
ヤマハは、バイクの発進/変速操作を電子制御&自動化する新機構「Y-AMT」を開発し、2024年内に国内発売予定の「MT-09 Y-AMT」に搭載する。クラッチレバーとシフトペダルを廃した機構は何をもたらす?
完全なオートマチックとして走ることができ、ハンドシフト操作も可能
ヤマハは次世代シフトテクノロジー「Y-AMT(ヤマハ オートメイテッド マニュアルトランスミッション)」を6月に発表。クラッチレバーとシフトペダルを排除していることで、完全オートマチックで走らせることと、手元の操作でギヤチェンジを行うことができる。
これまでにもヤマハは、2006年にスポーツツアラー「FJR1300」向けにYCC-S(ヤマハ チップ コントロール シフト)を開発。それは油圧クラッチを自動制御しつつ、変速についてはライダーが左足のシフトペダルまたは手元のコンパクトなレバースイッチを操作する必要があった。
今回のY-AMTは、指で操作するマニュアルシフト、または2モードのフルオートマチック制御を可能とする電子制御技術だ。つまり、クラッチ制御だけでなくシフト操作もオートで行われ、モードを切り替えることでライダーによるマニュアル操作も可能になるというもの。クラッチと同時に制御されるということは、クイックシフターよりもスムーズかつ素早いギヤシフトが可能になるのは間違いないだろう。
Y-AMTは、同じくマニュアルトランスミッションをベースとしながら油圧作動のYCC-Sシステムと異なり、2つの電動アクチュエータによってクラッチユニットとシフト機構を制御。また、ライドバイワイヤの電子制御スロットル(YCC-T)と併用することで、よりスムーズなギヤチェンジやクルーズコントロール機構、切り替え可能なライディングモードなども統合制御することが可能になっている。
システムの重量はわずが2.8kgだといい、“コンパクトな車体設計フィロソフィーはそのままに、エンジン幅をいたずらに広げることなく、マシンのハンドリングやパフォーマンスを維持できる”と明言しているのもヤマハらしい。
オートマチックシフトモードは2つ。街乗りやツーリングといったノーマルな使い方に馴染む『D』と、よりスポーティなギヤシフトに制御される『D+』、これに(搭載する車種によるだろうが)パワーモードやトラコンなどの各種電子制御、今後搭載される機種によっては電子制御サスペンションなどが統合制御されるはずだ。
価格は+10万円以内?
国内で7月に実施されたオンライン発表会では質疑応答もあり、走行性能などについても言及された。
まず、このY-AMTを最初に搭載する機種として発表されたのはMT-09 Y-AMTだが、今後についてはMT-09系の並列3気筒マシンをはじめ、MT-07系の並列2気筒マシンへの搭載も明言された。このほかにもヤマハは『複数の計画がある』としており、Y-AMTの市場への普及次第で多機種への展開も見えてきそうだ。
MT-09 Y-AMT
Y-AMTを用いたMT-09の0-400m加速は10.9秒だといい、888cc/120psのエンジン性能を考えればかなりのもの。ライダーがマニュアル操作で毎回これと同じフル加速を再現できるかといえば、それ相応のスキルが求められそうだ。
チェンジペダルについては完全に排除されており、オプションとしての設定もなし。シフト操作をするレバー型スイッチは材質やフィーリングにこだわったものだという。
Y-AMT搭載による価格上昇は「大幅ではない」としており、ホンダEクラッチの+5万円、DCTの+10万円を意識したものになりそうだ。ちなみに、燃費については通常のマニュアルトランスミッションと同等だそうだ。
シフト操作は左手側のシーソー型スイッチで行う。『+』ボタンを人差し指で引くように操作してシフトアップ、親指で『-』ボタンを押してシフトダウンできる。ATモードでの走行中も操作で介入が可能だ。
ヤマハ最新のスイッチボックスと大きく変わらず、システムのシンプルさとコンパクトさがうかがえる。
ホンダEクラッチ/DCT、BMWのASAと何が違う?
