丸山浩独白“青春をもう一度!” 試乗して確かめる、絶版バイクの最新事情【現代ではありえない、当時の個性を楽しむ】

今のバイクではあり得ない振動、サウンド、匂い──。現代には再現しがたい絶対的な個性を持つ絶版旧車には、“あの頃”の青春が詰まっている。本記事では、ヤングマシンのメインテスターである丸山浩氏が、RZ350/GSX1100Sカタナ/CB750フォアに試乗しつつ、現代の絶版車のあり方について考察した。


●文:ヤングマシン編集部(沼尾宏明) ●テスター:丸山浩 ●写真:関野温 ●外部リンク:バイク王つくば絶版車館

黎明期ゆえに各社の個性を凝縮した原石

35度に迫る灼熱の太陽の下、僕は暑さを忘れ、ヘルメットの中で自然とニヤけていた。今のバイクではあり得ないサウンドに振動、そして匂い…バイクに一番ワクワクしていた「あの頃」が克明に甦ってきたからだ。

僕がバイクに乗り始めたのは’80年、16歳の頃だ。高校の教室では皆でバイク雑誌をひたすら回し読みして、Z400FXが最高峰と言われていた。しかし’81年、「実はRZ250の方が凄い」と噂になり、「これから免許取る人は2ストロークに乗っちゃだめだよ」と忠告されていた。そこに350が登場して、これはヤバイという話になった。出たばかりのRZ350を買った友人がいて、「乗れるの? スゲェ!」なんて皆で盛り上がったものだ。

当時味わったRZ350の走りは特に鮮烈に残っている。あの振動と弾ける高回転パワー。そして2ストならではの甘い排気ガスの香りが、風向きによって自分に返ってくる。

今回用意された試乗可能な旧車はRZ350/GSX1100Sカタナ/CB750フォアの3台。いずれも模索状態のまま開発された当時の最高峰マシンだ。「TZレプリカをつくってみた!」「大排気量ビッグバイクをつくってみた!」、そんな初めての熱量に溢れたバイク達は、各メーカーがシノギを削る以前の原石。結果それが味になり、個性が色濃く刻み付けられた。ある意味アンバランスさが味であり、凄さにつながっている。

当時はともかく、現代の目から見れば実際の速さも大したことはない。だが「速さ感」は今も圧倒的。それだけで僕には十分、価値がある。バイクってこれでいいんだよな、と。

さらに、音/振動/匂いなど走りに「変化」が多い。それだけでもうアトラクションに乗っているみたいだ。

対して現代のバイクは速度感がないのに、物凄いスピードが出ていたりする。車体、足まわりも安定し、電子制御まである。人間の感覚を飛び越えた地点で技術革新しているのだ。

旧車はアナログな人間の感覚に近い。人間が把握できないパワーを電子制御で感じ取れなくするぐらいなら、旧車のようにさほどパワーがなくてもいいんじゃないか、と思える。

さらに言えば、現代のバイクはどれも似通っている。それはパワーと技術を追求してムダを省いた結果。しかし、それは仕方のないことだ。

メーカーにとって技術とは逆行できないものであり、排ガスや騒音規制も厳しくなった。旧車そのものの味わいを現代に再現することは不可能に近い。

旧車は技術が未熟だったゆえの産物ながら、どれも現代のバイクでは体験できない味わいに満ちている。それがたまらなく愉快で、懐かしい。

後に乗ったCB750フォアも4気筒がバラけたエンジンフィールとサウンドがたまらなかった。明らかに車体よりパワーが上回っているから、直線ならいいけどコーナーでは「曲がりきれない!?」と思わせる凄さがある。

絶版旧車は贅沢な「旅行」。思い出と金銭があればこそ

「じゃあ昔のバイクは最高なんだ!」という単純な話ではない。

絶版旧車は価格が高騰しており、特にコロナ禍が始まったここ数年でより値が釣り上がった。これは爆発的にライダー人口が多かった’80年代バイクブーム世代が、いかに当時の貴重な車両を求めているかを物語っている。

しかし旧車の品質は千差万別。開きがありすぎるため、高いか安いかは乗って付き合わなければいけない。

その上、旧車はどうしてもグズるし、いいコンディションを保つのは非常に困難だ。今回のようなチョイ乗りならまだしも通勤や普段使いは厳しい。「アトラクション」と前述したけど、通勤にアトラクションは困るはずだ。

たとえばキャブセッティングひとつ取っても、満足がいかない場合、完調に持っていくには相応の金額がかかるだろう。旧車でパーツが手に入らない場合はワンオフで製作する場合もザラ。同じく高騰している時計のロレックスと旧車は似た感覚があるけど、旧車は維持や整備にもとにかく膨大なお金がかかる。

カタナは、CB750フォアと比べるとエンジンが洗練されている。とはいえ現代の直4と比べれば断然荒々しい。そして当時から思っていたけど、何よりライディングポジションが独特すぎる。この制限の多さは現代ではありえないレベルで、今の僕でも手強さを感じる。だけど、それが味になっていて楽しい。

旧車は、贅沢な「旅行」のようなものだと僕は思う。金に糸目をつけず、昔訪れた思い出の海外にもう一回行ってみるようなものだ。だから当時乗っていて思い出がある人にこそ価値がある。なおかつ懐にも余裕が必要だ。その二つの条件を満たした人には、ぜひ旧車をお薦めしたい。僕個人としては、レストアや状態の維持にコストがかかるのを知っているし、思い出のためなら決して高くない買い物と思える。旅行と違って、モノも残せるからだ。

しかし、思い出のない若者が周囲から「昔の人がRZは凄いぞ」と言われ、感化されて買うのはやめておくべきだ。いくら乗りにくくても思い出があれば“アバタもえくぼ”で済むけど、思い出がなければ「なんだこのバイク?」で終わってしまう可能性がある。

古いバイクに興味がある若い人や、昔の思い出はあっても財政状況に余裕がないライダーの方がもちろん多数派だ。そういった人は無理せず、旧車のスピリットを受け継ぎながら、万人に乗りやすく、最新の技術で磨かれた現代のネオクラシックに乗ったほうが絶対、幸せになれると僕は断言したい。

近年バイクメーカーが力を入れている「ネオクラシック」というカテゴリー。かつて人気を得た自社のレジェンドバイクのデザインを、現代の技術でリバイバルする。


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