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日本メーカーの成績不振が騒がれるMotoGPだが、数年前からGPレースそのものの人気に陰りが見えはじめていた。ラウンド数の多いスペインやイタリアでの観客減少は深刻で、日本GPでも以前のような観客動員は見られない。そんな中、F1の興行主であるアメリカのリバティメディアが6820億円でMotoGPを買収するというニュースが流れた。
●文:Nom(埜邑博道) ●写真:Honda, Red Bull, Yamaha
スーパースター不在とコロナ禍により観客減少
四輪レースの最高峰であるフォーミュラ1(F1世界選手権、以下F1)の興行主であるアメリカのリバティメディアが、MotoGPの主催者であるドルナスポーツ(以下ドルナ)からMotoGPシリーズを45億ドル(約6820億円)で買収することに合意したという報道を聞いて(見て)驚いた方も少なからずいらっしゃるでしょう。
ただ、ドルナがMotoGPを売りに出しているという話は数年前から関係者の間で囁かれていたことで、その話を聞いていた筆者は「ついに決まったか」という感想でした。
二輪の最高峰レースであり、いまや最高速350km/hオーバーを記録するほど劇速になったMotoGPクラスのスリリングなバトルなど、バイクファンならだれもが夢中になるエンタメ・コンテンツですが、近年、レースの観客数は年を追うごとに減少しているそうです。
昨年、ドイツのザクセンリンクでは史上最多の23万3196人が集まり、フランスでも27万人の観客数を記録していますが、以前は超満員が当り前だったスペインやイタリアでは大幅に観客が減少。ヨーロッパのほかのサーキットも同じような状況とのこと。
そのきっかけは、超スーパースターであったヴァレンティ―ノ・ロッシの引退にあるという説が有力です。実際、ロッシがなかなか勝てなくなったあたりから観客数の減少傾向が始まり、レース関係者はロッシが引退した後のことを真剣に憂慮するようになっていました。
そして、2021年、ヤマハファクトリーを離れ、サテライトチームのペトロナス・ヤマハに移籍して苦戦を強いられたロッシは、そのシーズン限りで引退を表明。ロッシとともに、サーキットのスタンドを埋めていた黄色い集団がその姿を徐々に消すことになっていきました。
また、2020年にコロナ化の影響でレース数が減少し、なかには無観客での開催などもあったことも(もてぎの日本GPも中止でした)、MotoGPの観客減少に拍車をかけたのは間違いありません。
そして、もうひとつ大きな原因と言えるのは、ロッシの後を継ぐスーパースターが不在なこと。今シーズンからグレシーニ・ドゥカティに移籍したマルク・マルケスも2020年の腕のケガ以降、数度の負傷により満足なレースができないシーズンを続けたのに加え、昨年まで所属していたレプソル・ホンダチームのRC213Vの戦闘力不足が重なって、往時の勢いを見せていません。
サーキットを黄色く染め上げたロッシ。
2013年、とんでもないヤツが現れた! とMotoGPファンを驚愕させたマルク・マルケス。
ロッシ、マルケスという絶対王者がいなくなったMotoGPクラスは、まさに群雄割拠の時代になり、毎レース誰が勝ってもおかしくないような展開に。これもいいように受け取れば、毎レース激しいバトルが繰り広げられる面白い展開なのですが、悪く言えばドングリの背比べでレースを支配する絶対の強者=ヒーロー不在の時代になってしまったのです。
観客の減少を食い止めるために、ドルナも土曜日に決勝レースの半分の周回のスプリントレースを実施するようにしましたが、それも回復の決定打にはならず、冒頭の買収劇が起こったのです。
さらに深刻な話ですが、レース関係者の話では、このMotoGPのみならず、スーパーバイク選手権(WSBK)含め(もちろん全日本選手権も)、世界中のロードレースでビジネスとして採算が取れているものはないはずとのこと。これは、転倒すれば大ケガをするリスクのあるバイクのレースを敬遠する人(特に女性)が増えているからで、非常に根源的な問題だといいます。
さらに言えば、いま世界中で売れているバイクを見ても、レースベースマシンとなるようなスーパースポーツは主流ではなくなり、アドベンチャーバイクやネオクラシックが人気を集めています。
レースが隆盛だった頃は、売れているバイクもスーパースポーツで、自分が乗っているバイク(あるいは近い存在)がサーキットを疾走する姿に熱狂していたものです。
そういういくつかの話を重ね合わせると、MotoGPの売却話にも納得がいくのではないでしょうか。
F1を超人気コンテンツにしたリバティメディアの手腕に期待大!
ただ、これまでMotoGP参戦を完全否定していたBMWが、MotoGPのレギュレーション(排気量が1000ccから850ccになり、100%持続可能燃料を使用)が変更される2027年からの参戦を検討しているというポジティブなニュースもあるにはありますが、現時点では人気がそんな下降傾向のMotoGPを、なぜリバティメディアは大枚をはたいて買収したのかと疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
リバティメディアがF1を手中に収めたのは2016年。以来、F1の人気は右肩上がりで伸びていて、同じく売上も右肩上がり。観客動員数もうなぎのぼりで、一例を挙げると昨年のオーストリアGPは3日間で36万人を動員したそうです。また、2013年に観客数20万人を切ってから右肩下がりだった鈴鹿の日本GPも2022年に再び20万人に復活しています。
この成功のきっかけになったのは、Netflixで2019年から配信されているF1のドキュメンタリーシリーズの「Formula 1:栄光のグランプリ」(原題:Formula 1:Drive to Survive)と言われています。レース自体やタイトル争いだけではなく、各ドライバーの内面に迫ったり、ドライバーの後ろ側にいるチームやスタッフ、家族にもスポットを当て、F1の世界で起きているさまざまなことを物語風に編集している点がモータースポーツファン以外にも好評を呼び、現在はシーズン6まで放映中です。
筆者もこの原稿を書くために観てみましたが、確かにこれまでのレース映画にはなかったような作りに興味を惹かれました。
この栄光のグランプリがアメリカで大ヒットした(各シーズンで5000万時間視聴されているそうです)のが、現在のF1人気の原動力になっていて、同時にそれまでは参入がなかったアマゾンやグーグル、オラクルといったアメリカのテック系企業がスポンサーになったのだそうです。
これにより、アメリカで空前のF1ブームが起き、それが世界に広まったということです。アメリカと言えば、先日、ホンダが2026年からAston Martin Aramco Cognizant Formula One Team(アストンマーティン・アラムコ・コブニザント・フォーミュラ・ワン・チーム)にパワーユニットを供給しF1に参戦することを発表しましたが、これもアメリカでのF1人気が大きく影響しているはず。
ホンダにとって非常に重要なアメリカマーケットでF1が人気になっているなら、市販車の販売促進のためにも参入すべきだという判断なのでしょう。
話は戻りますが、アメリカで起こったF1ブームをひとつのきっかけにして世界中でF1ブームを巻き起こしているリバティメディアは、MotoGPの人気をどうやって回復するのかに興味津々です。
栄光のグランプリのようなドキュメンタリー番組をMotoGPを舞台に製作するのであれば、それはぜひ見てみたいと思う方が大勢いるでしょうし、モータースポーツファン以外の方のMotoGPレースへの興味も喚起してくれるはず。
いまなら、悩めるホンダ、ヤマハの内幕もぜひ覗いてみたいと思います。
買収の正式発表は、4月15日に決勝が行われるアメリカGPの前に行われるとのこと。MotoGPがどう変わっていくのか、とても楽しみです。
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