13年前の実験を改めて。

若者にも知って欲しい!10年以上前に行われていた世界初の実証実験「バイクに乗ると“脳が活性化する!」で出た結果とは?

●記事提供:MOTO INFO(初出2022年4月13日)

2009年3月4日に、東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授(以下川島教授)によって、世界初となる「二輪乗車と脳の活性化の関係」の実験結果(第一回目)が発表された。

東京の発表会場にはバイク関連メディアを含め100名を超える記者が集まり、発表後は新聞・雑誌などを中心に多くのメディアが本実験を取り上げた。

バイク免許の取得を検討していた多くの方の背中を押し、勇気を与えるのが、当初の目的。世界でも類を見ない実験として結果は注目されたのだが、実は様々な困難が立ちはだかったのだった。

実証実験から10年以上が経ち、若者含め新規ユーザーが増え始め遊び方も変わってきた今だからこそ改めてポジティブな情報を届けたい。そんな想いで川島教授に当時を振り返りながらお話を伺った。

今回はこの世界初となる実証実験を3回にわたって伝える企画の第一弾である。

きっかけはサービスエリアの若々しい中高年ライダー

本実験のきっかけは、某二輪メーカーのマーケティング担当者が、いつものように市場調査で高速道路のサービスエリアを観察していた時に、当時ライダーの年齢構成で多くを占める中高年ライダーがまるで少年のような笑顔で会話する姿を見て、もしかしたらバイクに乗ることによって、若々しくさせる効果があるのでは?との疑問を東北大学に持ち掛けたことから始まった。

当時、川島教授が監修したゲームソフト(脳トレなど)が日本中で大流行していたこともあり、多忙を極める川島教授への依頼はほとんど”ダメ元”であったが、なんと返答は「打合せ日程」の連絡であったのだった。

実証実験への協力を快諾していただいた訳は、後になってわかったことだが、実は教授自身、学生の頃からサーキットで走行するほどのバイク好きだったのだ。一度転倒したことで奥様からストップがかかったものの、乗りたくてウズウズしているところにこの話が舞い込み、もしかすると「バイクに乗ることが心身に良いと証明されれば胸を張って再び乗れるようになるかもしれない」と思ったそうだ。

では実際に、どのような測定方法で脳の活性化を測るのか。それは理性や記憶をつかさどる、脳の前側部分、“前頭前野”を流れる血液中に含まれる鉄分の速度を測定するという方法で行われた。

エッ!? 人の行動を制御する前頭前野の働きは20歳から降下?

エッ!? 人の行動を制御する前頭前野の働きは20歳から降下?

エッ!? 人の行動を制御する前頭前野の働きは20歳から降下? [写真タップで拡大]

川島教授によれば、

人の脳の前頭前野は、脳の中の脳とも呼ばれており、記憶や学習の他、社会生活を健全に営む上でカギとなる機能がここに宿っている。しかし、過去の様々な認知機能テスト(ヒトのこころの働きを調べるための心理学的検査)から20歳から能力が降下し始めることがわかっている。

この20歳から働きが下降し始める脳の働きを果たしてバイクに乗る事によって活性化している事を計ることができるだろうか?というのがこの実験であった。

世界で誰もやったことのない実験、果たして脳は活性化するのか

世界で誰もやったことのない実験、果たして脳は活性化するのか

世界で誰もやったことのない実験、果たして脳は活性化するのか [写真タップで拡大]

実証実験の検討を進める中で早くも問題に直面した。バイクに乗るということはヘルメット装着が必須だ。しかし、この実験が始まった当時はヘルメットに収まる小型サイズの計測器がまだ存在しておらず、その計測器の完成を数か月待たなければならなかった。

さらに問題がもう一つ、この計測器を頭に装着してその上から被れる大きなヘルメットも存在しなかった。これは偶然にも某人気横綱力士がバイクに乗ろうとヘルメットメーカーに特注した巨大なヘルメットがキャンセルされて在庫として残っていたため、それを譲っていただくことが出来たのだった。ちなみに、そのヘルメットの帽体サイズは驚愕の76cmだった…。

超大型ヘルメットの入手に成功した実証実験チームは、計測器の完成を待ちながら平行して、走行コースの手配や被験者の募集を始めた。

本実験の仮説は大きく二つ

実験1:自動二輪を運転することで、前頭前野が働くか?

