
●文:Nom(埜邑博道)
定率割引が片道100kmから80kmに……匍匐前進だが半額への道に一歩近づいた!
普通車の半額を目指して業界、各党のオートバイ議連が要望を続けているバイクの高速道路料金の是正。
車重の軽さ(=道路への攻撃性が低い)、乗車定員が最大2名である、道路専有面積の小ささなど、誰がどう考えても普通車より、さらにバイクと同料金の設定になっている軽自動車よりも安くなってしかるべき高速道路料金が、根本的な是正がされないまま年月が過ぎています。
その間、料金の是正=普通車の半額(軽自動車の8分の5)が適正だとする要望側と、値下げしたくない国との間で丁々発止のやり取りが行われてきて、2017年にはETC車限定で土日・祝日に普通車の半額料金になる「ツーリングプラン」が導入され、さらに2022年4月1日からは土日・祝日ETC車は普通車の半額料金になる「定率割引」が導入されました。
とはいえ、ツーリングプラン/定率割引ともに事前に面倒な申し込み手続きが必要だったり、自分の走りたいルートが用意されていなかったり(ツーリングプラン)、片道100km以上の走行が必要だったり、土日限定だったり(定率割引)とどちらも使い勝手に難ありでした。
この件について、自民党オートバイ議員連盟の座長である三原じゅん子議員にインタビューをした際には、「普通車の半額は、ライダーの要望の1丁目1番地。必ず達成します」と力強くおっしゃっていただき、期待を膨らませていました。
高速料金問題は自民党PTの1丁目1番地。12年かかって一歩進んだと思います 2022年4月3日からスタートした“ETC二輪車定率割引”。土日祝日限定/事前に専用サイトで自分のETC機器を登録/片道10[…]
また、昨年の11月には公明党オートバイ懇話会が二輪業界の要望を聞く場が設けられ、そこで業界側から定率割引の3つの問題点を解消して欲しいとの要望が行われました。
3つの要望の内容は、①必要とする走行距離の低減(100kmの撤廃、あるいは30kmへの低減)、②土日・祝日は普通車も休日割引があるため、実際の割引率が普通車の半額になっていないことの解決(割引率はわずか7.5%)、③GWやお盆などの大型連休中の平日も割引の適用日にして欲しい、というものでした。
この3つの要望を受けた国交省の担当者は、「現在、定率割引の利用状況のデータを分析中で、みなさまのご意見を聞いて来年度(2024年度)以降について考えていきたいと思う」と述べ、2024年度からの改善に期待を持たせました。
公明党オートバイ懇話会と、二輪業界関係者。中央で要望書を持つのが懇話会北側会長(向かって右側)とオートバイ政治連盟の吉田会長(向かって左側)、その左隣はAJの大村会長。 定率割引の改善を公明党オートバ[…]
その後、今年の2月に自民党オートバイ議連会長の相沢一郎議員と話をする機会があり、定率割引について逢沢議員も「いつでも普通車の半額が最終目標。適用される走行距離ももっと減らさないといけないと思っている」とおっしゃっていました。
そんな状況の中、2月29日にオートバイ政治連盟の吉田純一会長が、斉藤鉄夫国土交通大臣に定率割引の条件緩和を求める要望書を提出。結果的に、この要望の中にあった「100km以上の走行距離の撤廃」という項目について、100kmから80kmへの20km低減という前進があったということです。
吉田会長に話を伺うと、斉藤大臣はこの要望に対して非常に歯切れが悪い反応で、国交省から相当プレッシャーをかけられていた様子だったと言います。どうしても現状維持をしたい国交省の強い意思が働いていたのでしょう。
とはいえ、3月15日に斉藤大臣自ら100kmから80kmへの走行距離の低減、またこれまで1日ごとの申し込みが必要だったのに対し、2024年は2日または3日間の連続利用の際も1回の申し込みで利用できるようになったことを発表しました。
いったいいつになったら普通車の半額になるのか?
