もはや日本のほとんどのクルマに搭載されているエアバッグ。
歴史をたどるとクルマにエアバッグが搭載され始めたのは1980年代後半あたりから。そしてバイク用エアバッグの開発も意外と早く、そのわずか数年後から着手されていました。
当時はバイク本体に搭載するエアバッグの研究開発が主流であったものの、バイク転倒時はライダーがバイクから投げ出されてしまうケースが多いため、その後バイク用エアバッグの研究開発はライダー自身に装着するタイプへとシフトしていきました。
今回は、白バイ隊にも採用されているライダー用エアバッグジャケット「hit-air」を製造販売する無限電光株式会社(以下、ヒットエアー)の竹内さんと、モーターサイクルレースの世界でいち早くエアバッグを導入したイタリアのライディングウェアブランド「ダイネーゼ」を扱う株式会社ユーロギア(以下、ダイネーゼジャパン)の勝川さんに、バイク用エアバッグ普及にかける想いや今後の展望についてお話を伺いました。
●記事提供:MOTO INFO(初出2022年5月23日)
“着るエアバッグ”という製品は世の中に存在しなかった
まず、ヒットエアーの竹内さんに、約27年前となるバイク用エアバッグ開発当初を振り返っていただきました。
ヒットエアーの開発に着手した当時、まだ「着るエアバッグ」という類の製品はありませんでした。そのため、部品を調達しようにも、世に存在しないものに対して協力的な部品供給メーカーを見つけることから苦労しました。粘り強く開発を続ける中で少しずつ協力者も増え、開発着手から3年後の1998年になんとか製品化できました。
その後も販売において大々的な宣伝はできませんでしたが、実際に購入していただいたユーザーの口コミなどによって少しずつ認知されはじめ、2003年に某県警で採用されたのを皮切りに他県警からの問い合わせも増えました。
現在では46道府県の白バイ隊に導入されているほか、国内のみならず海外警察などへの導入も決定し、現在ようやくエアバッグウェアブランドとしての認知が定着しつつあります。
続いて、ダイネーゼジャパンの勝川さんにも、バイク用エアバッグ開発の経緯について教えていただきました。
2000年にワイヤレスエアバッグシステムのプロトタイプが誕生し、2007年のMotoGPでモーターサイクルレース用のシステムである「D-air® Racing」が実際に使用され、イタリアでは2011年から、日本では2014年から発売が開始されました。
2015年には一般公道で使用できるシステムである「D-air® Road」も発売されましたが、レース用とは異なり様々なケースが想定される公道走行用では、システムに求めるアルゴリズムや身体の保護範囲が異なるため、開発時には非常に苦労を強いられたことが印象に残ります。
また実際に販売の場面では、従来のケーブル式との違いをユーザーに理解していただくこと、そして製品の取り扱いに関する特殊な知識が販売側にも求められるため、どのように製品の特長を販売店側に伝えるか苦慮しました。現在ではMotoGPからウィンタースポーツまで、様々なダイナミックスポーツのアスリートたちに安全面から支持されるに至っています。
どんなに優れた機能を有する製品であっても、前例のない製品を商品化するまでの試行錯誤や、完成した後の認知拡大の苦労は相当なものだったことが両社のお話からもわかります。
“着るエアバッグ”の認知向上によって年々需要増
次に、これまでのバイク用エアバッグ普及状況や今後の展望についてもそれぞれ伺いました。
ヒットエアー竹内さんによると、近年海外大手メーカーのエアバッグウェアが一般市場に参入してきたこともあり、ライダー向けの”着るエアバッグ”はさらに認知度が上がってきているとのこと。ヒットエアーの販売個数も年々増加しており、普及率もわずかながら上昇を続けています。また、世界規模で見ると欧州を中心にエアバッグウェアメーカーが増えており、バイク用エアバッグの市場は非常に活発化しているとのことでした。
また、ダイネーゼジャパン勝川さんに同様の質問を投げかけたところ、世界全体で年間数万着のダイネーゼ「D-air®」が販売されており、日本国内では2023年までに年間3,000着を目標にビジネスを展開しているとのこと。今後は多くの企業がワイヤレスエアバッグを市場投入することでさらにユーザーが関心を持ち、より安全なライディング環境がもたらされることに期待していると語ってくれました。
実際にバイク用エアバッグを着用するライダーが増えることで安全性評価や認知度が高まり、利用者が増えればもちろん製品の機能性やコストパフォーマンスもさらに向上するという普及の加速が感じられます。
今後も進化の可能性を秘めるバイク用エアバッグ
