
二輪メディア歴50年のベテランライターが、日本におけるバイク黄金時代のアレコレを実体験と共に振り返る昭和郷愁伝。今回はバイクブームの火付け役ともなったファミリーバイクについて回想します。
●文:ヤングマシン編集部(牧田哲朗)●写真:YM Archives
“主婦向けスクーター”がゴールドラッシュに
バイクが売れに売れた1980年代の日本。近年の2輪車販売台数が年間約40万台前後で推移しているのに対し、当時はその数300万台以上。俗に言う日本の「バブル期」がブームを加速させた面も当然あるけど、個人的には「ファミリーバイク」と呼ばれたジャンルでバイクの新しい金鉱脈を掘り当てられたのが大きかったと考えている。
それ以前は大きく分けてロードスポーツとオフロードスポーツの2大ジャンルがあり、別枠的にビジネスバイクが存在している程度だった。そこへ、1976年にホンダからお手軽バイクのロードパルが登場すると、その様相が一変。モペット的なファッショナブルなスタイルにゼンマイ仕掛けのようなイージーな始動方式を備えていて、原付バイクへの入口を一気に広くしてくれたと言っていい。テレビCMには当時の世界的女優だったソフィア・ローレンを起用し、女性暦や主婦層を中心に、今までとは別のお手軽バイク需要を掘り起こしたんだ。市場にとってみれば、ゴールドラッシュの「金が出たぞー!」みたいなものだったと思う。
主婦を意識したオシャレな販売戦略が展開された1976年発売のホンダ・ロードパル。宣伝には世界的映画女優だったソフィア・ローレンが起用され話題に。エンジン始動方法を男勝りなキックではなくタップスターターとしたのが売りで、ペダルを2~3回踏み込んでゼンマイを蓄力し、ブレーキレバーによる解放で手軽に始動できた。
最終的にはスーパーでも売られていた
翌年にはヤマハが両足を揃えて乗れるステップスルータイプのパッソルを投入し、こちらも大ヒット。ホンダのロードパルと共にファミリーバイクという今までにはなかったジャンルが確立することになる。さぁ、ここから過激な販売競争の始まりだ。見つけた金を誰がどれだけ掘り起こせるか。今までバイクを売っていなかった自転車屋の店頭だけじゃなく、ホームセンターやスーパーの店頭にもファミリーバイクが並び、販売店の引き抜きや大幅値引き合戦が繰り広げられた。
ホンダのロードパルの大ヒットを受け、ヤマハが1977年に発売したパッソル。スカートでも乗り降りしやすいステップスルーにより、両足を揃えて乗れる魅力をアピールして大ヒット。メカ部分を覆ったソフトなイメージで現代流のスタイルを築いたと言える。宣伝には女優の八千草薫さん(姉妹車のパッソーラは水沢アキさん)を起用していた。
パッソルと八千草薫さん。
値引きといっても、20~30%オフなんてレベルじゃない。定価の半分ぐらいまで安く売るのも割と一般的だったし、場合によってはいったん登録して新古車扱いにしてまでもっと安く売る。自転車に毛の生えた値段で新車の原付が買えるのだから、市場はどんどん広がっていった。しかもニューモデルが1~2週間に1機種ぐらいのハイペースで登場するもんだから編集部もてんやわんや。新車発表会だ~試乗だ~と、機種名を覚える暇すらなかった感じだったね(※シリーズ間で名前も非常に似通っていた)。
こちらは筆者も取材メンバーとして同行した本誌1978年8月号の比較試乗の模様。まだ“モペット”と呼んでいたが、すぐに“ファミリーバイク”というカテゴリーができた。しかし、よくこれで箱根まで行ったもんだw。ちなみに、原付はまだノーヘルでよかった時代でした。
値引きの果てに3万円切りも
このファミリーバイクのシェア争いの中心はホンダとヤマハで、仁義なき値引き販売競争は後にHY戦争と呼ばれる現象のひとつとなった。しかも後半戦になると、安売りを前提にして作ったと思われるようなバイクまで出てきた。例えばホンダのスカイ。これを一番安く売ってたのは、確か3万円を楽に切ってはたず。でもね、全開で走るとフラフラして危ない。ホンダがこんなバイクを作ってしまうほど、HY戦争というのは狂った時代だったんだと思う。
最終的にメーカーが倒産危機を迎えたり、市場が荒れ果ててしまうなどして、利益を度外視した販売戟争は終焉を迎えるのだけど、良かったこともいくつかあった。女性の市場を開拓できたし、とにかくバイクに興味がなかった人も手を出してくれた。どのレベルかというと、買いにきてみたが免許を持ってなかったとか、給油が必要だということを知らずにエンストする人とか、そんな冗談のようなエピソードも多々あった。
それも、ライダー人口を爆発的に増やす要因になったのは確か。そこを入口にステップアップする人も増え、これが後のバイクブームやレプリカブームにつながるきっかけにもなってくれたことも忘れてはならない。ちなみに冒頭でバイクの年間販売台数が300万台と書いたが、その8割以上が原付の数であったことからも、ファミリーバイクブームの凄まじさがわかっていただけるだろう。
当時の原付業界は市場が大きかったので、宣伝には芸能人がバンバン登場した。1979年発売のヤマハ・マリックに跨がるのは、女優の桃井かおりさんだ。
