モビリティの運用について、学校教育現場はどう考えるべきなのか。長年バイク通学を許可し、学内で原付免許が交付され、バイクの部活「二輪車競技部」があることでも知られる熊本県立矢部高等学校の緒方宏樹校長に尋ねた(第2回)。(※以降、敬称略)
●文:ヤングマシン編集部(田中淳磨)
故意の違反には生徒指導。生徒はSDカードを取得し、違反や事故がわかる仕組み
学校安全計画のもと、生徒が様々な危険に対して考えて行動できるよう教育 ――バイク通学許可の高校が多い熊本県ですが、その中でも矢部高校の特徴について教えてください。 緒方:他の高校と比べると山間部にある[…]
――矢部高校での交通安全への取り組みはどのような指導なのでしょうか?
緒方:基本的には全体を集めて交通指導担当がやることが多いです。
――運転実技の講習と車両の点検は年に何回くらい行うのですか?
緒方:実技指導は4月と7月など、点検は学年の始めと学期の始めにバイクに乗って来てもらって行います。ビデオを使った安全運転ルールに関する座学もあって、各学期に1回ずつは指導があります。今どきバイクを改造する生徒はあまりいないのですが、中古車が多いので、タイヤのすり減りやブレーキの不備が多いようです。
――実技の運転講習を教えているのは、二輪車競技部や警察ですか?
緒方:生徒指導部の交通担当の先生が中心となり、二輪車競技部の監督(外部)と連絡を取って日程を合わせます。監督が来られない場合には、競技部の生徒が教えています。生徒が生徒に教えるというのは、他校にはないですね。また、元白バイ隊員の方とかがたまに来ることもあって、「協力したい」と言ってくれますね。
――3月の東京モーターサイクルショーでは、競技部の生徒が近隣他校の講習会に指導の手伝いに行くという話も出ていました。県立高校的に、部活動で他の学校に生徒が教えに行くという事例はあるんでしょうか?
緒方:あまりないと思いますね。そのように特化しているものが少ないですから。近隣の高校もバイク通学生は多いので、そこは頭を悩ませているところかなとは思います。しっかりとルールを守って安全な運転ができている、レベルが高い生徒たちに指導してもらうことで、大人が教えるよりは意識を変える効果が高いと思います。
――他の県立高校は講習をどれくらいやっているのでしょうか?
緒方:私の以前の赴任先(大津町)でもバイク通学生が多く、年に2回白バイ隊員が来てくれて、学校敷地内で行ってくれました。菊池市の県立高校では、ホンダの交通教育センターレインボー熊本のインストラクターにお願いして、生徒の自費で講習会をしてもらったそうです。
――矢部高校では実技講習をどこで行っているのですか?
緒方:協力してくれている民間企業の駐車場でやったこともありましたが、今は二輪車競技部の校内練習場が多いですね。
――通学時の事故やトラブルはどれぐらいありますか?
緒方:2023年は、葉っぱか枝を踏んでの転倒が1人、2022年はあわや死亡事故という被追突事故がありました。部活帰りの暗い時間、右折しようと右側に寄っていたら、後ろから来た車に追突されてしまったという事故で、7月頃、夏休みの1週間前くらいでした。数年ぶりの大きな事故でしたが、たいていは単独転倒です。今の生徒は、転倒の大小に関わらず、ほぼちゃんと報告してくれます。そこは我々も把握したいので、「ちゃんと報告してね」と伝えています。
――事故や違反にペナルティはあるのでしょうか?
緒方:単独転倒の場合にはペナルティはありません。故意の違反などは生徒指導の対象になります。最近は交通違反も少ないですが、たまにあるのはスピード違反ですね。レーダーに捕まったりとか。
――生徒が地域の警察から取り締まりを受けた場合、警察署から連絡はあるのでしょうか?
緒方:青少年育成に関する連携があるので、小/中/高校と警察署は連絡交換ができるようになっています。本校では生徒にSD(セーフドライバー)カード*を取得してもらいますから、報告されていなかった違反などはカード取得時に分かります。(続く)
*SDカード:自動車安全運転センターが発行しているカード。無事故/無違反証明書または運転記録証明書を申込み、証明日以前に1年以上事故/違反等の記録がない場合に、証明書とともにSDカードがもらえる。SDカード優遇店で様々な優遇が受けられる。スマホアプリもある。
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