最新技術でクラシックバイクらしさを追求する…実はこのアプローチはかなり新しいし、狙ってもなかなか上手くいかないものだ。しかしロイヤルエンフィールドのクラシック350は、単気筒らしさやイギリス旧車らしさを完璧なまでに現代に蘇らせた。本記事では峠/高速道路/市街地という主要な3つの走行シーンにおける試乗インプレッションの模様をお伝えする。
●文:ヤングマシン編集部(小川勤) ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:ロイヤルエンフィールド
【テスター:小川勤】’74年生まれ。バイク誌編集長を10年ほど経験し、’22年よりフリーに。クラシックからスーパースポーツ、市街地もサーキットも乗る。webヤングマシン姉妹サイトの「MIGLIORE(ミリオーレ)」ディレクター。
スピードや速さで語らない。感覚や気持ちよさの世界
ロイヤルエンフィールドは現在空冷エンジンだけを展開する稀有なメーカー。排ガス規制の影響から、国産の空冷エンジンは続々と生産終了の危機を迎えているが、同社は新規制対応の空冷エンジンを開発し続けている。
今回紹介するクラシック350は、’21年に登場したクルーザー「メテオ350」と同エンジンでユーロ5をクリア。350ccとは思えない豊かなトルクが持ち味で、この日はあまりの楽しさに400kmも走ってしまった。
クラシック350は9種のスタイルを展開しているが、今回はもっとも高価なクロームのレッドをお借りした。クラシックらしさを追求したディテールに心惹かれる。手間のかかった形状のフレームやエンジンのフィン/アルミバフ仕上げのクランクケースカバー/灯火類や深めのスチールフェンダーも良い雰囲気を醸している。
またがって始動すると、ロングストロークの空冷単気筒が「トットットッ」と静かにアイドリングを刻む。ブリッピングすれば「ドルルーン」と回転を上げる。そして回転の落ち方が絶妙。ゆるやかに落ちる、この感じがたまらない。
妙に座り心地の良いシートに身体を委ねて走り出すと、アイドリングの少し上の回転の力強さに驚く。スロットルを開けていくと、湧き上がるトルクに押されるようにシフトアップを繰り返し、あっという間に5速に。市街地でも高いギヤ&低回転が使いやすい。シフトタッチの良さも加速の気持ちよさに貢献。スロットルを開けた際に身体をバイクに預けやすい、大らかなポジションで風を感じながら走る。
高速巡航は100km/hが心地よいが、そこから120km/hまでの加速もパワフル。回転は高くなるが120km/h巡航も可能で、昔の単気筒では考えられないほど快適だ。国産単気筒と比較するとフライホイール(もしくはクランクウェブ)が重めで、これが巡航時の安定感を向上させている。ロングストロークにもかかわらず高回転でも力強く、350ccとは思えない鼓動を楽しむようにスロットルを開けられる。
ワインディングも痛快だった。スチール製ダブルクレードルフレームはしなやかで、φ41mmの正立フォークと2本ショックの味付けも絶妙。またクッション性の高いシートもコントロール性に貢献し、タイヤのグリップや車体の挙動を正確に把握できる。スロットル&ブレーキ操作に唐突さがなく、そこの過渡特性はとても丁寧につくり込まれている。ワインディングを楽しむコツは、市街地同様にトルクの湧き上がるポイントを逃さず、マメにギヤチェンジすること。バンク角は少ないが、クラシック単気筒スポーツの真髄をしっかりと見ることができた。
最高出力20.2ps/6100rpm/最大トルク2.75kg-m/4000rpmは特筆した数値ではない。しかしクラシック350には数値では測れない気持ちよさがある。それは目には見えないし、スペックに表せない『鼓動感』にどこまでもこだわっているからだ。
加速のたびに旧くからのイギリス気質を感じ、ノスタルジーに浸る。確かにこの低速からの粘りなどは、近代のインジェクションや点火系なしでは味わえない加速だ。でも感じさせるのは、新しさでなくクラシック。そのギャップが面白い。世界最古のバイクメーカーの真髄がここにあるのかもしれない。
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