KLX230S/シェルパと同日に、ブランニューモデルの「W230」と「MEGURO S1」にも試乗することができたのでインプレッションをお伝えしたい。KLX230と同系エンジンを搭載しながら、軽二輪レトロの2車は全く別物の乗り味を実現していた。
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:山内潤也、箱崎太輔 ●外部リンク:カワサキモータースジャパン
復活の軽二輪レトロは足着き性抜群、エンジンは大部分が専用設計だ
現在の国内メーカー軽二輪クラスでは唯一となるネオクラシック/レトロスタイルのモデルが待望の登場を果たした。
カワサキが以前ラインナップしていたエストレヤの後継と思われがちだが実はそうでもないという「W230」と高級バージョンの「メグロS1」に試乗する機会を得たので、インプレッションをお届けしたい。
KLX230系のエンジンを採用する2車は基本的な車体構成が同じで、主な違いは外装デザインと一部の専用パーツ装備。走った感触はほぼ同じだが、燃料タンクのニーグリップラバーを装備するメグロS1のほうが紙一重でより一体感を得やすいだろうか。
デザインはよくぞこのクラスでここまで仕上げたと思うし、どこに置いても絵になりつつ主張が強すぎないのは軽二輪クラスならではかもしれない。
ここでは同日に試乗したKLX230シェルパとのエンジン特性の違いなどにも触れつつ試乗記を進めていこうと思う。
トコトコ走りとパンチのある高回転を見事に両立
2017年のファイナルエディションをもって生産終了となったカワサキ「エストレヤ」以来、久しぶりに登場する軽二輪クラスのネオクラシックモデルが、同じくカワサキの「W230」と「MEGURO S1(メグロS1)」だ。
エンジンはKLX230系をベースとしているが、なんとクランクケースから作り変えたという力作。アルミ製のスプロケットカバーを装着するためにボスを追加する必要があり、どうせ作り替えるならとシリンダーベースを0.5mm高くして圧縮比を下げたというから凄い。
そんな非効率なことをしてでも実現したかった造形は見事にWシリーズの歴史を感じさせるものになった。深いフィンが刻まれたシリンダーと丸みを帯びたケースカバーが小さいエンジンをかわいらしく見せている。全体の佇まいは、W800&メグロK3のミニチュア版と言ったら言い過ぎかもしれないが、クラシカルな質感とかわいらしさをとても上手く両立しているように思う。
ただ、このエンジンには試乗してみてからのほうが驚かされた。KLX230系がベースということからショートストローク気味の設定(67.0×66.0mm)であり、エストレヤがロングストローク設定(66.0×73.0mm)なことを考えれば同じようなトコトコ感の再現は難しいはず。しかし、開発者によればそもそもエストレヤを目指していなかったという。
エンジンを始動してみるとすぐにその意味がわかる。エストレヤの『トントントン』というアイドリング音に比べると、W230&メグロS1のエンジンはコロコロと軽やかだ。軽くブリッピングすると回転上昇は滑らかな中に程よいラグ(反応遅れ)があり、ライダーの感性によく馴染むものだ。
少し暖機したあともアイドリングはタコメーター目視で2000rpmを超えているが、もっと暖まれば下がっていくだろうと思いながらゆっくりと走り出す。クラッチ操作は最近のアシスト&スリッパークラッチ採用車ほど軽くはないが、それでも十分に扱いやすい部類だ。
コロコロとしたサウンドの印象通り一発一発の蹴り出し感を強調してくるエンジンではないが、低回転から粘り強くエンジンストールの心配は皆無。同日に乗ったKLX230シリーズよりも明らかに低速トルクが厚くなっており、232ccしかない空冷単気筒ことを考えれば力強いと表現して差し支えないだろう。
さらに各ギヤを使ってしっかり加速しながら高回転まで回してみると、高回転側ではエストレヤにない軽やかな弾け感があった。それでいて、KLX230比でクランクマスを増量したというエンジンは軽やかさの中にも力強さと絶妙なラグがあり、扱いやすく気持ちいい。
