1960年代にホンダが立ち上げた海外生産拠点を源流とする台湾のキムコ。スクーターのイメージが強い同社だが、バギー(ATV)やサイドバイサイドといった4輪のオフロードビークルも手かけている。今回体験したこの乗り物は、バイクとクルマのいいとこどりだけに終わらない、独自の世界観を持っていた!
●文:ヤングマシン編集部(マツ) ●写真:森近 真/CIMAX ●外部リンク:キムコジャパン
じつは人気ラーメン店より身近な乗り物?!
キムコの4輪バギーが今、日本で売れているという。我々バイク乗りにはスクーターのイメージが強いが、現在、キムコの日本でのビジネスは2輪と4輪が半々の割合で、5年前に日本導入を開始した4輪バギーが破竹の勢いで伸びているそうだ。
そんなキムコ製バギーのメディア向け試乗会が千葉県印西市の「CIMAX 東京バギー村」で開催された。バギー村? そうなのだ。近年、アウトドアブームで4輪バギーをアクティビティとして体験できる施設が急増中。すでに日本全国に100施設ほどが存在するという。調べてみたらこの数字、外国人にも大人気のラーメン店「一蘭」の86店舗よりも多くて驚いた。
そして、そのうちの約70施設にキムコ製の4輪バギーが導入されているという。聞くと、中国製などノーブランドメーカーの4輪バギーを使用していたアウトドア施設が、車両故障をきっかけにキムコ製バギーに入れ替える例がとても多いそうなのだ。
その理由をキムコジャパンの統括部長・平井健三さんは「ノーブランドメーカーの4輪バギーはそもそも耐久性の低いものが多いうえ、部品が入手できないことがほとんどで、故障しても修理ができません。キムコは信頼性はもちろんですが、日本に大規模なパーツセンターを持っているため、2輪/4輪ともに純正部品の即納率は90%以上。アフターフォローも万全です」と語る。
今回、試乗してみてよく分かったが、4輪バギーはとてもハードに使われることも多い乗り物だ。水たまりでスタックすれば、脱出するまでタイヤを空転させながらエンジンをブン回し、駆動系やサスペンションは泥水に浸かったまま稼働を強いられる。ドロドロになったらなったで高圧洗浄機でガンガン水洗い。ヤワな作りではすぐ壊れて当然だ。
それでいてパーツ供給もなく、修理もできないとくれば…。そんなノーブランド車両に懲りたバギー施設が信頼性とアフターフォローでキムコを選んでいるというわけ。じつはキムコ、某国産メーカーのATVをOEM生産していることもあり、信頼性はお墨付きと言っていい。
そもそも海外では農場や牧草地などで使われる車両で、日本ではナンバー登録が出来ない。“公道を走れないのに誰が買うの?”という感覚に陥りがちだが(自分もそうでした)、世の中、意外なところに需要があるものだ…なんて思いつつ、日本でも売れ筋という150cc空冷単気筒の2WDモデル「MXU 150X(59万4000円)」にまたがる。
ライディングポジションはバイク。しかしやっぱり明確に違う
スロットルはグリップを回すのではなく、親指で押すレバータイプ。さらに右膝の前には前進↔ニュートラル↔後進を切り替えるシフトレバーが存在する。そんな操作系の違いはあれど、鞍型のシートにまたがり、バーハンドルに手を伸ばす感覚はほぼバイクと同じだ。
しかし、またがってもバランスを取ったり、足を着く必要がないからか“あ、これは2輪ではない乗り物だ”と直感的に理解できる。「曲がる際はハンドルを切る。バイク乗りは体重移動で曲がろうとしがちなので注意」と試乗前にレクチャーを受けたが、この感覚からか、ハンドルを切る操作には違和感なく馴染むことができた。
ゆっくり走り出すと、エンジン回転が上がってから速度が上昇するCVTらしい加速感と、サスストロークがさほど多くないような、路面の凸凹を受けてゆすられる乗り心地が印象的。全体的に動きがややモッサリしているというか、スポーティーな見た目よりも実用車っぽいな…というのが動き出しの印象だ。
しかし速度を出すと印象が変わってきた。CVTのモッサリ感も気にならなくなってくるし、路面の凹凸に煽られつつも、4輪ならではの安定性でそれを気にせず突き進める万能感がある。「オレ、道なき道を突き進んでるぜぇ〜」的なワイルドさに浸れるのだ。おお、こんな楽しさがあるのか。
もっとペースアップしてみたくなり、事前にレクチャーを受けた通りにシートから腰を浮かしてスタンディングを試してみる。この状態で身体を安定させるにはニーグリップが重要なのは2輪と同じで、タンクを挟み続けていた膝の内側は、試乗後はわずかに痛みを感じるほど赤くなっていた。
そのぐらい、しっかりニーグリップして走りに集中したくなるぐらい面白いのだ。速度が上がった状態でのハンドルやスロットル操作への反応はなかなか鋭いと思うが、スタンディングするとその鋭さを楽しめる余裕が出てくるようで、つい撮影を忘れて操縦にのめり込んでしまう。
