
1980年代はレジャーバイクというカテゴリーのもと、各メーカーから野心的かつユニークなモデルが多数生まれた。そのうちの1台、ホンダがリリースした「モトラ」は、オートバイでありながらまるで”軽トラ”のような実用性も兼ね備えた50ccモデルであり、見た目だけでなく悪路走破性を加味した副変速機を装備するなど、一風変わったコンセプトが注目された。そのモトラをオマージュしたFULNESSのデモンストレーションバイク、その名も「シン・モトラ」に迫りたい。
●文:ヤングマシン編集部(カイ) ●写真:ヤングマシン編集部
モトラのデザインエッセンスが令和に登場
バブルが弾ける前、空前のオートバイブームが訪れた1980年代には現在では思いもよらぬほど多種多様なモデルが生まれた。ホンダからは、トールボーイデザインの新しいコンセプトをもつ自動車「シティ」が登場し、そのトランクに積み込むことを想定した「モトコンポ」がリリースされた。
そしてモトコンポが発売された翌年の1982年には、無骨なパイプフレームをサイドパネルで覆って前後に大型キャリアを備えるレジャーバイク「モトラ」が登場する。
空冷4サイクル単気筒のエコノパワーエンジンは4.5psを発揮し、今となってはユニークな手動切り替え式のサブミッションを備え、自動遠心クラッチを介して3速(スタンダードギア)+3速(ローギア)の計6速を用いることにより、不整地走行に適した性格をもつ。
車名のモトラがモーターサイクルとトラックを融合していることからも窺えるように、ロードよりもグラベル、スポーツ性能より積載性能を重視したモデルで、荷物の重量に応じてクッションの強さを微調整可能としたうえ調整位置もひと目でわかるレベライザー付リヤサスペンションを採用するなど、まさに二輪版の”軽トラック”といった原付モデルだった。
PMCによる新たなカスタムブランド「FULNESS(フルネス)」がモーターサイクルショーに出展した「クロスカブ110 『シン・モトラ』」。1980年代にホンダからリリースされた「モトラ」をオマージュして制作されたデモバイクだ。
オリジナルのモトラ同様にフレームに固定されたフロントキャリアと大型フェンダーはまるで生き写しのような完成度。ヘッドライトもキャリアに固定され、フロントキャリアに荷物を積載した際の照射性に影響が出ないよう工夫されているのもオリジナルと同じだ。
こちらはオマージュ元になったホンダ モトラ。建設機器をイメージしたイエローのボディカラー、前後大型キャリア、直線基調のサイドパネル、ブロックタイヤなど、道具としての使い勝手を優先した無骨なスタイルが現代視点でもユニークだ。
「Freedom to Customize ~カスタムは自由だ~」のもと爆誕
発売当時の原付モデル市場はスクーターやオンロードを含め、ハイパワー/高性能競争が加熱していたこともあり、アウトドア志向のコンセプトは大きな成功には繋がらなかったが、時間の経過とライフスタイルの多様化によって再評価の機運が流れ、ここ何年も中古市場では高値安定の人気を誇っているモトラ。
昨今のアウトドアスタイルのひとつに挙げられる「無骨」を地で行くモトラは、現代でこそ市民権を得る可能性が高く、21世紀に復活して大ヒットしているハンターカブ同様に、多くのユーザーから復刻が待たれてきた。
そんな中、PMCによる新たなカスタムブランド「FULNESS(フルネス)」が、モーターサイクルショーに野心的なカスタムデモバイク「クロスカブ110 『シン・モトラ』」(以後、シン・モトラと表記)を出展した。
2024年式のホンダ クロスカブ CC110をベースに、現代版モトラを目指して制作されたシン・モトラは、まさにオリジナルの無骨なイメージを再解釈して会場の人気を集めたのは記憶に新しい。
サイドパネルは3Dプリンターを駆使してエンボス加工を設けている。オリジナル同様の軽量穴を施した意匠も再現。リアキャリアも大型で積載能力は高いだろう。リアサスペンションのスプリングがイエローカラーなのもオリジナルモトラと同じだ。
市販化が待たれるぐらい完成度の高いカスタム
フレーム固定のフロントキャリア、ブランド名をエンボス加工したサイドパネル、建設機器にも採用される軽量穴など、モトラのデザインエッセンスを見事に昇華したフルネスのシン・モトラは、オリジナルよりもふたまわりほどボディは大きいものの、まさにモトラの再来と言うにふさわしい出来栄え。
スリットの入ったマフラーカバーや角張ったフロントフェンダーなど、細かい部分までモトラの特徴が採り入れられている。ハンターカブが「復活」した前例がある今、何も知らなければマスプロ製品と言われても頷いてしまいそうだ。
素直に「欲しい! 」と思えるシン・モトラだが、こちらはあくまでフルネスがワンオフで制作したデモカーであり、市販化は決まっていない。この完成度であれば売れるのは間違いないと思うが…。
ちなみに筆者は、モトラのコンセプトは現代だからこそ通用すると考えている。懐古的なデザインを好むからではなく、悪路走破性や荷物の積載性、パーソナルモビリティの観点からだ。
南海トラフやら自然災害の発生が確実視される今こそ、二輪の利便性や有用性を真剣に考えるべきではないか? 過去に阪神大震災や東日本大震災でオートバイが活躍したことは記憶に新しい。瓦礫に埋もれた道路を物資を積んで走破できるオートバイは、有事の際に大きな力になる。
サブミッションの悪路走破能力、積載重量に対応するリヤサスペンション、大量の荷物を運べる頑丈な前後キャリアなど、いずれも防災(あるいは備災)に役立つ装備だ。もちろん、平常時はキャンプのお供などアウトドア趣味の相棒として活躍できる。
シン・モトラが注目されることで、オリジナルのモトラがもつツールとしての有用性が再評価され、オートバイメーカーが真剣に災害に備えたようなモデルを、開発してくれることを願う。
ベースモデルは2024年式のホンダ クロスカブ CC110。オリジナルの特徴のひとつだったサブミッションこそないが、8.0PSの最高出力と扱いやすい特性により、不整地も問題なく走り抜けることができるだろう。
こちらが元祖ホンダ モトラ
ホンダ モトラ
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