実験2:生活の中で自動二輪の運転が習慣になることによって、脳機能に良い影響が現れるのか?

実験1(脳の活性化を計測)で協力して頂いた被験者は以下の通り

  1. 現役ライダー:11名(男性、右利き、平均46.8歳)
  2. 免許保有の元ライダー:10名(男性、右利き、平均45.4歳)

上記の二つのグループの被験者が必要だったのは、しばらく乗っていなかったライダーが、またバイクに乗り始めると脳がどう変化するかというのを通常バイクに乗っている被験者を基準として、同じ条件下で走行したものを比較するためだ。

彼らには、通常走行に必要なプロテクターの装着と頭には計測器の上にヘルメットを装着してもらい、安全走行を大前提としてサーキットコースの外周路バイクで走行してもらった。走行中の脳の計測データは、適宜発信され、追走するクルマでデータを受信回収したのだ。

バイクに乗ると脳は活性化していた!

世界で初めてバイク走行中の脳の活動が計測された瞬間が訪れた。

バイクに乗車すると、明らかに測定された前頭前野の血液は活性化していたのである。

具体的にはバイクに乗ることによって前頭前野を流れる血液の流れる速度が明らかに増えていたのである。また、同時に、現役ライダーと元ライダーの両被験者で脳の使い方に違いがみられる面白い結果が出たのだ。

大きく異なる点としては、現役ライダーは言語的思考を司る左脳の活動が高く理論的に走行しているのに対し、元ライダーは非言語的思考を司る右脳の活動が高く直感的な思考運転操作をしている傾向が見られた。

噛み砕いで解説すると、現役ライダーは走行中に、次にすべき操作や走行環境をある程度予測しながら走行しているのに対し、元ライダーは昔の感覚を脳の隅から引っ張り出しながら昔と同じ感覚で勘に頼った走行をする傾向が見られたのだ。 [写真タップで拡大]

そして実験2(習慣的な運転による効果)の仮説も実証された

2つ目の実証実験は、前提として免許保有者で現在はバイクに乗っていない男性11名ずつ、計2グループ22名の被験者を募集した。 [写真タップで拡大]

「生活介入群」グループは2か月にわたって日常的にバイク利用をしていただき、「対照群」グループは、そのままバイクを利用しない生活を過ごしていただいた。この両グループ被験者の開始前と終了後に様々な認知機能検査とメンタルテストを実施し、2グループの比較をするというのが実験の内容であった。

開始前と終了後の2回にわたって実施された認知機能検査というテストが非常に面白い内容なので抜粋して紹介しよう。

数唱課題

これは前頭前野機能(作動記憶力)を見るテストで、言われた数字を順に書くだけなのだが、問題が進むと、どんどん桁が増えていって5桁以上にもなると記憶が追い付かなくなる。 [写真タップで拡大]

2次元図形回転課題

頭頂連合機能(空間処理力) 即ち、頭の中で見たモノと回転させた、その処理スピードを見るテストで難しくはないが一瞬迷う! [写真タップで拡大]

配列課題

目に入った図を瞬時に正しい順番にする事でこれは前頭前野機能(論理思考力)を見るテストだ。 [写真タップで拡大]

2ヶ月の実験期間終了後、2つのテスト結果からバイクに乗る習慣を生活に取り入れた「生活介入群」グループは、「対照群」グループに対し、認知機能における明らかな改善が見られた。また心理学で良く使用されるテストも上記の認知機能テストと同様に、実験開始前と終了後に行ったところ「生活介入群」グループのメンタル面において明らかにポジティブ効果が現れていた。

こうして、第一回目の発表としては、世界で初めてバイク乗車中の脳の活性化が計測出来たこと、そして、現役ライダーとの脳の反応の違いから、久しぶりにバイクに乗る方は、勘を頼る場面が想定されるのでバイクの操作方法や特性はもちろん、より意識して、交通状況や路面状況においても様々な箇所に注意する必要があるという結論が導き出された。

さらに、バイクに乗ることを日常生活に入れることにより、認知機能にも改善が見られ、精神的な健康にプラスになるというポジティブ結果が科学的に証明されたのである。

これは画期的!すごい!とのリアクションを受けるはずだったが、「どんな乗り物に乗るのが良いのか?」「どんな乗り方が一番、メンタルヘルス的に良いのか?」と、多くの質問を頂き、実証実験は次なるステージへと進めることとなった。


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