
近年では、ドゥカティを筆頭とする欧州勢が積極的な姿勢を示している。とはいえ、2輪の世界でV4を初めて実用化し、このエンジンならではの強さと面白さを世界に知らしめたのは、日本のホンダだったのだ。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 ●外部リンク:ホンダコレクションホール ※記事内の展示内容はリニューアル前のもの
V4にかける情熱
現代の2輪メーカーで最もV型4気筒エンジンに力を入れているメーカーと言ったら、多くの人が真っ先に思い出すのはドゥカティだろう。同社のV4レーサーは近年のMotoGPとSBKで圧倒的な活躍を収めているし、市販車の世界では、スーパースポーツ、スポーツネイキッド、アドベンチャーツアラー、クルーザーという4つのカテゴリーに、V4エンジン搭載車を投入しているのだから。
市販は行われなかったけれど、ドゥカティ初のV4エンジン搭載車は1960年代前半に開発されたアポロ。排気量は1257ccで、冷却方式は空冷。
ただし1980~1990年代の2輪業界では、V4=ホンダと言っても過言ではなかったのだ。と言っても当時はヤマハやスズキもV4を手がけていたのだが、ホンダのV4にかける情熱は尋常ではなかった。具体的な話をするならホンダのV4は、TT-F1/F3やスーパーバイク、耐久レースなどで数々の栄冠を獲得し、市販車では400~1100ccまで、幅広いラインアップを展開していたのである。
1983年以降のホンダは、プロダクションレースに投入するワークスレーサーの主軸を並列4気筒→V型4気筒に変更。当初の車名はRS、FWSだったが、1985年以降はRVFを名乗るようになった。
ちなみに、2輪における4ストV4エンジンの歴史を振り返ると、1930~40年代にはイギリスのAJS、1960年代中盤にはドゥカティ、1970年代後半にはヤマハが、各車各様の試作車を手がけていた(AJSのV4は市販されなかったものの、レースには参戦)。とはいえ、2輪の世界でV4を初めて実用化し、このエンジンならではの強さと面白さを世界に知らしめたのはホンダだったのだ。
1977年にヤマハが公開したYZR1000は、耐久レースへの参戦を前提にして生まれた4ストV4のプロトタイプレーサー。なお当時のヤマハは、GP500用の4ストV4も開発していた。
当記事ではそんなホンダV4の中から、2023年夏の取材時にモビリティリゾートもてぎ内のホンダコレクションホールに展示されていた、5台の車両を紹介しよう。
VF750Cマグナ[1982]
クルーザーのVF750Cマグナは、V型エンジン愛好者が多いアメリカでの成功を念頭に置いて生まれたモデル。1987年、1994年に大幅刷新を受け、北米市場では2003年まで販売が続いた。
ホンダV4市販車の先陣を切ったのは、1982年春に発売が始まった兄弟車、アメリカンのVF750CマグナとヨーロピアンツアラーのVF750Sセイバー。今になってみると、どうしてそこから?という気がするけれど、当時のスーパースポーツは過渡期で定番的なスタイルが存在しなかったし、V4エンジンだけでも十分な革新性は示せるので、まずはオーソドックスなネイキッドから、という路線をホンダは選択したのではないかと思う。
マグナとセイバーの後輪駆動はシャフト+ギア式。一方でスポーツ志向のVF750Fシリーズは、軽量で二次減速比の変更が容易なチェーン+スプロケット式を採用。
VF750F[1982]
VF750Fの最大の特徴はV4エンジンだが、スチール角パイプフレームやフロント16インチ、リンク式リアサスペンションなども、当時としては画期的な要素だった。
1982年末に登場したVF750Fは、新時代のTT-F1/耐久/スーパーバイクレースのベース車にして、既存のCB-Fシリーズの地位を継承したモデル。同時代のライバルだったスズキGSX750E4やカワサキGPz750、ヤマハXJ750E/Dのエンジンが、昔ながらの空冷並列4気筒だったことを考えれば、水冷V型4気筒を搭載するVF750Fが、いかに先進的な存在だったかが理解できるだろう。
