開催していくということなので、南米ライダーの躍進に期待しましょう。
【イングランド】
ワールドカップ優勝回:1
チャンピオン獲得回数:44(MotoGP/500cc:17、Moto2/250cc:9、Moto3/125cc:5、350cc:13)
現在でもサッカーファンの間で意見が分かれる西ドイツ戦での“疑惑のゴール”を決勝点に、1966年の自国大会で最初で最後の優勝を記録したフットボールの母国は、GPタイトルからもやや遠ざかっています。
古くよりモータースポーツが盛んだったイギリスからは、1949年のGP創設時から数多くのチャンピオンが誕生。“マイク・ザ・バイク”の愛称で知られる天才ライダー、マイク・へイルウッド、史上唯一、GPの500ccとF1という2輪・4輪各々の最高峰カテゴリーで世界王者に輝いた“ビッグ・ジョン”ことジョン・サーティース、史上初めて125cc、250cc、500ccの3クラスでチャンピオンになったフィル・リードと、名ライダーは枚挙にいとまありませんが、最高峰クラスでは1976年と1977年に500ccをスズキで連覇したバリー・シーン以来、王者が現れていません。
2015年のMoto3はダニー・ケントが制しましたが、近年、イギリス人ライダーはGPで少数派になっているため、再びのタイトル獲得にはもう少し年月が必要かもしれませんね。
【スペイン】
ワールドカップ優勝回:1
チャンピオン獲得回数:59(MotoGP/500cc:11、Moto2/250cc:12、Moto3/125cc:22、50cc/80cc:12、MotoE:2)
2010年の南アフリカ大会で初優勝。まだ優勝は1回ながら、世界トップレベルの国内リーグを背景として、常に優勝候補へと名前が挙がる“無敵艦隊”スペインは、ロードレースの世界でも“無双状態”が続いています。
合計13の世界タイトル(125cc:7、50cc:6)と史上3位のGP通算90勝を誇る国民的英雄のアンヘル・ニエトを筆頭に、中・軽量クラスであまたの名ライダーを輩出してきましたが、転機となったは1999年、アレックス・クリビーレが当時の最高峰、500ccクラスで同国初の世界チャンピオンになったことでしょう。
国王を一番のサポーターに、スペイン国民全体がこよなく愛するサッカーとモーターサイクルロードレースですが、地元のクラブチーム単位での応援が主だったサッカーが、1992年のバルセロナ五輪金メダルをきっかけにさらなる躍進を遂げたように、この年を境により大きな熱狂を生み出すようになりました。
レアル・マドリードやFCバルセロナといったビッグクラブの『カンテラ(下部組織)』が厚く高いレベルの選手層を支えているのと同じく、2005年にドルナスポーツが設立し、元GPライダーでHRCチーム・マネージャーのアルベルト・プーチらが指導する『MotoGPアカデミー』をベースに活動し、スペイン選手権を前身とする『FIM ジュニアGP(旧FIM CEVレプソルインターナショナル選手権)』で競争させ、育成するシステムがしっかり機能しています。
ここ数年、ロッシが主宰する『VR46ライダーズアカデミー』で育ったイタリアン人ライダーの頑張りも目立ってきましたが、現在もMoto2、Moto3クラスには次代を担う若いスパニッシュがひしめいており、“スペイン勢、強し”の状態は、今後もしばらくは続くでしょう。
【アメリカ】
ワールドカップ優勝回:0 最高成績:3位
チャンピオン獲得回数:17(MotoGP/500cc:15、Moto2/250cc:2)
アメリカンフットボール、野球、バスケットボールのいわゆる“3大スポーツ”が圧倒的な人気、競技人口を持つアメリカは、長らく“サッカー不毛の地”と呼ばれてきましたが、実は1930年の初回ウルグアイ大会で3位になっています。
それからはずっと低迷期が続きますが、1994年のアメリカ大会でベスト16、2002年の日韓大会でベスト8、2010年の南アフリカ大会と2014年のブラジル大会でもベスト16と、まずまずの成績を残しているあたり、さすがにスポーツ大国といえます。
女子はワールドカップで史上最多となる4度の優勝。オリンピックでもこちらも史上最多となる4個の金メダルを獲得。サッカーを好むヒスパニック系の人口比率が全人口の2割近くまで増加しており、今後さらなる躍進が期待できるでしょう。