開発者によれば、低速のトコトコ感と高回転の元気の良さの両立を狙ったのは新しいメグロS1の存在が大きかったようだ。かつての250ccメグロ(メグロジュニアなど)は当時立派なスポーツバイクであり、メグロの外観イメージを投影したエストレヤはトコトコ感を強調していたことからその点で少し異質な存在だったという。
往年のメグロのイメージを引き出すには元気の良さ、そしてエストレヤ的なものを期待するファンにはトコトコ感という、2つの要素を両立するのが命題だったというのだ。
その狙いはきっちり達成されていると思っていいだろう。流して走るときの心地よさとブン回したときの気持ちよさが無理なく同居していた。
“1800rpm”の優しさ
ところで、エンジン始動直後にアイドリング回転が高めだなぁと思っていたわけだが、きっちり暖まってもけっこう高めなままだった。聞けばアイドリングは1800rpmに設定してあるといい、最近のマシンは通常1300~1500rpmあたりであることを考えると明らかに高い。
といいつつ、じつはこれがW230&メグロS1の扱いやすさの要になっていた。
印象的なほど粘り強い低回転トルクは、1800rpmに設定されたアイドリングによって成立しているとも言え、故意にクラッチを乱暴に繋ぎでもしない限り本当にエンジンストールの心配がない。1速&アイドリングでも緩やかな坂道を止まらずに登っていけるほどで、それでも軽やかなサウンドとバランサー内蔵による低振動で不快感は全くないから驚きだ。
とはいえ意図せず前に進んでしまうほどではないので、かなり絶妙なところを突いた設定なのだろう。
また、1800rpmというアイドリング回転にはスロットルの閉じっぱなでエンジンブレーキが穏やかにかかり始めるというメリットもある。いくらスロットルを開けるのが気持ちよくても、エンジンブレーキのかかり始めの躾が悪いとグッドフィーリングが台無しになりかねないものだが、ここも本当に絶妙なところを突いていると思う。
ちなみにエンジンサウンドはというと、外から他人が走っているのを聞くと弾け感のある排気音が聞こえるが、乗っていると吸気音やエンジンノイズと合わさって丸みのあるサウンドに包まれるような感覚に。もう少し排気音そのものが聞こえるほうが嬉しいように思うが、それはメグロジュニアS8の音質を解析・再現したというストレート構造(!)のマフラーが奏でる音があまりにも好みだったからである。
軽量コンパクトで扱いやすく、驚くほど小回りもしやすい
車体も、エンジンに呼応するように気持ちのいいものだった。
ライディングポジションはエストレヤも参考にしたといい、とにかくシート高が低く取っつきやすい。身長183cmの筆者にはシート/ステップ間がちょっと狭いようにも思えたが、多くの初心者や小柄な方にとって扱いやすそうだ。ただ、シートクッションはやや硬めに感じたので、体格に余裕のある方であればシートのカスタムを視野に入れてもいいかもしれない。もしくは純正でハイシートをラインナップしてくれるよう要望したいところだ。
ハンドルバーの位置も自然で扱いやすい。燃料タンクはW230がツルっとした仕上がりで、メグロS1のみニーグリップラバーが貼付されている。下半身の安定性やホールドのしやすさではメグロS1に軍配を上げたい。操縦性に関わる部分では、ここが唯一と言っていい2車の違いになる。
また、乗り心地という点ではリヤホイールトラベルが95mmとやや短め(フロントは117mm)で、筆者の体重(81kg)だと大きめの道路の凹凸を乗り越えた際に少し衝撃がダイレクトに伝わってくる感じがあった。もしオーナーになった後に気になるようだったら、リヤサスペンションまたはシートのカスタムを検討してみるといいかもしれない。
さて、コーナーなどでの操縦性の前にお伝えしたいのは、異常なほどの小回りのしやすさである。
