4気筒400ccネイキッド・その立役者の軌跡を追う

〈不滅の国産車黄金伝〉カワサキ ゼファー[1989-2009] いま振り返る“西風”の進撃(2)

カワサキ ゼファー

400ccクラスに4気筒のネイキッドモデルが復活する…とヤングマシンでは予想している。そうなれば、1990年代に巻き起こった400ネイキッドブームが再燃するかもしれない。そこでブームの立役者となった「ゼファー」を今一度振り返りたい。はたして何が革命的だったのか。本誌秘蔵アーカイブによる当時の熱気とともにプレイバックしよう。


●文:沼尾宏明(ヤングマシン編集部) ●写真:YM Archives

佇まいも走りも魅惑的。相棒のようなキャラクター

ゼファーはまさに何にでも使える相棒のようなキャラだった。街乗りに旅によし、タンデムもよし、眺めても磨いてもよし。そして、意外にも走りが抜群に楽しかった。

2世代ほど前の空冷2バルブエンジンは、吹け上がりがゆったりして大らか。アップハンドルながら、ステップがいささかバック気味というライディングポジションは少々独特だったものの、ハンドリングはとてもニュートラル。穏やかな出力特性と相まって、緊張感なくコーナリングできるのだ。

総じてライダーの働きかけに対して挙動が穏やか。高性能なレプリカより断然扱いやすく、ベーシックなバイクらしいバイクだった。

【KAWASAKI ZEPHYR(1989)】DOHC2バルブ空冷ユニットの出力特性をはじめ、車体や足まわりを含む乗り味が全体的に柔らかい。限界性能は高くないものの、安心して攻められた。

【日本の伝統と日常の尊さを表現】歴代のカタログも異色。「日本人の心に流れる感性が認めるバイク」として紹介され、美しい日本の四季に佇むゼファーの姿を多く掲載していた。陰影を強くつけたイメージカットや、バイクより風景がメインの場合も!

ゼファーの大ヒットから伝統系ネイキッドが続々登場

ゼファーのヒットを受け、他社も懐古的なネイキッドを続々とリリースしていく。1992年にはホンダCB400SF、1993年にはヤマハXJR400、1994年にはスズキGSX400インパルスが相次いで生まれ、空前のネイキッドブームが巻き起こった。

ライバルはいずれも空冷2バルブのゼファーよりハイスペック。ゼファーは1995年末まで7万5000台超を販売する人気ぶりだったが、さすがにテコ入れが必要になった。

そこでカワサキが選択したのがエンジンの4バルブ化。伝統的にカワサキは空冷直4を2バルブとしいたが、1996年のゼファーχで唯一の4バルブを採用した。以降も人気車だったものの、排ガス規制により2009年型で20年の歴史に幕を降ろす。

【400ccクラスが総勢12台へと激増】ゼファー以降、各メーカーから懐古調ネイキッドが続々デビュー。1990年代はまさにネイキッドの時代だった。しかし大型二輪免許の導入や排ガス規制などでラインナップを減らし、400クラスは下火に。唯一生き残ったCB400SF/SBが2022年に絶版となり、現在ではすべて生産終了している。

スペック競争下でタイムリープ直4を仕掛けた大胆さ

【再構築した伝統フォルム】丸眼にティアドロップタンク、リヤ2本サスという1970~80年代初頭を思わせるスタイル。発売当時も古めかしかったが、若いライダーの目には新鮮に映った。Z2やCB750Fなど空冷4発人気も追い風に。

フロントから見ても空冷エンジンの存在感が際立つ。電球式の丸眼ヘッドライトと大型の丸形ウインカーが特徴で、エンジン前方にオイルクーラーも設置。やはり当時の新型とは思えないレトロ感が際立つが、各部のメッキで質感も確保している。

【Z1&Z2の流れを汲む】ゼファーは元々、カワサキのマーケティング担当者が1980年代半ばに企画した“Z2の限定1000台復刻計画”がキッカケ。これが頓挫して安価な空冷400cc開発へとシフトした経緯がある。それゆえ往年の名車・Z1/Z2譲りのスリム&端正フォルムを受け継ぐ。一方でタンクのニーグリップ部やシート前端を絞り込むなど、実用性も確保する。

