あれよあれよという間に日本メーカーを置き去りにし、今やモトGPのトップパフォーマーになったドゥカティ デスモセディチ。もともとエンジンパワーを武器としていたが、その上で全体を基礎から徹底的に見直し、さらに独創的なアイデアを数多く盛り込んだ新世代最強マシンだ。本記事では圧巻のパフォーマンスを発揮するドゥカティに加え、KTM/アプリリアを含めた海外勢について元GPライダーの青木宣篤氏が分析する。
ドゥカティはモトGPのトレンド発信源。強さに好バランスが加わる
ここ数シーズンで完成度をどんどん高めているドゥカティ デスモセディチ。ウイングレットやライドハイトデバイスなどのアイデアをいち早く投入した攻めの姿勢が功を奏している。
しかし、ドゥカティの強みはただ”飛び道具”を振りかざすことだけではない。もっと底知れぬ何かがあって、今後しばらくはモトGP界のトレンドセッターになりそうなのだ。思い返せば’11~’12シーズン、バレンティーノ・ロッシが、それまでの独特なモノコックフレームから一般的なアルミツインスパーフレームへの方向転換を迫った。これは基礎固めとして大いに役立ったと思う。
そして’13~’20シーズン、今度はアンドレア・ドヴィツィオーゾがエンジンとハンドリングにテコを入れた。
ドゥカティはもともとエンジンのパワフルさが長所だったものの、非常に粗削りでもあった。そこにドヴィツィオーゾの指摘が入り、スロットルを開け始める瞬間にフワッと火が入るように(※あくまでもイメージ)。パワフルさに扱いやすさを加えていったのだ。
ホンダとヤマハを経験しているドヴィツィオーゾは、ハンドリングに関してもかなり口酸っぱく改善を要求。弱点だった旋回速度も徐々に高まっていった。
こうしてベースができたところに、イタリア人エンジニアのジジ(ダッリーリャ)のアイデアがうまく乗っかり、パッケージとしての完成度が高まった、というわけだ。
’21シーズンも、終盤にかけてドゥカティのフランチェスコ・バニャイアがファビオ・クアルタラロを猛追した。安定してパフォーマンスを発揮するデスモセティチの姿はとても印象的で、正直、チャンピオンを獲得したはずのヤマハYZR‐M1より強く記憶に残っているほどだ。
ドゥカティの完成度の秘密はどこにあるのだろうか。今のモトGPはテスト回数に制限があり、思うように実走テストができない。これはどのメーカーも同条件だ。だからおそらくドゥカティは、現場に持ち込むまでの間に膨大なシミュレーションを行なっているのだろう。
かつてドゥカティは、フェラーリの風洞施設で空力の開発をしたことがある。そして今のドゥカティは、フォルクスワーゲングループ傘下。グループはアウディ/ランボルギーニ/ポルシェなど錚々たる4輪ブランドを有している。だから風洞などの開発施設をドゥカティが活用している…のかもしれない。コンピュータ解析も、4輪の知見を生かしている可能性はある。
ジジという希代のエンジニアがチャレンジングなアイデアを出し、フォルクスワーゲングループのメリットを生かして十分にシミュレーションし、現場に投入する。それがドゥカティの強さを生み出しているのだとワタシは思う。
さらに’21シーズン終盤には「今、改めて」といった感じで、スリッパークラッチにまでメスを入れてきた。コーナー進入で、簡単に、かつ安定してマシンを横向きにできるよう、丹念にセッティングされている。バニャイアはこれをいち早く使いこなし、鋭い向き変えに使っているようだ。
ここまで差を付けられると、日本メーカーもドゥカティの後追いをせざるを得ない状況だ。共通ECUが導入された年には、もともとドゥカティベースのプログラムが採用されたというアドバンテージがあったのは確か。でも今は各メーカーとも共通ECUの解析や使いこなしが進んでいて、ドゥカティ有利とは言えない状況だ。
となると、やはりグループの力を結集して本気でパフォーマンスを高めているから、としか思えない。今季あたり、ついに’07年以来のタイトル奪還を果たしそうな勢いがある。
ドゥカティを追い落とす新機軸を打ち出すのは、ヤマハか、スズキか、それともホンダか…。期待したいところだ。
ドゥカティの強みはライダーの層の厚さ
ドゥカティの躍進は、ライダーたちの乗りこなしが成功しているからこそ。特にシーズン終盤、ファビオ・クアルタラロにプレッシャーをかけたフランチェスコ・バニャイアは強かった。ただし、どこが強みなのかよく分からない(笑)。シレッと速いという感じなのだが、「乗るべき位置にちゃんと乗る」ということに関しては天才的。すべての操作が丁寧で正確なのも武器になっている。
ジャック・ミラーはその逆。光るものは持っているが、ちょっと雑なところが。タイヤマネージメントに難があるのも、その雑さが災いしているから。もう少しスマートに乗れれば上向くはず。サテライトのヨハン・ザルコはちょっと波に乗れなかった。ホルヘ・マルティンは若さ爆発、今もっとも勢いのあるひとりだ。
’21シーズンは3チーム6台が参戦。’22シーズンはさらに2台が加わり、怒濤の8台体制に。豊富なフィードバックをもとにライバルを引き離しにかかる。
〈番外編〉KTM RC16:エンジンはいいが鉄フレームに難あり
’20シーズンは大きな飛躍を見せたが、おそらくスズキと同様、新型コロナ禍の変則的なシーズンで得意なサーキットでのレースが多かったからだろう。通常開催に戻りつつあった’21シーズンは浮き沈みの激しさが目立った。
エンジンの完成度はかなりのもの。地道にアップデートを続けており、特にスロットルの開け始めのマイルドさは随一だ。
ネックはやはり鉄フレーム。アルミに比べてどうしても剛性のコントロールが難しい。しかし、ジワリジワリと経験を積み重ね、力を蓄えている気配も。せっかくだから鉄フレームを使い続け、究極形を見せてほしい。
〈番外編〉アプリリア:RS-GP ニュートラルなハンドリングが強み
第12戦イギリスGPで、最高峰クラスでは21年ぶりの表彰台を獲得したアプリリアRS-GP+アレイシ・エスパルガロ。
レース序盤ではたびたび上位につけていたが、終盤にポジションダウンという展開が多かったた。しかしイギリスではドゥカティのジャック・ミラーとの接戦を制して悲願の3位となった。
エンジンパワー不足が否めないRS-GPだが、車体のデキはいい。素直に旋回し全体的にバランスが取れている印象だ。空力の開発にも積極的。コンセッション(優遇措置)適用で開発の自由度が高いというメリットを生かし、進化を続けている。
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