ちなみにスズキのLOVEにはマイケル・ジャクソンが登場! 本当にいい時代の日本でしたね。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(ホンダ [HONDA] | 名車/旧車/絶版車)
2013年モデル概要:電子制御ABSモデルもラインナップ 2003年7月の発売以来、安定した走りと高いポテンシャルによって、サーキットのみならず市街地でも快適なライディングを実現したスーパースポーツと[…]
ホンダGB350S(2021)試乗レビュー この記事では、手頃な価格と心地よい鼓動感が魅力のホンダGB350のスポーティーバージョン、GB350Sの2021年モデルについて紹介するぞ。現役レーシングラ[…]
PROSPECを謳い一人称カタログで語る自信のほど! ’80年代の2ストレプリカ時代を知るライダーは、’88のNSR250Rを史上最強のマシンに位置づけるファンが多数を占める。 実はホンダにとって2ス[…]
モトラのデザインエッセンスが令和に登場 バブルが弾ける前、空前のオートバイブームが訪れた1980年代には現在では思いもよらぬほど多種多様なモデルが生まれた。ホンダからは、トールボーイデザインの新しいコ[…]
2007年モデル概要:平成19年国内排出ガス規制に適合しつつ進化 二度目のフルモデルチェンジを果たしたのが、この2007年モデル。動力性能と車体の取り回しやすさの向上を目指し、それまでのモデルと比べて[…]
最新の関連記事(ヤマハ [YAMAHA] | 名車/旧車/絶版車)
フルモデルチェンジを受け小変更に留まった MT-09をベースとしたネオレトロモデルで、1980年代レーサーをオマージュしたようなスタイリングに仕立てられているXSR900。 バーエンドミラーやブレンボ[…]
1971年の東京モーターショーに突如出現した750cc2スト並列4気筒、YZR500の4気筒マシン・デビュー2年前! いまでもファンの間で幻のドリームマシンとして語り継がれるヤマハGL750。その衝撃[…]
凛としたトラディショナルをカジュアルクラシックで訴求! ヤマハが1992年にリリースしたSRV250は、1988年のXV250Viragoで開発した空冷250Vツインを搭載、感度の高いトラディショナル[…]
1980年代レーシングヘリテイジが蘇るゴロワーズカラー ヤマハは2022年5月にフルモデルチェンジした2022年モデルのXSR900を発表。2020年モデルが1970年代を中心としたカラーリングを特徴[…]
マイナーチェンジを実施し、ヘリテイジカラー追加 並列3気筒845ccエンジンを搭載する“ネオレトロ(Neo Retro)”ロードスポーツバイク「XSR900 ABS」。独特のサウンドも魅力の並列3気筒[…]
人気記事ランキング(全体)
3種のグレードそれぞれに専用カラー カワサキモータースジャパンは、前18/後16インチホイールを履くロー&ロングフォルムなミドルクラスクルーザー「エリミネーター」シリーズの2025年モデルを発表した。[…]
【受注期間限定】SHOEI「EX-ZERO」新色モスグリーン 「EX-ZERO」は、クラシカルな帽体デザインにインナーバイザーを装備し利便性に優れる一方で、着脱式内装システムや、万一の際にヘルメットを[…]
“主婦向けスクーター”がゴールドラッシュに バイクが売れに売れた1980年代の日本。近年の2輪車販売台数が年間約40万台前後で推移しているのに対し、当時はその数300万台以上。俗に言う日本の「バブル期[…]
コーデュラ(R)ユーロ3Dメッシュジャケット:プロテクションと通気性を両立 ライダーの安全と快適を追求した一着。腕部分には耐摩耗性に優れたコーデュラ(R)素材を採用。万が一の転倒時にもダメージを軽減す[…]
PROSPECを謳い一人称カタログで語る自信のほど! ’80年代の2ストレプリカ時代を知るライダーは、’88のNSR250Rを史上最強のマシンに位置づけるファンが多数を占める。 実はホンダにとって2ス[…]
最新の投稿記事(全体)
ドゥカティ初の単気筒モタードモデル モタードモデルといえば、通常はオフ車の派生モデルとして作られるが、この「ハイパーモタード698モノ」は、ロードスポーツキャラに100%振りきって、車体剛性も高めに設[…]
従来のグローブとは異なり、ナックルカップのベースを浮かせて縫製 軽くて高防御性を誇るカーボンナックルだが、夏場にはナックルカップに熱が籠りやすく、操作時に甲部分が引っ張られるような感じがする。安全性を[…]
2013年モデル概要:電子制御ABSモデルもラインナップ 2003年7月の発売以来、安定した走りと高いポテンシャルによって、サーキットのみならず市街地でも快適なライディングを実現したスーパースポーツと[…]
カワサキ「Z900」(2018) 試乗レビュー この記事ではカワサキの大型ネイキッド、Z900の2018年モデルについて紹介するぞ。今や押しも押されぬ人気のZ900RSのベースとなった一台だ。 ※以下[…]
2025新型「MT-07」について概要を知りたいなら… こちらの記事をチェック。2025年モデル最大のトピックといえるのは、MT-09に続きクラッチ・シフト操作不要な「Y-AMT」仕様をラインナップし[…]
- 1
- 2