この牛歩のような歩みの遅さについて筆者が投稿したSNSに対して、批判的なコメントがいくつか書き込まれました。
それらは、「面倒な割にお得感がないし、システムを作るコストをかけるより通行料を下げて使用頻度を増やした方がいいはず」、「半額まであと何年かかるのか。その間に高速道路を利用する高齢ライダーがいなくなってしまいそう」、「お金を集めるのには努力するけど、出費を減らすには努力しないという体質」というものでした。
なぜ、ここまで国交省はこの問題に対して頑ななのか。誰しも疑問に思うことだと思います。おそらく、収支に関しても、高速道路料金が現在よりも安くなれば、高速を使用するライダーは確実に増加すると思われますから、減少よりも結果的に増収になる可能性が高いはずです。とても賢い官僚の方々ですから、そんな試算はとっくの昔にできているはず。
以前はシステムを改修しないと二輪だけの料金にするのは不可能で、費用が数千万円必要とのことで国が対応を拒否していたことがありましたが、それもツーリングプランや定率割引の導入で容易にできることがバレバレになっています。
ただ、国交省が、「二輪車はいつでも普通車の半額」に踏み切らない要因がひとつあると関係者は言います。
それは、道路政策を話し合う有識者審議会「国土幹線道路部会」で以前から高速道路の車種区分について検討されていて、1989年から変わっていない車種区分を見直そうという動きが出てきていることだそうです。
その背景には、この30年で軽自動車と小型自動車が大きく重くなり、総排気量や車両重量が増加し、さらに重量が重い電気自動車やハイブリッド車も普及。これらの点で、「軽自動車等」に含まれる自動二輪車と軽自動車との差も拡大しているということがあるそうです。
確かに、安全装備の充実などで乗員含め700kg~1トン程度になった軽自動車と、乗員込みでも200~350kg程度の二輪車では大きな重量差が生まれています。また、バッテリーを大量に積載する電動車(普通車)は同クラスのガソリン車よりも200~500kg重いとされ、道路の損傷云々の観点から電動車の高速料金が普通車と同じでいいのかという議論もあるようです。
そこで、国土幹線道路部会は、利用の変化を踏まえ、「普通車から大型車・特大車までの車種間の不公平感が生じないような区分とすることが重要」と答申しており、これに基づき海外の例も考慮しながら今後見直しがなされる見込みとのこと。その際に、現在の「軽自動車等」の区分から「二輪車」という独立した区分ができる可能性があるらしく、その際に料金も二輪独自のもの(普通車の半額になる?)が設定される見込みと言います。
そして、どうもその車種区分改定は、今年中~来年にも決定する可能性があり、それも踏まえて国交省はいま二輪の高速料金を大幅に改定するのをためらっているのではという見方があるようです。
とはいえ、業界側もさらなる高速料金改定への動きを止めることはなく、前出の吉田会長によると来月には自民党オートバイ議連二輪車問題対策PTが開催予定とのことで、そこで改めて二輪車の高速道路料金についても議論が交わされることでしょう。
4月1日からツーリングプラン、6日から定率割引がスタート
ということで、今年は3月15日にNEXCO各社などが発表した4月1日から開始される全22コースの「ツーリングプラン」と、4月6日から適用になる必要走行距離が80kmになった「定率割引」を利用してツーリングを楽しむことにしましょう。
とくに、たかが20km必要距離が減っただけですが、実際に高速道路図を見るといままでは適用されなかった場所・エリアに行く際に定率割引を利用することができるようになりました。
二輪車定率割引の対象区間は、NEXCO3会社(※一部対象外の道路あり)および宮城県道路公社の管理道路からなる。
例えば、東名高速の東京ICを起点とした場合、これまでは沼津以遠まで行かなければいけなかったのが、御殿場ICでもOKとなって箱根や富士周辺に行くのが便利になりました。これ以外でも、ご自分で希望エリアを選んで高速道路図で出発IC~到着ICまでの走行距離を調べると、これまで適用外のために行かなかった場所が選択できるようになっているかもしれません。
また、申し込みに関してこれまでの1日ごとから2日または3日連続でもまとめて申し込みができるようになったので、連泊のツーリングの際などは少し便利になっています。
定率割引に関する詳細は、下記リンクを参照してください。
そして、最大2日間または3日間、対象エリアの高速道路が定額で乗り降り自由になる「ツーリングプラン」は、全22コースが用意されました。
行きたいところがコースにないなど、使い勝手が悪いとも言われているツーリングプランですが、こちらは平日も適用されますから土日がお休みではない方も利用できますね。
こちらの詳細は下記リンクをご参照ください。
手続きはこちらから: NEXCO東日本「ドラ割」 NEXCO中日本「速旅」 NEXCO西日本「みち旅」(申込サイトトップ)
筆者も、この4月から「距離縛りはなしで、いつでも普通車の半額」が実現することを強く願っていたので、今回の発表で肩透かしを食ったような気分ではありますが、千里の道の一歩からという言葉を思い出して、この先の進展を願うことにします。
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