
モビリティの運用について、学校教育現場はどう考えるべきなのか。長年バイク通学を許可し、学内で原付免許が交付され、バイクの部活「二輪車競技部」があることでも知られる熊本県立矢部高等学校の緒方宏樹校長に尋ねた。(※以降、敬称略)
●文:ヤングマシン編集部(田中淳磨)
【熊本県立矢部高等学校校長:緒方宏樹さん】1965年生まれ。担当教科は農業で、矢部高校は初任以来2度目の勤務となる。高校生の時に原付免許を取得し、年末年始は郵便局で年賀状集配のアルバイトをしていた。また、若い頃にはマウンテンバイクにものめり込み、2輪に親しんだ。
学校安全計画のもと、生徒が様々な危険に対して考えて行動できるよう教育
――バイク通学許可の高校が多い熊本県ですが、その中でも矢部高校の特徴について教えてください。
緒方:他の高校と比べると山間部にあるので、交通手段の確保が難しいんです。そういう意味では、昔からバイク通学が当たり前にあった地域なので、バイクに乗ることに抵抗感はないかなと思います。ただ、多少なりとも事故等々はあるので、そこをどう捉えるかですね。熊本市街に近づくほど、基本的に“乗らせない/取らせない”という傾向が強く、郡部に行くほど「交通手段として大事だね」というところはありますね。
――そういった特性をふまえて、矢部高校の教育方針、特に安全教育における考え方や活動概要について教えてください。
緒方:本校では“乗せて指導する”というやり方をずっと続けています。最近はバイクの免許を取りたい生徒には取らせるという方針です。基本的には通学だけということが多いですが、普段の生活も含めてバイクという交通手段をいかに活用するかを指導しています。授業としては難しいのですが、ホームルームなど特別活動の一部として、交通に関して教えています。
学校経営案の中に「学校安全計画」を立てており、交通安全のほか、生活上の安全と防災関係も含めています。熊本地震や水害もあって、本校も敷地の一部が土砂災害の危険区域になっています。安全教育に関しては、色々な場面で生徒が危険に対して考えて行動できるよう教育を行っています。
そういった一連の計画のなかに、交通も入っています。たとえば、4月の「安全な通学について」に始まり、課外/個別指導などで自転車/バイクの通学許可/登校指導/通学状況調査など、各月ごとに何かしら交通に関する取り組みを行っています。
――他の県立高校と比べて、安全教育の内容は濃いのでしょうか?
緒方:そう思います。私もいくつかの学校を回ってきましたが、交通関係は多いですね。バイクにまったく関係のない高校はそういう教育が少ないのが現状です。
――矢部高校の生徒は事故や違反が少ないとか、マナーが良いとか、そういう傾向はありますか?
緒方:免許を取っている割合は格段に多いので、事故や違反の数だけを見ると、一定量はあると思います。単純に本人の不注意によるものや、もらい事故もあります。まったく免許を持っていないところはほぼゼロになるので、それからするとバイクに乗せているぶんだけリスクはありますが、それにしては少ないと思います。
――他の学校や教育委員会からはどういう見方をされていますか?
緒方:あまり知られていないかもしれませんが、他県の学校の先生に取り組みについて聞かれたり、高専や専門学校から規約を教えてほしいと言われて、内容を送ったりすることも何件かあります。新規でバイク通学を始めるという学校には参考にされているようです。
――バイク通学可能な距離が短くなったとのことですが?
緒方:生徒からの要望もあって、2023年から2km程度になりました。保護者や生徒への定期アンケートでは4kmくらいが平均でしたが、2022年に調査したところ2kmという結果もあって、現在の規定になりました。いま、校則の見直しが進んでいるという経緯もあります。
――通学申請できる距離が短くなるとバイク通学者が増えると思いますが、指導法はどうでしょうか?
