
バイク乗りの特権ともいえるすり抜けだが、しばしば「車とぶつかりそうで危なっかしい」とか「それって道路交通法違反なんじゃないの?」といった批判的な意見も目にする。実際のところ、どうするのが正解なのだろうか? 元白バイ警官の宅島奈津子さんが解説する。
●文:宅島奈津子(ヤングマシン編集部)
道路交通法には存在しない”すり抜け”
一般的に使われている言葉ではあるものの、実は道路交通法上では存在しない言葉となっている「すり抜け」。でも、現実にはそのように認識される行為がまかりとおっているわけで、信号待ちの車両や渋滞等で低速走行している車両のすぐそばや、その間をバイクで追い越したり、追い抜いたりといった姿をよく見かけることでしょう。違反にあたるか否かは、この「追い越す」と「追い抜く」の違いを理解することがまず必要です。
忘れがちな追い越しと追い抜きの違い
追い越しとは「進路を変更したり、車線変更して前の車両の前方に出ること」を言いますが、道路交通法第2条において次のように定められています。
車両が他の車両等に追い付いた場合において、その進路を変えてその追い付いた車両等の側方を通過し、かつ、当該車両等の前方に出ることをいう。
道路交通法第2条
加えて、
車両は、他の車両を追い越そうとするときは、その追い越されようとする車両の右側を通行しなければならない
道路交通法第28条
によれば、左側からの追い越しは違反となっています。
一方の追い抜きは、「進路変更を行わずに前方の車両等の前に出ること」を示しています。運転免許を取得する際に、誰もが学んできていることですが、忘れがちであったり、少し誤った解釈をしていたりします。
そうした個々人の認識の違いにより、「こういうケースのすり抜けは許される」とか、「こういった場合はダメだ」とか間違った認識が生まれているのです。「どんなすり抜け方だと捕まらないの?」とか「すり抜けは違反行為だよね?」といったことを聞かれることもよくありますが、基本的に私は、渋滞時に見かけるような、いわゆる「すり抜け」は違反だと答えています。
「やっていいすり抜けなんてないんだよ」と。 ただ、先にも述べたように、道路交通法上ではすり抜けといった用語が存在しないためにそれを禁止する法律はありません。あくまで追い越しや追い抜きに該当するか否か、それらの違反に当たることをしていないかでしかないのです。
ポイントは追い越し禁止区域や路肩/路側帯
つまり、許される”すり抜け”のポイントは、追い越しと追い抜きの違いや、追い越しが禁止されている場所を知っておくことに尽きます。追い越しと追い抜きの違いは前述したとおりなので、追い越しが禁止されている場所はどこなのかを解説していきましょう。下記の9つになります。
- 標識などにより追い越しが禁止されている場所
- 道路の曲がり角付近
- 上り坂の頂上付近
- 勾配の急な下り坂
- トンネル(車両通行帯の設けられた道路は除く)
- 交差点とその手前から30m以内の場所
- 踏切とその手前から30m以内の場所
- 横断歩道とその手前から30m以内の場所
- 自転車横断帯とその手前から30m以内の場所
また白の破線、白の実線、黄色の実線といった道路上の線も重要です。白の実線、黄色の実線が引かれた道路では、線をはみ出しての追い越しは違反とみなされます。白の破線は、車線を越えた追い越しも追い抜きも違反にはならず、白の実線、黄色の実線でも車線をはみ出さなければ追い越し、追い抜きともに可能であります。
また、道路の両端には、車道外側線と呼ばれる白線で区切られた細い通路が存在する道路があります。この細い通路が路肩なのか、路側帯なのかで、そこを通行したり、追い抜くことが可能か否かが変わってきます。
ちなみに路肩と路側帯について補足しておくと下記のような違いがあります。判断がつくようにしておきましょう。
- 路肩
外側に歩道があるもの。人の乗り降りや荷物の積み下ろしのために駐車することができる。追い抜きが可能 - 路側帯
外側に歩道がないもの。歩行者のためのスペースであり、車両の進入、駐車はできない。追い抜きは違反となる
結論:それでも、すり抜けはやめておこう
結論から言うと、すり抜けは非常に危険な行為であるため、「していいのか、いけないか」ではなく、「しないほうがいい」です。そのすり抜けが追い越しにあたるのか、追い抜きにあたるのか、いろんなケースがあるので、すべてが違反だとも違反でないとも言えませんが、なんらかの違反行為にあたるケースがほとんどですから。
とはいえ、軽微な違反をすべて検挙していたら、ライダーのほとんどが捕まってしまうことになるため、「極めて危険な場合を優先して検挙する」というのが警察の立場ですが…。最低限のマナーを守るライダーでありたいものですね。
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