ズバッとハンドルを切ればアンダーステアが出るが、そこからスロットルを開けると徐々に後輪が巻き込んでオーバーステアに転じる。そこでカウンターを当ててドリフト状態を維持…。文字にするとえらくカッコいい走り方を、万年ビギナーの筆者もなんか出来たっぽい気分にさせてくれるのだ。乗り手に対する懐が広いというか、素人もその気にさせてくれる床上手(表現失礼)というか…。
この感覚、2輪でもかつて味わったことがあるな…と思い返すと、ヤマハTWをフラットダートで乗った時の印象に近いのだった。テールスライドしても安心なこの感覚は、さほど多くないサスストロークや、車格に対してファットでボリュームあるタイヤに共通のフィーリングなのかもしれない。
今回試乗したMXU 150Xはディファレンシャルギヤを装備せず、駆動輪の後輪は左右直結なので、コーナリング時はリヤタイヤを滑らせ気味にした方が気持ちよく曲がれる気がした。この感覚はやはりデフのないレーシングカートに通じるかもしれない。常にデフロック状態みたいなものだから、片輪が浮き気味になってもトラクションはしっかりかかり、前に進むのがこれまた楽しい。
また、最初に体重移動は不要と言ったが、左に曲がると遠心力で身体が右に持っていかれるので、上体はややインに入れてあげたほうがスムーズに曲がれる。これは内輪の浮き上がり抑制にもなる…と書いた通り、内輪は割と簡単に浮くのだが、その際、慌てて足を着こうとするのは厳禁。出した足が後輪に巻き込まれる危険性があるのだという。
そんなこともあってスピードの出しすぎは禁物だが、一般的なユーザーがアクティビティとして楽しむ分にはゆっくり走らせるだけで十分に面白いハズ。自然の中をトコトコ散策すればいい気分転換になるし、ストレス発散にもなるだろうと思う。
泥沼を“ヒャッハー!!”と楽しめる
そして今回は、タイヤが完全に水没するほど深い泥沼にも挑戦することができた。この“ぬたぬたコース”は東京バギー村の名物らしく、試乗会関係者からの“行かなきゃオトコじゃないぜ”的な圧力?に屈して挑んだのだが、こんな場所すらあっさりクリアする、走破性の高さを見せつけたいんだろう…と予測していたところ、思いっきり普通にスタックしてしまった(笑)。
4駆ならともかく、今回のMXU 150Xはリヤ2輪駆動。ぬたぬたの泥にハマり、後輪が空回りしてにっちもさっちも行かなくなったのだが、こういう場合はリバースギヤで少し後退して再び前進するとか、身体を前後に揺すってトラクションのきっかけを作るなどで、少しずつ前進させるのが正しい脱出方法らしい。基本スロットルは開けっ放しなので、後輪はスピニングし続けており、盛大に泥を跳ね上げて人間はドロまみれになる。
最初こそ「勘弁してくれぇ〜」とか思ったものの、いちど泥人形になる覚悟をキメてしまえば、あとはもう笑いしか出てこない。スロットル全開で漕ぎ漕ぎしながら泥沼を抜けたときの爽快感は「ヒャッハー!!」である。そういえば、北斗の拳の悪役達もこんな乗り物を愛用してたっけ(笑)。関係者一同による泥沼への誘いは、4輪バギーのもっとも痛快な遊び方を伝えたい…ということだったようだ。
2輪より圧倒的に低いハードル
2輪でもぬたぬたの泥沼にあえてハマり、それを漕ぎながら脱出…という遊び方はできるだろう。が、筆者はそれをヒャッハーと楽しめるほどのスキルを残念ながら持っていない。泥まみれになって何度も転び、体力を使いはたしてボロボロになり「もう帰りたい…」と泣くのがオチだ。
つまり4輪バギーは、泥沼スタックを楽しむようなディープなオフロード遊びを、2輪よりはるかに低いハードルで楽しませてくれる乗り物だ。2輪より圧倒的に転びにくいから、小難しいテクニックはとりあえず不要。それでいて享受できる楽しさは2輪と比べても大差がない。そもそも土の上を走るのはどんな乗り物だって楽しいが、とっつきやすさで言えば4輪バギーに勝るものはなさそうだ。子供が乗るともう大はしゃぎなのだそうで、体験施設が急増しているのもうなづける。
さらにバギー試乗は手ぶらOK的な気軽さもウリで、東京バギー村ではノーヘルでも体験可能。ライダー目線だと違和感もなくはないが、バイクのことなんか知らない層にこのライトさは魅力だろうし、2/4輪に関係なく、動力付きの乗り物の面白さを体験してもらう機会としてはアリだと感じる。人気ラーメン店よりも身近な4輪バギー、ぜひ試食…でなく、試乗してみてはいかがだろうか?
KYMCO MXU150X・車両解説
近々導入予定のスポーツモデル
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