ホンダ「ダックス125」のメディア向け試乗会が開催され、注目のマシンに初試乗。ダックスフンドをイメージした胴長短足スタイルや、それを実現した独自のプレス鋼板によるT型バックボーンフレームなど見どころいっぱいだ。9月22日の発売を前に、存分に走り回ったぞ!
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:ホンダ
乗り手に寄り添うダックス125
ホンダから満を持して登場した「ダックス125」の乗り味は、とても普通だった。そう言ってしまうと、つまらないバイクなのかと思う人もいるかもしれないが、けっしてそんなことはない。
ライダーとバイクの関係性を主従で言うなら、ダックス125は徹底して“従”だ。モンキー125のように元気さをアピールしてくることもなく、スーパーカブC125のように高級感を主張することもない。CT125ハンターカブのような『コイツは走りそうだ!』という気配を醸し出すわけでもない。エンジンやブレーキ、サスペンションといった構成部品がそれぞれにバランスよく働き、ライダーの意思に忠実に従う。乗り手の気分に寄り添ってくれるバイクなのだ。
ダックスフンドをイメージした「ダックスホンダ」が登場したのは1969年で、その鋼板プレスを用いたT型バックボーンフレームは、バイクらしい機能部品を徹底的に隠し、余計な主張をしないことを目指していたという。そのスタイリングを踏襲しながら、現代の感性で作り上げられたのが新型「ダックス125」である。
2020年の秋頃からヤングマシンでは新型ダックス登場の気配をとらえ、5速ミッション搭載か、はたまた4速+自動遠心クラッチかと予想と妄想を繰り返してきたが、2022年3月に正式発表され、ついに諸々の説に決着。スーパーカブC125と同様の新型ロングストロークエンジン+自動遠心クラッチ4速の組み合わせで登場した。発売日は当初2022年7月21日と伝えられたが、コロナ禍による諸般の事情による約2か月の延期を経て、9月22日に発売されることが改めて決定した。
混じりあう昭和と令和、温もりのある生き物のような触り心地
現行グロムにはじまる新世代の横型エンジンは、50.0×63.1mmのロングストローク設定が共通で、マニュアル5速ミッションのグロム/モンキー125(MT免許が必要)と、遠心クラッチ4速のスーパーカブC125に分けられる。ダックスは後者と同じ構成ながら、吸排気系で低中速トルクを重視した扱いやすいキャラクターに仕立てられているという。もちろん、スーパーカブC125とダックス125はAT限定免許で運転できる。
エンジンの音はホンダ原付二種シリーズの他車とほぼ同じ。温まるまでアイドリングは高めだが、落ち着いてくると「フルルルル」と柔らかく低めの回転を保つ。そこに大きな主張はないが、しっかりと目覚めて足元で待ってくれているダックスフンドを連想させる。
たたずまいは可愛らしい。いかにもモーターサイクルっぽい機能部品はなるべく露出しないように隠され、ちょこんと座っているかのよう。
またがると、シート高775mmにより足着きはよく、実測63cmと前後に長いシートは着座位置の自由度も高い。モンキー125と違って2人乗り可能な設計だが、開発者が「1.5人乗りです」と言うように、やたら広々としているわけではなく、タンデムしたらけっこうな密着度になる設定だ。家族や恋人と気軽にお出かけするのが似合うに違いない。
走り出す前に、こだわりのフレームに触れてみる。首輪をイメージしたというストライプのあたりから前方にかけて、有機的な面の繋がりを保ちながら次第にスリムになっていく。いたずらにイカツさをアピールするでもなく手になじむシンプルな触り心地は、どこか昭和の工業製品を思わせる。プレス鋼板を溶接したリブが背骨のようであり、ほどよい丸みは動物の首から背中にかけて触っているような気分だ。開発者が言う「温かみのある触り心地」「手に吸い付くような面構成」に嘘はない。
ハンドルバーに手を伸ばすと、こちらは令和の感触だ。現代的な人間工学的に基づいているのであろう、なじみやすいグリップの位置、角度、シートやステップとのバランス。身長183cmの筆者でもまったく不都合はなかった。しいていうなら、オフロード車のような自由度の高いシートではあるが、ライダー着座部分とパッセンジャー着座部分の境目あたりにシートベースの形状からクッションの薄いエリアがあるのが少し気になった。
気になることが何もないと、散歩のように景色に目がいく
ギヤを1速に入れ、自動遠心クラッチを頼りにアクセルをひねる。回転が跳ね上がる前にクラッチがそっと繋がりはじめ、静かに、そこそこ力強く発進する。こういう細かいところにも控え目で忠実な性格を感じずにはいられない。