【初期異型は不人気に】メーターは初期型と1990年型のC2型のみ、速度計&タコを異型とした樹脂ケースのブラックタイプを採用。この形状が不評で、後にメッキの砲弾型に。

【飾らず素朴に】燃料タンクはZ1/Z2のティアドロップに似た優美なデザインだが、エッジを設けて個性を主張。初期型とC2は簡素なステッカーの車名ロゴが特徴だ。

シートはカスタム済みのようなアンコ抜き風の段付き形状。770mmのシート高と相まって、足着き性は良好だった。表皮はメッシュ風で滑りにくい。

Z1/Z2の文法に倣うなら流線形テールカウル+丸ランプとなるはずだが、ゼファーではあえてエッジの利いた角型をチョイス。独自性を打ち出した。

【フレームワーク美にもこだわり】「高剛性でむき出しのアルミフレームがエライ」とされていた時代に、古典的な鋼管ダブルクレードルフレームを採用。メインフレームが露出せず、タンクに収まる設計でエンジンを強調し、レトロフォルムを際立たせた。

【空冷の美しさにこだわった】DOHC2バルブ空冷直4ユニットは、1979年デビューのZ400FXがルーツ。深く刻まれ、角張った空冷フィンと大型シリンダーヘッドカバーは新設計で美観を追求した。最高出力は46psに抑え、N次コサイン級数カムなどを採用。低コスト化とでスムーズな吹け上がりを狙った。

フロントブレーキにはφ300mmWディスクと異径2ポットキャリパーを導入。Fフォークはφ39mmの正立でしなやかな特性だ。

リヤキャリパーは1992年型まで2ポット。リヤスイングアームは段付きのアルミ製だ。チェーンアジャスターはシリーズ共通でエキセントリック式。

【ツインショックに逆戻し】あえて懐古的なツインサスに回帰。リザーバータンクはZ1000Rなどと同様の段付きタイプで、プリロードと伸/圧減衰力が調整可。

ケーヒン製のCVK負圧キャブレターはやや大径のφ30mm。これまた扱いやすい特性が特徴だ。

当初はZ1/Z2に倣い4本出しも検討されていたが、最終的に4in1集合に落ち着いた。中低速域のトルクを重視した特性だ。

メッキ処理されたショートメガホンマフラーで、クラシカルかつ軽快なイメージ。マフラー交換などのカスタムも流行した。

スポークホイールではなく、キャストで走りを意識。F17&R18インチによって軽快さと安定感を両立している。

【販売店が振り返る】国内販売台数の半分がゼファーやったわッ!

【株式会社エム・エス・エル 藤木修次代表】川崎重工を経て1984年にMSLを設立し、2018年までMSLゼファー、その後はカワサキプラザ東京練馬としてカワサキ車の販売に携わる。2022年からは現在の「MSL World」を立ち上げ。カスタムパーツブランド「K’s-STYLE」も主宰する。

ゼファーは開発中、川崎重工の中でも「こんなん売れるかぁ〜?」みたいな雰囲気でしたが、私は見た瞬間「イケる!」と思いましたね。レプリカではない、誰でも楽しく乗れそうなバイクでしたからね。反対意見が多かったにもかかわらず発売にこぎつけたのは、当時カワサキオートバイ販売にいた中島直行さんの力が大きい。中島さんがいなかったらゼファーは登場していませんよ。

そんなゼファーは、とにかく良く売れました。当時は国内モデルと逆輸入/海外ブランドを半々ぐらいで売っていましたが、国内モデルの半分ぐらいがゼファー。登場後もバックオーダーが3年ぐらい続いたんじゃないかな? ちなみに当時のショップ名「MSLゼファー」は偶然の一致ですが「専門店ですか?」なんてお客さんがたくさん来てくれまして、MSLも販売台数のピークを記録した時期でした。

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