バイク用エアバッグの着用を検討しているライダーにとって、製品の技術進化は最も気になる項目の一つと言えます。そこで両社に自社製バイク用エアバッグの特長と今後の技術進化の可能性について伺いました。
ヒットエアーの竹内さん談。
ライダーとバイクをワイヤーで繋ぐ方式を当初より採用しているヒットエアーのエアバッグシステムは、構造や使用する部品がシンプルであり、使い易さ、正確性、コスト面などにおいて多くの利点があります。ボンベを変えれば繰り返し使用できるほか、修理も全て国内工場で対応できるなど、アフターサポートの面で充実しており、将来的なワイヤレス式が普及するまでしばらくはスタンダードとして残るでしょう。
もちろん、同様の方式ながらも、作動スピード向上といった仕様改良等に加え、様々な特徴をもったモデルのラインアップ拡充とともに進化を続けていきます。
ダイネーゼジャパン勝川さん談。
ソフトウェアとアルゴリズムは、エレクトロニックコントロールユニットの核となり、センサーからのデータを毎秒1,000回検出・分析する部分は“ブレーン”と言われます。2007年からMotoGPに採用されているダイネーゼ商品のアルゴリズムは20年以上かけて開発され、最高レベルの信頼度と安全性を保証するため改良され続けています。
購入層は20歳〜65歳と幅広く、女性比率も4人に1人と高く、ツアラーやアドベンチャー、ネイキッドなど様々なタイプのバイクでご利用されています。なかでも若い方は機能性に加え価格やファッション性も気にされている方が多いです。機能進化についてはあくまで想定ですが、将来的にはシステムが事故を認識すると同時に緊急コールを発信するなどの機能が現実になるかもしれません。
かつて、安全安心機能の一つと言われたABS(アンチロックブレーキシステム)も、センシングの精度アップや部品のコンパクト化など、市場での普及に伴い急加速度的に技術進化とコストダウンが実現しました。
ライダー用エアバッグにおいても今後同様の技術進化によって、ユーザーへの普及率に比例して向上していくでしょう。
これからバイク用エアバッグの購入を検討される方へ
数年前までは商品の選択肢も少なく非常に高価だったバイク用エアバッグも、今や多くのの種類と価格帯のモノが販売されています。今後、ライダー用エアバッグの購入を検討する方のために、両社よりメッセージをいただきました。
ヒットエアー竹内さん
ヒットエアーでは現在、大まかに分類するとジャケットタイプとハーネスタイプがあります。
ジャケットタイプは肩やヒジにプロテクターを装備したジャケットにエアバッグが内蔵されているタイプで、夏用メッシュ生地やオールシーズン向けの生地など、使うシーズンによって選択肢が異なります。
ハーネスタイプは、ジャケットの上から装着するという手軽さからヒットエアーの定番ともなり、白バイ隊にも採用されています。
さらに、保護部位の面積を重視したもの、作動スピードを重視したもの、脊髄パッドを内蔵することでさらに安全性を高めたもの、軽量さを重視したものなど、ユーザーの好みに合わせて豊富にラインアップしています。
ダイネーゼジャパン勝川さん
D-air®のエアバッグシステムは、各適用分野(バイク[サーキット/一般公道]、スキー)ごとに開発されています。使用する環境や用途に合わせてそれぞれ違う形で反応し起動するよう設計されているのが大きな特徴です。サーキットから一般公道、さらにゲレンデまで、幅広いスポーツの分野での経験が今後商品にも活かされていくでしょう。
バイク用エアバッグ購入を検討されている方へお伝えしたいのは、エアバッグにも一般的なプロテクターと同様にEN規格(1621-4)があるということです。エアバッグの規格は1621-2、1621-3といった通常のリジットプロテクターとは異なる規格となりますので、購入する際はこの点にご注意ください。
※プロテクターのEN規格は、リジットタイプは背中、胸部、その他(肘や膝)の3種類に分けられており、エアバッグのEN規格には、背中、胸部が含まれる。衝撃試験(5kgの質量を0.6mの高さから落とす)を与えた場合の衝撃吸収能力を測定、合格したもの。
昨今、若年層を中心としたライディングギア選びのトレンドとしては、デザイン性だけではなく安全性にも優れた信頼できる製品を選ぶ傾向にあります。そんなライダーたちにとってバイク用エアバッグの選択肢が増えることは嬉しい限りです。
今回お話を伺った2社も日々機能進化を続けており、バイク用エアバッグの普及がすすむ最中である今だからこそ、インターネットの情報だけでは製品の機能や魅力、正しい使い方が伝わりきらないかもしれません。そのため、自身の乗り方(一般公道やサーキット走行など)に合わせて可能な限り実際の製品を試着し、販売店の意見も参考にしながら選択することが重要でしょう。
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