1速からシフトアップし、2~4速までギヤがスムーズに繋がっていく。4速のまま30km/h程度まで減速してから再加速するような場面では、むずかるようなこともなくスムーズに速度を増すことができた。シフトダウンの際には自動遠心クラッチならではのテクニックを求められるが、回転とタイミングを合わせればスムーズにいく……というのは自己満足の世界か。
足まわりの設定も、一貫して忠実な性格を見せてくれた。タンデムを前提としていることもあるだろうが、サスペンションはしっかり感のある設定で、前後のどちらかが動きすぎるといったクセもない。ブレーキはコントロール性重視で、低速域から巡行域まで扱いやすい。
近しい兄弟車とハンドリングを比べてみよう。同じ12インチサイズのホイールを装備するモンキー125は、短いホイールベースとよく動くサスペンション、ワンサイズ大きいブロックパターンのタイヤによって、ややせわしない印象と元気のよさを感じさせる一方、寝かし込みに対して旋回のレスポンスは意外とおおらか。といっても曲がらないわけではなく、曲がりはじめがわずかにゆったりしているイメージだ。
ダックス125はというと、ニュートラルで動きが抑制された足まわりに、ロードパターンかつワンサイズ外径の小さいタイヤによって、安定した直進安定性と、車体を傾けた際の旋回レスポンスのリニアさが際立っている。前後タイヤのどちらかが先行することもなく、自然で安心できるハンドリングだし、ちょっと元気に走ろうと思うと、それはそれで応えてくれる。タンデム前提でやや締まった設定の足まわりがちょうどよく、コントローラブルなブレーキやニュートラルな旋回応答性によって、“そこそこスポーティ”くらいの走りが気持ちいい。
シートがフカフカしているせいもあって乗り心地はモンキー125のほうがやわらかく、ダックス125はしっかりした印象だった。
元気のよさをアピールしてくるモンキー125に対し、ダックス125はひたすらニュートラルで自然。エンジンも足まわりもライディングポジションも、気になるところや目立つところがなく“従”に徹している。
だから、周囲の景色や音、通り過ぎていく風なんかに自然と意識が向いていく。開発者は試乗会にあたって、「走りに行く」よりも「散歩」という言葉を使っていたが、まさしくそんな感じだ。イタズラしたりする心配のない忠犬と一緒に散歩したりジョギングしたりしたら、きっとこんなふうに感じるものなのだろうな……と思わずにはいられなかった。
乗り手の意思に先行しない、絶妙に躾けられた忠犬ダックス公
こうしたダックス125の忠実な性格は、エンジンや車体の反応が、操作に対して“絶妙な遅れ”をともなってレスポンスするように作り込まれていることが功を奏しているのだろう。いたずらに跳ねまわることなく必要なトルクを供給してくれるエンジン、穏やかに食いつきながらもレバーを握り込めばしっかりと制動力が立ち上がるブレーキ、コシ感はあるが硬すぎないサスペンション。すべてがライダーの感覚を追い越すことなく、絶妙に追従してくるのでとにかく扱いやすい。
飛ばさなくても楽しいし、「バイクに乗るぞ」と意識しなくても気軽に走り出せて、寄り道もちょっとしたツーリングも自由自在。もちろん、エンジンをフル活用すれば、朝の少し殺気立ったバイク通勤の群れに迷い込んだとしても、それほど気後れする必要はなさそう。いつだってダックス125はライダーの味方です、と言わんばかりだ。
初代ダックスホンダが登場した際にも、コアなバイクファンではなく気軽に乗りたい層に向けて作り込んだと聞く。当時のコンセプトの正しさを現代の技術で改めて証明したダックス125は、すでに3000台ほどを受注しており、当時を知る世代にも知らない世代にも受け入れられているようだ。
今回筆者はタンデム試乗を行っていないが、タイトルカットの谷田貝洋暁さん&にゃんばちゃん(難波祐香さん)によるレポートも後日お届けする予定。「すごくいい!」とのことなので楽しみにしていただきたい。
追記:ホンダ ダックス125のタンデムインプレッションはコチラ
HONDA DAX 125[2022 model]
主要諸元■全長1760 全幅760 全高1020 軸距1200 最低地上高180 シート高775(各mm) 車重107kg(装備)■空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ 123cc 9.4ps/7000rpm 1.1kg-m/5000rpm 変速機4段リターン(停止時のみロータリー式) 燃料タンク3.8L■キャスター24°54′/トレール84mm ブレーキF=φ220mmディスク+2ポットキャリパー R=φ190mmディスク+1ポットキャリパー タイヤサイズF=120/70-12 R=130/70-12 ●価格:44万円 ●色:赤、灰 ●発売日:2022年9月22日
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