今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回は言わずとしれた名車、カワサキのZ1について、このマシンに精通するバイクショップ・GPクラフトの田畑革氏に話を伺った。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 ●取材協力:GPクラフト
カワサキ 900スーパー4 Z1:Z1乗りの”夢”を実現するGPクラフト
空冷Zシリーズを得意とするショップでは、ノーマルスタイルを重視したり、往年のAMAスーパーバイクレーサーが念頭にあったり、現代的な足まわりを推奨したりと、何らかの主張を感じることが少なくない。そして取材当日のGPクラフトに入庫していた空冷Zシリーズは、ノーマルか当時風カスタム…という雰囲気の車両が多かったものの、仕様は千差万別だった。
「ウチのモットーはお客さんの夢を実現することですから、こういう方向性でなくては、というこだわりは特にないんですよ(笑)。最近はほとんどやっていませんが、排気量を1100cc以上に拡大し、前後17インチのハイグリップタイヤを履くフルカスタムも、過去に何台か製作したことがあります」
実際に調子が悪い空冷Zを所有するオーナーから修理の相談を受けたら、同店ではどんな対応をするのだろう。
「まずは目視で各部を点検して、次にエンジンをかけて音を聞いて、その後は可能であれば試乗をします。そこからどんな整備を行うかは、車両のコンディションやお客さんの予算によりけりですが、どの車両でも私が重視するのはブレーキ。フロント用のマスターシリンダーとキャリパーは、たいていの個体で内部の摩耗が進んでいるので、シール類を交換しても、本来の性能は回復できません。だからウチでは新品への交換が定番になっていますし、品質の高さを考えて、ディスクはサンスターを推奨しています」
GPクラフトの充実設備
旧車専門店では、旋盤/フライス盤/溶接機/研磨機/サンドブラストマシンなどを目にすることが珍しくないけれど、GPクラフトにはそれらに加えて、さまざまな機械/設備が存在する。
「ウチの設備の一番の自慢は、やっぱり油圧を用いて歪みや曲がりを解消するフレーム修正機です。ただしこの機械は作業者のスキルが問われるので、導入にあたっては相当な勉強が必要でした」
カワサキ 900スーパー4 Z1:整備を行う順序は車両の状況や予算次第
点検によって問題が発覚した場合は、どういう順序で修理を行うのだろう。
「それも、車両のコンディションとお客さんの予算次第です。もちろん予算に余裕があるなら、すべての問題をイッキに解決するのが理想的ですが、なかなかそうは行きませんからね。例えばシリンダーヘッドをOHするとなったら、バルブとガイドはすべて新品にしたいところですが、予算的に厳しい場合は両方、あるいはガイドを再利用して、シートカットとステムシールの交換のみを行うことがあります」
当記事を読んで空冷Zシリーズを購入しようという人がいたら、田畑さんはどんなアドバイスをするのだろうか。
「ウチに来て修理中の車両を見ていただくのが一番ですが(笑)、他店やネットオークションなどで購入する場合は、機械的な問題はなかなか判断しづらいので、現時点で動いている車両を選ぶのがいいと思います。逆に言うなら、長い間動かしていなかった車両は、乗り始めてからいろいろな問題が起こりやすいんですよ。また、中古車の購入時には誰もが“掘り出しモノ”を探したくなりますが、もはや空冷Zシリーズの掘り出しモノは存在しないので、世間の相場より価格が安い場合は、それ相応の問題があると考えたほうがいいでしょう」
ちなみに、空冷Zに興味津々でも、特定のモデルにこだわりがないお客さんに対して、田畑さんがオススメすることが多いのは’77~’78年型Z1000。その主な理由は、シリーズで最も重いクランクシャフトを主因とする低速トルクの太さと、Z1000Mk IIほどではなくても、Z1よりは安定性が高いシャシーだが、Z1やMk IIより中古車価格が安いことも、もちろんZ1000ならではの魅力である。
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