緒方:基本的には免許を持っている生徒全員にバイクの点検や安全教育を行っているので、バイク通学許可を出していない生徒でも点検の時は全員がバイクに乗ってきます。実技講習会の時も乗ってくるので、受講者数は今まで通りですね。(続く)
明治29年に開校し、矢部実業補習学校から数えると今年で128年目を迎える。「自ら気づき考え行動する」が教育スローガンだ。
バイク置き場は、壁面や屋根もある立派な造りだ。ナンバープレートベースや各部のステッカーから、同校の生徒であることがひと目でわかる。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([連載] 2輪車利用環境改善部会)
EVは脱炭素社会実現と移動課題の改善に寄与するか 「バイクラブフォーラムin南国みやざき」で実施されたパネルディスカッション、「電動二輪車利活用による社会課題(脆弱な二次交通)解決」において、次のトー[…]
100万都市・千葉市のバイク駐車場問題 上総台地の平坦地に位置する千葉市は、人口98万人強の大きな自治体で、現在も増加中であることから「最後の100万都市」とも呼ばれている。 高度経済成長期には大規模[…]
原付バイク安全運転スキルアップ講習会について 本講習会は原付バイクに特化した安全運転講習会で、原付利用者の交通安全意識と安全運転技能の向上を図り、交通事故を防止しようという狙いで2024年から開始され[…]
熊本市繁華街、バイク駐車場の実態 熊本一の繁華街である下通(しもとおり)商店街の周辺を歩いたが、目につくのは自転車駐輪場への125cc以下の受け入れが進んでいること。とくにアーケードから1本入った路地[…]
講習で学ぶカーボンニュートラルと電動モビリティの関係 今回の電動二輪車技術・安全運転講習会は、バイク通学の実施や「二輪車競技部」の部活動で知られる熊本県立矢部高等学校の生徒を対象に行われた。 循環型社[…]
人気記事ランキング(全体)
コーデュラ(R)ユーロ3Dメッシュジャケット:プロテクションと通気性を両立 ライダーの安全と快適を追求した一着。腕部分には耐摩耗性に優れたコーデュラ(R)素材を採用。万が一の転倒時にもダメージを軽減す[…]
運を味方につけたザルコの勝利 天候に翻弄されまくったMotoGP第6戦フランスGP。ややこしいスタートになったのでざっくり説明しておくと、決勝スタート直前のウォームアップ走行がウエット路面になり、全員[…]
ホンダ GB350S カスタムコンテストが欧州で開催 ホンダが欧州で開催した正規ディーラー向けカスタムコンテスト「Honda Garage Dreams Contest」で、スペインのHONDA MO[…]
SHOEIは、2025年5月9日に東本昌平のイラストをSNSで公開。このとき「WYVERN(ワイバーン)」を被っているライダーが唐突に現れたことから、もしや復活ではとの噂が立ったが、2025年6月2日[…]
25SJ-1 レザージャケット:普段使いもスマートに決まる、大人のレザージャケット ふだん使いにも最適な、シンプルでスタイリッシュなレザージャケット。バイクに乗る際はもちろん、街着としてもコーディネー[…]
最新の投稿記事(全体)
“主婦向けスクーター”がゴールドラッシュに バイクが売れに売れた1980年代の日本。近年の2輪車販売台数が年間約40万台前後で推移しているのに対し、当時はその数300万台以上。俗に言う日本の「バブル期[…]
スズキは、8月1日(金)から3日(日)に三重県鈴鹿サーキットで開催される「2025 FIM 世界耐久選手権“コカ·コーラ” 鈴鹿8 時間耐久ロードレース 第46回大会」に参戦する「チームスズキCNチャ[…]
免許制度は基本、ヨーロッパで共通 イタリアのバイク事情を現地からお届けするコラム「Vento Italiano」(イタリアの風)第2回。今回はイタリアの自動車運転免許制度について紹介していきます。 と[…]
3種のグレードそれぞれに専用カラー カワサキモータースジャパンは、前18/後16インチホイールを履くロー&ロングフォルムなミドルクラスクルーザー「エリミネーター」シリーズの2025年モデルを発表した。[…]
イベントが盛りだくさん! ドゥカティオーナーであるドゥカティストや、ドゥカティファンを対象としたお祭り『DUCATI DAY』が2025年も開催された。 会場である千葉県木更津市にあるポルシェ・エクス[…]
- 1
- 2