初期のホンダV4は、カム駆動がチェーン式、クランク位相角が360度だったものの、後にギア式/180度に変更。ただし1988年以降のレーサーレプリカ系は、クランク位相角が360度だった。
VFR750F[1986]
日本での人気はいまひとつ奮わなかったが、スポーツツアラーとしての資質が評価され、VFR750Fはヨーロッパで絶大な人気を獲得。
1985年にデビューして750ccの世界に新風を巻き起こした、スズキGSX-R750やヤマハFZ750といったライバル勢に対抗するため、1986年になるとホンダのV4ナナハンスーパースポーツはVFR750Fに進化。外観からは判別できないものの、このモデルのフレームは当時としては画期的なアルミツインスパータイプで、V4エンジンにはコスト度外視のカムギアトレインを導入していた。
スイングアームは両支持式。VFRシリーズがプロアームを採用するのは、400は1987年からで、750は1988/1989年から。
VFR400R[1989]
スポーツツアラー的な雰囲気だった1988年型以前とは異なり、1989年型VFR400Rはレーサーレプリカ然としたスタイルを採用。後輪はセンターロック式。
現代では考えられないが、1980~1990年代の日本の4メーカーは、750ccクラスとほぼ同等の姿勢で開発した400ccレーサーレプリカを数多く販売。1989に登場した第3世代のVFR400Rは、当時の全日本TT-F3選手権で驚異的な強さを発揮したワークスRVF400のレプリカで、シリンダーヘッドの構成や各部の素材は異なるが、基本的な方向性は同時代のVFR750R/RC30と同じだった。
スポンジマウントのタコメーター+水温計、取り外しが容易なスピードメーターは、当時のレーサーレプリカの定番。
NR[1992]
ワークスレーサーとは異なり、市販型NRはセンターアップマフラーを採用。外装類はカーボン製で、前後ホイールはマグネシウム合金。
1992年に300台が限定販売されたNR750は、他のホンダV4シリーズとは完全な別物。楕円ピストン+気筒当たり8バルブを採用するこのモデルの起源は、世界GP500用として開発されたワークスレーサーだが、直接的なベースは1987年のルマン24時間耐久参戦車のNR750だ。余談だが、ドゥカティが1994年に発売した916の生みの親であるマッシモ・タンブリーニは、スタイリングという面で、このモデルからの影響を受けたことを公言していた。
形式はV4だが、NRのエンジンはV8に相当する資質を備えていた。上方に設置されたスロットルボディの吸入口は、各気筒2個ずつの計8個。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
カワサキZ1系:1973~1978 1973 900super4 (Z1) 初期型となる’73年型。北米向けは橙×茶の「火の玉」のみだが、欧州仕様は黄×緑の通称 「イエローボール」も設定。長いリヤフェ[…]
FLHRロードキング[2002年式] ハーレーダビッドソンが1999年に満を持してリリースしたツインカムエンジン。従来(エボリューション)までのワンカム構造を改め、カムシャフトを2本配置。伝統のOHV[…]
Vmaxと同時期にアメリカンカルチャーから発想したマッチョスポーツ! 1985年、ヤマハがアメリカはカリフォルニアの現地でデザインしたVmaxは、アメリカならではのクルーザーやチョッパーのバイクカルチ[…]
ガレージで眠っているマシンを引っ張りだそう! 今後の展開も期待されるポテンシャルの高さが魅力 コンストラクターの手によるオリジナルフレームを用いたシングル&ツインレースが流行した1990年代、オーヴァ[…]