前述のように極めてストールしにくいエンジンのおかげで安心感があり、さらに軽二輪のネオクラシックモデルとしては足まわりの減衰力がしっかりしていて接地感の抜けがなく、前後タイヤのフィーリングを感じ取りやすいことが功を奏している。最初から躊躇なく小さく曲がることができ、ちょっと慣れればステアリングフルロックのUターンも難しくない。これは最終仕様のエストレヤより18kgも軽い143kgという車重の恩恵もあるだろう。また、エストレヤ比ではフレーム剛性も下げたことが扱いやすさと軽量化に貢献したという。
街中では全く気負うことなくカーブや交差点をこなすことができ、気持ちのいいクルージングや加減速を堪能できたのだった。
旧車の雰囲気を取り込んだスポーツ性も隠し持つ
郊外の少し大きめのカーブがあるような場所でもハンドリングは基本的にニュートラルで、コントロール性のいいブレーキや落ち着きのあるサスペンションセッティングに扱いやすいエンジン特性が相まって、思った以上に気持ちのいい走りが楽しめる。常識的なペースで走っている限りは常に安心感があり、少しペースを上げるとリヤ荷重をたっぷり与えながら立ち上がり加速で気持ちよくスロットルオープンしていく醍醐味も味わえた。
トルクがあるので少し低めの回転域から使うことができ、大排気量車のような“息の長い加速を楽しむ走り”を、232ccのスケール感の中で安全に組み立てていくことができるのだ。
いわゆるスーパースポーツのような鋭さとは異なるが、前後タイヤがバランスよく曲がり、旧車のようにリヤ荷重中心でトラクション感を楽しむというスポーツ性が、W230&メグロS1には確かにあったのだった。
まとめ
デザインが良く、取っつきやすさと元気の良さを併せ持っていたW230&メグロS1。初心者には手放しでおすすめできるし、ベテランにとってもセカンドバイクとして、またメインバイクのダウンサイジングとしてしっかり購入候補に入れていい1台だと思う。
価格はエンジンの手直しなど凝ったことをしていることもあって64万3500円~になっており、GB350などと比べるとやや割高感もあるが、このフレンドリーさ極まる感じと長く愛せそうなデザインの組み合わせは唯一無二だ。
メグロS1は72万500円という価格設定だが、間近で見たときの質感は明らかにワンランク上。プレーンなデザインが好みならW230、メッキタンクの美しさに惚れたならメグロS1ということになるだろうか。
KAWASAKI W230 / MEGURO S1[2025 model]
車名 | W230 | MEGURO S1 |
型式 | 8BK-BJ230A | ← |
全長×全幅×全高 | 2125×800×1090mm | ← |
軸距 | 1415mm | ← |
最低地上高 | 150mm | ← |
シート高 | 745mm | 740mm |
キャスター/トレール | 27.0°/99mm | ← |
装備重量 | 143kg | ← |
エンジン型式 | 空冷4ストローク単気筒 SOHC2バルブ | ← |
総排気量 | 232cc | ← |
内径×行程 | 67.0×66.0mm | ← |
圧縮比 | 9.0:1 | ← |
最高出力 | 18ps/7000rpm | ← |
最大トルク | 1.8kg-m/5800rpm | ← |
始動方式 | セルフスターター | ← |
変速機 | 常時噛合式6段リターン | ← |
燃料タンク容量 | 12L | ← |
WMTCモード燃費 | 40.5km/L(クラス2-1、1名乗車時) | |
タイヤサイズ前 | 90/90-18 | ← |
タイヤサイズ後 | 110/90-17 | ← |
ブレーキ前 | φ265mmディスク+2ポットキャリパー | ← |
ブレーキ後 | φ220mmディスク+1ポットキャリパー | ← |
価格 | 64万3500円 | 72万500円 |
色 | 白×黒、青×黒 | 黒×メッキ |
発売日 | 2024年11月20日 | ← |
W230&メグロS1 のディテール
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
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