一方、ケニー・ロバーツが1978年に500ccクラスを制覇して以来、1990年代前半まで主に500ccで猛威を奮ってきたアメリカンライダーですが、2006年のニッキー・ヘイデンを最後に新しいチャンピオンが誕生していません。
アメリカンレーシングの栄光を取り戻すべく、現在はFIM(国際モーターサイクリズム連盟)、ドルナスポーツと提携。『AMA』から『MotoAmerica(モトアメリカ)』に名を改め、500ccを3連覇したウェイン・レイニーを中心に力を注いでいますが、満を持してMoto2に参戦したキャメロン・ボービエが、これといったリザルトを残せず、国内レースへの復帰を表明するなど、復権にはもうしばらく時間がかかりそうです。
1978年から500ccを3連覇し、アメリカ黄金時代の祖を築いた“キング”ケニー・ロバーツ。愛弟子たちも1980年代から1990年代前半にGP界を席巻。息子のケニー・ロバーツ・ジュニアも2000年の500ccを制し、初の親子での世界王者に [写真タップで拡大]
【オーストラリア】
ワールドカップ優勝回:0 最高成績:ベスト16
チャンピオン獲得回数:12(MotoGP/500cc:8、Moto2/250cc:2、Moto3/125cc:1、350cc:1)
500ccクラスを5連覇したミック・ドゥーハン、ドゥカティに初のMotoGPタイトルをもたらし、ホンダでもチャンピオンになったケーシー・ストーナーと名王者を生んできたオーストラリアは、ラグビーが人気のお国柄もあってか、2006年ドイツ大会での1回のベスト16が最高と、サッカーでは目立った成績を残せていません。
2021年にはレミー・ガードナーがMoto2王者に輝いて、1987年に500ccを制した父ワインと親子での世界王者となりました。
2022年、レミーはテック3・KTMでMotoGPクラスを戦いましたが、チーム、マシンとの相性もあって結果を出せず、来年からWSBK(スーパーバイク世界選手権)へと戦いの場を移すことになりました。
MotoGPクラスでランキング5位を獲得したジャック・ミラーは、ドゥカティ・ファクトリーからKTMに移籍。2023年も履いていたブーツにシャンパンを入れて飲むオーストラリアの風習『シューイ』を表彰台で見せてくれる可能性は十分ですが、ワールドカップの舞台で『シューイ』が見られる日は果たして来るのでしょうか?
MotoGPクラスの排気量が800ccに変更された2007年、暴れ馬ドゥカティを乗りこなして初チャンピオン。2011年、ホンダでも王者に輝いたケーシー・ストーナー。電子制御を上回るスロットルワークを持つとされ、ロッシをして「最も手強かったライバル」といわしめた [写真タップで拡大]
【日本】
ワールドカップ優勝回:0 最高成績:ベスト16
チャンピオン獲得回数:8(Moto2/250cc:3、Moto3/125cc:4、350cc:1)
我らが“サムライ・ブルー”も原稿執筆時点では優勝回数ゼロ。ベスト16が現在のところ、最高成績となっています(2022年12月5日現在)。
2022年こそ、イタリアのドゥカティにその座を譲りましたが、それまで47年連続で日本製マシンで戦ったライダーが最高峰クラスを制覇するなど、少なくともハードウェア面においてはロードレース最強国のひとつといって間違いありません。
1977年の片山敬済(350cc)をはじめ、1993年の原田哲也(250cc)、1994年と1998年の坂田和人(125cc)、1995年と1996年の青木治親(125cc)、2001年の加藤大治郎(250cc)、2009年の青山博一(250cc)と、日本人ライダーは、のべ8回世界タイトルを手にしており、“ノリック”こと阿部典史に憧れ、青木兄弟など、多くの日本人選手と交流があったロッシも「日本には素晴らしいライダーを誕生させる独自のシステムがあった」と2000年頃までの日本のロードレース環境を高く評価していました。
2004年の玉田誠を最後に最高峰クラスのウィナーこそ出ていませんが、2022年には小椋藍がMoto2で最終戦まで熾烈なチャンピオン争いを繰り広げ、日本人ライダーたちの可能性を改めて感じさせてくれました。 サッカーW杯とロードレース世界選手権の最高峰クラス、日本人が頂点を究めるのはどちらが先になるのか? 楽しみにして待ちたいところですね。
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