北米市場の要請を受け2スト専業から脱却 ’50年代中盤に4スト単気筒車を手がけたことはあるものの、’52年から2輪事業への参入を開始したスズキは、’70年代初頭までは、基本的に2スト専業メーカーだった[…]
最新の関連記事(ホンダ [HONDA])
RVF400参戦でV4パフォーマンスに優れたハンドリングと闘えるトラクションが加味され最強に! ホンダのV型4気筒戦略がスタートしたのは1982年。 VF750系に続いてVF400系も加わり、当初は高[…]
「走る」を変える次世代の相棒 一般的なガソリンバイクが燃料を燃焼させてエンジンを駆動するのに対し、電動バイクはバッテリーに充電した電気でモーターを回して走行する。そのため、排気ガスを一切排出しない、環[…]
ピカイチの快適性を誇り、タンデムユースも無理ナシ ようやく全日本JーGP3の開幕戦が近づいてきて(記事制作時)、最近はバイクに乗るトレーニングもスタート。 筋力が増えたことで、これまで苦手だった車種で[…]
メーカーメイドのカフェレーサー ’74年末から発売が始まったCB400フォア、通称ヨンフォアは、’60~’70年代に世界中でブームとなった、カフェレーサーを抜きにして語れないモデルである。カフェレーサ[…]
コスパも高い! 新型「CUV e:」が“シティコミューターの新常識”になる可能性 最初にぶっちゃけて言わせてもらうと、筆者(北岡)は“EV”全般に対して懐疑的なところがある者です。カーボンニュートラル[…]
人気記事ランキング(全体)
ミニカーとは何かがわかると登録変更のハードルもわかる まず「ミニカー」とは、法律上どのような乗り物として扱われるのか、基本的な定義から押さえておく必要がある。実はこれ、道路交通法上では「普通自動車」扱[…]
昭和レトロの世界が広がる神奈川県『中古タイヤ市場 相模原店』 昭和の夏休みって、どんなでしたっけ? 朝はラジオ体操に行って、午前10時頃からは仮面ライダーやウルトラマンの再放送。昼は学校や地域のプール[…]
2025年6月16日に83歳になったアゴスティーニのスペシャル仕様 MVアグスタは欧州で、同ブランドが2025年で創立80周年を迎えるとともに、Agoことジャコモ・アゴスティーニ氏が83歳の誕生日を迎[…]
ガレージで眠っているマシンを引っ張りだそう! 今後の展開も期待されるポテンシャルの高さが魅力 コンストラクターの手によるオリジナルフレームを用いたシングル&ツインレースが流行した1990年代、オーヴァ[…]
初心者からベテランまで、老若男女だれもが一日中楽しめる オフロードバイクさえあれば、初心者だろうとベテランだろうと、老若男女だれもが一日中楽しめるフリーライドイベントとして企画されたのがエンジョイライ[…]
最新の投稿記事(全体)
冷たさが最大16時間続く、ピーコックの持ち運べる氷のう 炎天下の休憩で火照った体を一気にクールダウンさせたい。そんな時におすすめしたいのがピーコックの「アイスパックシリーズ」だ。 アイスパックは、創業[…]
初心者向けの溶接機は? 「初心者ですが、溶接機は何を買えばいいでしょうか?」そんな質問をいただくことが、最近増えています。折れたステーの修理から始まり、フレーム補強やスイングアーム自作、極めつけがフレ[…]
8月上旬発売:Kabuto「AEROBLADE-6 ADACT」 軽量コンパクトなフルフェイスヘルメットで、99%の紫外線と74%赤外線を軽減する「UV&IRカットシールド」を装備する。これによってヘ[…]
カワサキZ1系:1973~1978 1973 900super4 (Z1) 初期型となる’73年型。北米向けは橙×茶の「火の玉」のみだが、欧州仕様は黄×緑の通称 「イエローボール」も設定。長いリヤフェ[…]
FLHRロードキング[2002年式] ハーレーダビッドソンが1999年に満を持してリリースしたツインカムエンジン。従来(エボリューション)までのワンカム構造を改め、カムシャフトを2本配置。伝統のOHV[…]
- 1
- 2