
トリックスターは愛知県を拠点として高性能マフラーをはじめとするパーツ開発を手がけるメーカーだ。レース活動にも積極的で、2016年からは世界耐久選手権(EWC)にフル参戦している。また、近年ではNinja ZX-25RとNinja ZX-4Rのターボ化にも取り組んでいる。今回は11月24日に行われたZX-4Rターボの300km/hチャレンジの様子をお伝えしよう。
●文/写真:ヤングマシン編集部(山下剛) ●外部リンク:トリックスター
ZX-25Rターボの250km/hチャレンジに続くZX-4Rターボ
トリックスターが製作したZX-4Rターボは、2024年4月の名古屋モーターサイクルショーで初披露された。すでにZX-25Rのターボ化で250km/hの最高速記録を打ち立てているだけあり、排気量こそ異なれど基本的に同じ構造ZX-4Rのターボ化は、トリックスターにとって必然のチャレンジだ。
シェイクダウンそのものは初公開よりも前にスパ西浦で済ませていたものの、最高速チャレンジはもちろんターボが真価を発揮する高回転域でエンジンを回し続けることもできず、あくまで実走行の確認作業にすぎなかった。
今回はZX-25Rターボで最高速を記録した、日本自動車研究所 城里テストセンターの高速周回路にZX-4Rターボを持ち込んで事実上のシェイクダウンを行った。
300km/hに挑んだZX-4Rターボには、新たにアンダーカウルが装着されている。
トリックスターのメカニック・中村公治さんによれば、ZX-25Rターボで後輪出力が100ps出ていれば250km/hに達することが分かっているので、平均130psをマークしたZX-4Rターボなら計算上、300km/hは出せるという。
ターボを組み込んだ以外、エンジン内部のパーツはノーマルのままだ。当然、カワサキが想定していない領域でエンジンを稼働させるため、中村さんは「クランクシャフトがいちばん心配」と続けた。
エンジン左側から見たターボユニット。ZX-25Rターボと同じユニットを搭載している。
エンジン右側。エアクリーナーは前方へ突き出た形状に変更されている。
ピットでエンジンの暖機運転を済ませた後、ZX-4Rターボは高速周回路へ入っていった。すぐに1周5500mのコースを戻ってきてスタートラインを通過したが、ライダーの山本剛大さんは第1コーナーの手前で停止するとピットに帰ってきた。
「最初のストレートで加速したときに煙が出てきて、エンジンがブローしたのか、それともブローバイガスが噴き出たのか判断できませんでした。いずれにしても走り続けられる感じではなかったです」(山本さん)
中村さんは急遽、タンク下にあったブローバイホースの出口をエンジン下部に移設。同時にエンジンの様子を見るためドリブンスプロケットを42Tから44Tへ変更した。
ブローバイホースの取り回し変更作業中の様子。エキゾーストパイプにはZX-25Rターボ同様の遮熱板を設けている。
力尽きるZX-4Rターボに300km/h到達への厳しさを知る
そして2本目がスタート。しかしホームストレートに至る最終コーナーを立ち上がってきたZX-4Rターボは白煙を噴いている。山本さんはさっきと同じようにマシンを停止させた。エンジンブローを起こしたのだ。GPSの記録では、1本目のストレートで達した252km/h(メーター読み263km/h)が最高速となり、残念ながら300km/hは達成できなかった。
ターボユニットは基本的にZX-25Rと同じものを使い、ZX-25Rターボでは1.4barまで高めたブースト圧を1.1barに抑えての初走行だった。ZX-25Rターボでの実績とノウハウがあるとはいえ、ZX-4Rは排気量が150ccも多く、ノーマルの最高出力が29psも高いエンジンとなれば一筋縄ではいかない。そもそも300km/h超えは、ZX-14Rや隼といった1000cc以上のメガスポーツ、あるいは200psオーバーのスーパースポーツであることが常識である。その半分以下の400ccのエンジンで300km/hへ到達することは並大抵のことではないのだ。
燃料タンクを取り外すと、ターボで圧縮された空気が送り込まれるインテークマニホールドが見える
液晶メーターの上部にあるのはブーストコントローラー。手前にある指針式のメーターがブースト圧計
今のところ次のチャレンジがいつ頃になるのかは未定だが、まずはエンジンブローの原因を究明し、対策を施すことが次のステップとなる。トリックスターはZX-25Rターボでの最高速250km/h達成だけでなく、チューンを施したH2Rでの352km/h(GPS実測値)、アメリカで開催されている最高速チャレンジレース『ボンネビル・モーターサイクル・スピードトライアルズ』ではモビテックが開発した電動マシンをトリックスター代表の鶴田竜二さんが走らせ、329.4km/hの最高速世界記録を樹立している。
こうしたトリックスターの最高速チャレンジは、限界に挑み続け、それを超えることの大切さを教えてくれる。それは人間の根源的な欲求であり、文明や文化、社会を作り上げてきた原動力だ。いわば、人が人として生きることそのものである。
トリックスターの広報担当者は「ターボマシンでもボンネビルの記録を狙いたいですし、来年の春ぐらいには2回目のチャレンジをやりたい」と話す。これまでも幾多の限界を超えてきたトリックスターは、ZX-4Rターボでもきっと前人未到の世界を見せてくれるはずだ。
1本目の走行でピット前を通過するZX-4Rターボ。この直後に停止して作業を行った。
走行2本目、メーター読み252km/h・GPSラップタイマーで237km/hを記録した後、エンジンブローが発生して山本さんはマシンを停めた。コース上には白煙が見える。
【動画】TRICKSTER ZX-4R TURBO 300km/hチャレンジ!!