気になるのは、相次いで登場しているホンダEクラッチやDCT(デュアルクラッチトランスミッション)、さらにBMW・R1300GSアドベンチャーに搭載予定のASA(自動シフトアシスト)といった機構とどう違うのか。今わかっている情報を表にまとめてみた。
| Y-AMT | YCC-S | DCT | Eクラッチ | ASA | |
| クラッチレバー | なし | なし | なし | あり | なし |
| シフトペダル | なし | あり | オプション | あり | あり |
| ハンドシフト | あり | あり | あり | なし | なし |
| 自動変速 | 可能 | 不可 | 可能 | 不可 | 可能 |
| マニュアル変速 | 可能 | 可能 | 可能 | 可能 | 可能 |
| AT限定免許 | OK | OK | OK | NG | OK |
| メカニズム | MTベース | MTベース | DCT専用 | MTベース | MTベース |
| 搭載機種 | MT-09 | FJR1300AS | アフリカツイン ほか多数 | CB650R CBR650R | R1300GS |
| 発売 | 2024年内 | 2006年 | 2010年 | 2024年 | 未発表 |
ホンダDCTはクラッチユニットを2つ備えた専用の機構を持ち、メリットは非常に素早くスムーズな変速が可能なこと。複雑な機構で重量的には不利、かつ価格もそこそこ上昇(10万円程度)してしまうのがデメリットと言えるだろうか。
それ以外はマニュアルトランスミッション機構をベースとしており、いずれもクラッチを自動制御するが、Eクラッチはいつでも手動操作で介入できるのが他の機構との大きな違いだ。いずれもマニュアル変速は可能になっており、自動変速についてはY-AMTとASAが可能。メリットは機構が比較的シンプルで廉価にしやすいことだが、全てに共通するようなデメリットはこれといってない。メーカーやシステムによって自動変速の可/不可がある点や、シフトペダルの有無などをどう解釈するか、といったところだろう。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(メカニズム/テクノロジー)
いまや攻めにも安全にも効く! かつてはABS(アンチロックブレーキシステム)といえば「安全装備」、トラクションコントロールといえば「スポーツ装備」というイメージを持っただろう。もちろん概念的にはその通[…]
油圧ディスクブレーキだけど、“油(オイル)”じゃない いまや原付のスクーターからビッグバイクまで、ブレーキ(少なくともフロントブレーキ)はすべて油圧式ディスクブレーキを装備している。 厳密な構造はとも[…]
[A] 前後左右のピッチングの動きを最小限に抑えられるからです たしかに最新のスーパースポーツは、エンジン下から斜め横へサイレンサーが顔を出すスタイルが主流になっていますよネ。 20年ほど前はシートカ[…]
ミリ波レーダーと各種電制の賜物! 本当に”使えるクルコン” ロングツーリングや高速道路の巡航に便利なクルーズコントロール機能。…と思いきや、従来型のクルコンだと前方のクルマに追いついたり他車に割り込ま[…]
3気筒と変わらない幅を実現した5気筒エンジンは単体重量60kg未満! MVアグスタはEICMAでいくつかの2026年モデルを発表したが、何の予告もなく新型5気筒エンジンを電撃発表した。その名も「クアド[…]
最新の関連記事(ヤマハ [YAMAHA])
RZ250の歴代モデル 1980 RZ250(4L3):白と黒の2色で登場 ’80年8月から日本での発売が始まった初代RZ250のカラーは、ニューヤマハブラックとニューパールホワイトの2色。発売前から[…]
ライバル勢を圧倒する抜群のコーナリング性能 ’80年代初頭のヤングマシン紙面には何度もRZが登場しているが、デビュー当初のRZ250の実情を知る素材としてここで選択したのは、’80年11月号に掲載した[…]
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外[…]
デザイナーの“眼”は何を捉えたか? 今回紹介するのは、ただのロゴ入りTシャツではない。なんと「数々のヤマハ車を手掛けてきた車体デザイナー本人が描き下ろした」という、正真正銘のデザイナーズスケッチTシャ[…]
50ccクラスは16歳から取得可能な“原付免許”で運転できるほか、普通自動車免許でもOK バイクを運転するための免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大[…]
人気記事ランキング(全体)
悪質な交通違反の一つ、「無免許運転」 今回は無免許運転をして捕まってしまったときに、軽微な違反とはどのような違いがあるのか紹介していきます。 ■違反内容により異なる処理無免許運転の人が違反で捕まった場[…]
6999ドルで入手したバイク「VOGER」、ハーレーよりでっかい箱で到着! タンクの中が明るいぞ! 彼女を乗せたらどこに足を置けばいいんだ? ヘッドカバーがプラスチック?! アメリカの人気YouTub[…]
充実してきた普通二輪クラスの輸入モデル この記事で取り上げるのは、日本に本格上陸を果たす注目の輸入ネオクラシックモデルばかりだ。それが、中国のVツインクルーザー「ベンダ ナポレオンボブ250」、英国老[…]
進化した単気筒TRエンジンは5%パワーアップの42psを発揮! トライアンフは、2026年モデルとして400シリーズの最新作×2を発表した。すでにインドで先行発表されていたカフェレーサースタイルの「ス[…]
バッテリーで発熱する「着るコタツ」で冬を快適に ワークマンの「ヒーターウエア」シリーズは、ウエア内に電熱ヒーターを内蔵した防寒アイテム。スイッチひとつで温まることから「着るコタツ」として人気が拡大し、[…]
最新の投稿記事(全体)
500km/hの速度の鉛玉も防ぐ! SHOEIがキャリーケース事業をスタートする。これまでに培ってきたヘルメット製造技術を活かした新規事業で、GFRPを用いた質感と堅牢性、強固なフレーム構造による防犯[…]
機能美を実現したナップス限定ビレットパーツが登場 カワサキZ900RSは、最高出力111ps/8500rpmを発揮する水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ、948ccエンジンを搭載したネオクラシ[…]
バッテリーで発熱する「着るコタツ」で冬を快適に ワークマンの「ヒーターウエア」シリーズは、ウエア内に電熱ヒーターを内蔵した防寒アイテム。スイッチひとつで温まることから「着るコタツ」として人気が拡大し、[…]
知られざる黎明期の物語 最初の完成車は1903年に誕生した。シングルループのフレームに搭載する409cc単気筒エンジンは、ペダルを漕いで勢いをつけてから始動させる。出力3psを発揮し、トランスミッショ[…]
充実してきた普通二輪クラスの輸入モデル この記事で取り上げるのは、日本に本格上陸を果たす注目の輸入ネオクラシックモデルばかりだ。それが、中国のVツインクルーザー「ベンダ ナポレオンボブ250」、英国老[…]
- 1
- 2












