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(トリックスター)
低音域で重厚感のあるサウンドを実現 軽快なスポーツライディングと都会的なデザインが融合したX-ADVに、IKAZUCHIの存在感とパフォーマンスをプラス。 純正のマフラーは車体に溶け込むような控えめな[…]
スリップオンながら純正マフラーから2馬力UP! 本製品は、トリックスターがこれまでレースで培ったすべてを集約し具現化したブランド最高性能サイレンサー「IKAZUCHI」を採用。オールチタンにて構成する[…]
目指すはボンネビルの最高速度記録! 前回はエンジンブローで力尽きたが…… 2024年4月の名古屋モーターサイクルショーで初お披露目されたトリックスター「ZX-4ターボ」は、2024年11月に日本自動車[…]
STD比で約7psの向上&-6.2kgの軽量化を達成 待ち望まれていた「Ninja 1000SX政府認証フルエキゾーストマフラーIKAZUCHI」がついに販売を開始した。 幾度となく設計を見直し、試験[…]
エンジントラブル発生も…大記録達成! 2021年から、トリックスターがチャレンジを続けてきたZX-25Rターボによる最高速アタック。代表の鶴田竜二氏が「250cc車で実測250km/h!」を掲げて進め[…]
最新の関連記事(ニンジャZX-4Rシリーズ)
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外[…]
目指すはボンネビルの最高速度記録! 前回はエンジンブローで力尽きたが…… 2024年4月の名古屋モーターサイクルショーで初お披露目されたトリックスター「ZX-4ターボ」は、2024年11月に日本自動車[…]
カワサキモータースジャパンは、2025年3月に開催予定の「第41回大阪モーターサイクルショー2025」「第52回 東京モーターサイクルショー」、4月に開催予定の「第4回名古屋モーターサイクルショー 」[…]
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外[…]
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外[…]
人気記事ランキング(全体)
左右2本出しマフラーやベルトドライブ、6速ミッションも採用 ヒョースンモータージャパンは、水冷124.7cc・V型2気筒エンジンを搭載したクルーザーモデル「GV125Xロードスター」を発売する。 挟み[…]
涼しさの心臓部。それは「素材」と「構造」の魔法的組み合わせ うだるような暑さと、じっとりと肌にまとわりつく湿気。毎年繰り返されるこの季節に、多くの人が少しでも快適に過ごせる服を探し求めている。そんな中[…]
最高のハイバランス600ccマルチ! 今回ご紹介するカワサキGPZ600Rは、1985年6月1日に66万9000円(限定1000台)で発売されました。 1980年代半ばといえば400ccクラスが人気の[…]
前輪荷重多めでスポーティーなPG-1 ヤマハPG-1の現地向けプロモーションビデオは、往年のスズキ バンバンやドゥカティ スクランブラーシリーズを連想させる、アクティブ&ポップなテイストで構成されてい[…]
グローバル展開では『500cc』のほうが有利になる地域も ホンダ「GB350」シリーズといえば、直近ではクラシカル要素を強化したGB350Cも新登場し、走りのフィーリングまで変えてくるこだわりっぷりが[…]
最新の投稿記事(全体)
幅広/甲高の日本人特有の足型に対応 きっちりとライディングの装備をする上半身に比べて、下半身がカジュアルな装いのライダーは意外と多い。とくに頻繁にペダルを操作する靴は、足の保護とともにライディングには[…]
ジェントルマンズライド(Distinguished Gentleman’s Ride)とは? 「ジェントルマンズライド(Distinguished Gentleman’s Ride、以下DGR)」は、[…]
アメリカは”英国車マニア”多し! この1956年製MGAはご覧の通り左ハンドルで、最初から北米仕様だったもの。そもそも、アメリカは英国車マニアが数多く存在しており、1950年代どころか1930/194[…]
PG‐1の国内導入がオフロードのヤマハを復活させる!? 国内の原付二種市場は、スーパーカブやモンキーなどのギヤ付きクラスはもちろん、PCXなどのスクーターを含めて長らくホンダの独壇場となっている。そん[…]
『Wheels and Wavesフェスティバル』にカスタムマシン×11車を展示 6年目を迎えたHondacustoms(ホンダカスタムズ)、過去にはCB1000Rやレブル、CL250/CL500、モ[…]
- 1
- 2